電力取引「2019年問題」はブロックチェーンが解決するーー日本ユニシスら4社が取り組む”余剰電力取引プラットフォーム”、その詳細を聞く

by ゲストライター ゲストライター on 2019.3.11

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日本ユニシス プラットフォームサービス本部 中村誠吾氏

本稿は昨年開催されたブロックチェーンカンファレンス「NodeTokyo」編集部による寄稿

ニュースサマリー:日本ユニシスは東京大学、関西電力、三菱UFJ銀行と共同で、ブロックチェーン技術を「電力」に活用する実証実験に乗り出している(リンク先はPDF)。昨年10月15日から2019年3月末を期限に、4社は電力消費者と自家発電するユーザーを結びつけ、余剰電力の売買価格の決定や取引が可能となるシステムの開発、および模擬取引の実証研究を進める。

話題のポイント:自宅に太陽光パネルを設置して売電をしている方であれば「太陽光発電の2019年問題」をご存知かもしれません。資源エネルギー庁も特設ページを設置して対策を求めている課題なのですが、実はここにブロックチェーンが活用できるのでは、という動きがあります。本稿ではその話題についてテクノロジーの観点から取り上げたいと思います。

まず、そもそもの2019年問題についてポイントを整理しておきます。

  • 2009年から太陽光で自家発電した余剰電力は固定の金額で買い取ってもらえた
  • 制度の期限は10年間で、期限切れが発生するのが2019年11月に迫っている
  • 期限後の余剰電力は自家消費するか、相対で売る相手を探す必要がある

つまり、これまでは発電した余剰電力を固定金額で電力会社が何も言わないで買ってくれていたのですが、期限が切れた後は「価格も売買相手も」自分で探す必要に迫られるわけです。

ブロックチェーンのことに明るい人であれば「なるほど、ここで使うのか」というのがわかったと思います。そうです。自律的に相対取引ができるプラットフォームの必要性が出てきているのです。少々乱暴ですが、暗号通貨の取引所でビットコインなどを売り買いするのと似たようなイメージで電力をトレードするわけです。

今回取材した日本ユニシスが取り組むプロジェクトはまさにその潮流に乗ったものとなります。

ということで本稿では日本ユニシスのプラットフォームサービス本部で、プロジェクト推進にあたっている中村誠吾氏にインタビューを実施し、その取り組みの詳細をお聞きしてきました(太字の質問はすべて筆者、回答は中村氏/取材:増渕大志、編集:平野武士)。

改めて実証実験に至る経緯や解決すべき課題についてお伺いさせてください

中村:一般家庭に設置した太陽パネルで発電される電力に代表される再生可能エネルギーは、これまで国によって一定期間の間、固定価格で買取されることが約束されていました。これが固定価格買取制度です。

しかし、固定価格買取制度は2019年より順次終了をむかえ、太陽光パネルを設置している家庭は発電した電力を、小売電気事業者などに売却するか、小売電気事業者に売るのではなく、蓄電池等を導入して自家消費を最大化するかを選択しなければならない状況になってしまいます。

いわゆる2019年問題ですね

中村:はい、今回の私たちの取り組みは、発電した余剰電力を小売電気事業者に売却するのではなく、プロシューマー(※1)と消費者間で売買価格を決定して直接電力取引を行うプラットフォームを構築することです。

プロシューマーにとってはより高い金額で売却し、消費者にとってはより安い金額で購入できる場を提供することが可能になります。この実証研究は、関西電力、東京大学、三菱UFJ銀行、日本ユニシスとで実施しています。

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画像提供:日本ユニシス

シンガポールのブロックチェーン電力取引マーケットプレイス「ELECTRIFY」は東京電力の子会社から資金調達をしていますし、オーストラリア拠点のPower Ledgerも同様のブロックチェーンを用いた電力個人売買プラットフォーム構築を進めています。各国一様にブロックチェーンベースでの構築が中心です。この技術を活用する利点を整理いただけますか

