投資家・木村新司のビジョン、なめらかなシェアの世界と暗号通貨(後編)

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2018.6.2

(前編からの続き)これからの木村新司氏の投資戦略を考える上において外せない企業がある。「bitFlyer」だ。

世界の暗号通貨の解析情報を提供するCryptoCmpareで確認すると、今日時点(2018年6月2日)のビットコイン流通量(FX含む)の50%以上が日本円で流通するなど、日本の暗号通貨市場は世界規模の注目株になっている。

その国内取引所で圧倒的なトップを走っているのが同社なのだ。

木村氏はbitFlyerの創業期に投資をしている。投資金額は明らかになっていないが、当時の彼は創業前のGunosyに1億円を投じるなど、数百万円の小さなポーションで数打つタイプではなかった。もちろん一株主だけであることには変わりないが、相当前からこの分野に関心を寄せていたこと、その予想が世界規模で大きく当たったことは間違いない。

後半では彼が暗号通貨、ブロックチェーン技術に何を見て、何に投資をしようとしているのか、紐解いていく。(引き続き太字の質問は筆者、回答者は木村氏)

DasCapitalでもブロックチェーン、暗号通貨に注目している。今後の投資方針と理由を聞きたい

「やはりインフラ系のものに集まっているなという風には思ってます。メディアももっとインフラっぽいものをやりたかったですし。誰かが何かをやるときに承認って必要になるじゃないですか。ブロックチェーンって結局そこをすごく簡単にしてくれる。世の中にはこういった承認プロセスが大量にあるんです。例えば保険とかって誰かが何かをした、そのすぐ後に承認プロセスが走って支払われる。そういう世界観です。

金(ゴールド)があってそこから貨幣、株式と変遷する中で経済って大きくなりました。ビットコインってその延長に考えればいいと思うんです。法定通貨とペッグ(※紐付いた)された暗号通貨や株式型のものも出てくると思います。株式も債権や証券化されたものが出てきて金融世界って拡大しました。それと同じです」。

前編でも指摘したが、ソフトバンクの孫正義氏は39歳の時に米ヤフーと合弁でメディアを手に入れた。その3年後に彼が開設したのがナスダック・ジャパン市場、つまり株式取引所だった。やや強引かもしれないが、Gunosyというメディアと暗号通貨マーケットの両方に近づいている木村氏がやや被る。

日本のビットコイン流通状況(記事公開日時点)/Image Credit:CryptoCompare

これまで企業という大きなポーションでサービスを提供、承認、決済していた流れがブロックチェーンによって非中央集権化し、コミュニティの民主的な決定によって提供されるようになってくる。「近くの道路をみんなで修繕しましょう」というような小さなクラウドファンディングが多数実現する。そこに介在するインセンティブは暗号通貨と呼ばれる。

当然だが現在の株式市場に上場する企業数を遥かに超えるプロジェクトが参加(投資)対象になってくる。言わばスマホアプリのひとつひとつが投資対象になるようなスケール感だ。

「電車も車も飛行機も全てサブスクリプションの世界。今日はこの車で明日はこの電車、とか。でも全てのサービスはシェアされ、ブロックチェーンでつながっていくでしょうね」。

ただここで問題がある。一つは莫大なデータをどうやって高速に乗り入れするのかという問題と、それを動かす計算処理やマイナーへのインセンティブの問題だ。木村氏はひとつの方向性としてNiceHash(ナイスハッシュ)のようなインフラを教えてくれた。

「(どの暗号通貨をマイニングすべきか教えてくれる)SSPみたいなものですね。GPUの電気コストに対して最適な暗号通貨をマッチングしてくれる。世界的にクラウド化された計算処理を使えるんです。人工知能がブロックチェーンを繋いでいって、それぞれの暗号通貨に対してスムーズな支払いが可能になる」。

日本には実はマイナーコミュニティが居づらいという問題がある。電気料金が他国に比較して高く、また、暗号通貨の税制面でも厳しい。更に言えば、暗号通貨プロジェクトを立ち上げようにも取引所免許取得レベルをプロジェクトに課してくるという声も聞こえてくる。

この課題について木村氏はこうコメントしてくれた。

「日本には世界一の入り口(暗号通貨/ビットコイン取引所)があるわけです。今後、イーサリアムのようなプラットフォーム上にアプリ開発者は大量に出現するでしょう。Apple Storeって約600億ドル(6兆円)ほどの経済効果を生みました。それと同じことが起きるわけです。ブロックチェーンの周囲には保険や証券など様々な産業がこれから出てくる。それがいつの間にかビットコインが上がった、下がったの話題だけになってしまった」。

思えば孫氏は通信事業の既得権益と戦うために総務省に飛び込んでいった。この分野に挑戦する人はさしづめ金融庁か。

では、具体的にどういうブロックチェーンプロジェクトが国内で顕在化してくるのか。木村氏は「金融」がやはり最初と語る。

「証券型のトークンはこれからどんどん出てくると思います。そもそもユーティリティタイプっていうのはそこまで数が多く成立するわけではありません。スタンダードになるのはやはり証券型」。

証券型が出てくるとして取引所のタイプも多様化するのではないか。そういった事業への投資は

「そうですね。日本ではどうなるかまだわからないですがやはりDEX(分散型取引所)です。今後、プラズマなどの新しいサイドチェーン技術によって取引スピードは格段に速くなります。そうなってくるともうDEXの方がリスクないよねってことになるんじゃないか」。

証券(セキュリティ)型トークンについて少し補足しておこう。エクイティ型クラウドファンディングに近く、幅広く投資家から資金を集められるのがメリットだ。クラウドファンディングとの最も大きな違いはブロックチェーンベースのため、発行されてすぐに取引所で売買ができるという流動性の担保が挙げられるだろう。

大きな意味で承認や決済をなめらかにするブロックチェーンプラットフォームや取引所があり、その上に様々なサービスを提供するプロバイダーが陣を構える。具体的には「特に証券業や保険、ローンあたりは早く動きそう」と指摘していたし、彼が何度も口にしていた移動シェアリングなどはその先の未来だ。

最後に中央集権の考え方について聞きたい。なんだかんだいって取引所が一番強い、そこのトップが全てを決定できるような中央集権が(分散型の)ブロックチェーン上にある、こういう矛盾についての考えは

「リバタリアンみたいな考えはありませんが、中央集権で問題になるのはやはり既得権益です。既存事業を守るためだけに規制ができたのでは日本でイノベーションが起こりにくくなってしまう。

一方でお金の世界に本当の自由ってないんですよ。ここの橋を渡しましょう、というような小さなプロジェクトについては民主的、かつスピーディーに決めればいい。一方でストレスのかかる大きな決定にはある程度の中央集権が必要。要はバランスです」。

彼はインタビュー途中、幼少期にゲームを買ってもらえなかったエピソードを共有してくれた。代わりに教師だった両親が与えてくれたのがパソコンだったのだそうだ。

「それで作りなさい」と。

アドテク、メディア、暗号通貨市場。何もないところからスタートアップし、彼はこれまでに数多くの資産を作り出してきた。ゲームが欲しければ自分で作る。

全ての価値あるものが超高速にマッチングするシェアリングの世界。次のパラダイムシフトに彼がどう関わるのか、興味深く見ていきたい。(了)

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