中村:生活や産業の基盤である電気の取引であるため、プラットフォームの利用者は全世帯や企業が対象です。電力取引を地域単位で行うとしても、数十万~数百万規模となり、これだけの多数の利用者同士が直接取引を行うには、ブロックチェーンのような可用性がある直接取引が可能な基盤が最適であると考えています。

2019年問題で最初に対象になる世帯数も数十万と聞きます。取引が一度に始まる前提がある、というのがこの課題の特徴です

中村:家庭に設置した太陽光パネルのような発電量が小さな装置が地域に多数存在し、相互に少量かつ多数の電力取引をするような(多数の参加者による少額の直接取引を大量に処理する)分散型のシステムをブロックチェーンによって実現するのが狙いになります。

ブロックチェーンでは、地域のいたるところに設置される多数の小さな発電装置の1つ1つを中央集権的に厳密に管理するために多くの労力を割くことがなくなります。

自律分散のコンセプトに相性がよいと。具体的な仕組みの箇所をもう少し詳しく掘り下げさせてください

中村:ネットワークを構成する複数のサーバーのそれぞれが複数の発電装置を管理し、サーバーが受け付ける取引要求をネットワーク全体で共有して電力の取引を行います。複数の事業参加者がサーバーを管理して1つのネットワークを構築するような、コンソーシアム型で電力取引システムを運用することも考えられます。

その場合、それぞれのサーバーが受け付ける電力取引データの真正性を担保した上でデータをオープンして相互に協力し合うことで、安定した電力取引を維持することも可能になるし、相互に取引状況を監視し合うことで取引の健全性も高まります。また、ブロックチェーンのネットワークが広がるほどシステム全体の可用性が高まります。

つまり、ブロックチェーンによって、電力取引の主体を個人や家庭といった小さい単位までに落とし込み、かつそこで取り交わされる大量の直接取引を安全かつ安定的に行うといったプラットフォームを構築することで、利用者にはこれまでと違った新しい取引の形態を提供できるのではないかと考えています。

スマートコントラクトによる自律分散的な契約執行が可能になると思いますが、そのあたりの構想はどのような考え方をお持ちでしょうか

中村:はい、電力取引の処理をスマートコントラクトとして実装し、ブロックチェーンに組み込んでいます。スマートコントラクトは契約の自動執行としばしば説明される通り、電力取引の注文を登録すれば、プロシューマ―と消費者の双方が指定する価格に従って取引を成立させて、決済までを自動で実行できることは大きなメリットです。

そして、スマートコントラクトに実装した、このような注文の受付から決済までの一連の処理に関するルール(契約における条項にあたる部分)は、ブロックチェーンのネットワークに参加する複数の事業者で共有され、事業者はそのルールの下でしか取引を行うことができないといった強制力として働きます。

現在の暗号通貨取引所が多数の事業者によって運営されている状況と少し似てきます

中村:分散型システムとして電力取引プラットフォームの規模の拡大を図り、このネットワークを様々な事業者でコンソーシアムを組んで運用していく場合、ブロックチェーンの基盤の中に取引に対して強制力があるルールを実装できることは、実現のための重要な機能であると考えています。

確かに取引自体は自律分散の承認プロセスが合ってますが、この取引システム全体はどこかがコンソーシアムとして中央的に管理した方がよさそうです。なにより実際に取引する人たちは誰かに責任の所在を求めるでしょうからね。逆にパブリックチェーンを採用した場合の問題点も教えていただけますか

中村:今回のシステムで取り扱っているのは電気であり、生活や産業の基盤にあたるものです。システムの安定稼働を考えると”現状”のパブリック型は難しいと考えています。

具体的に壁になるポイントは

中村:1つは処理速度、1つは処理手数料、最後は外的要因です。

まず、最初にブロックチェーンの処理速度は、ブロックの生成時間と1ブロックに格納可能なトランザクション数で決定しますが、パブリック型のそれらはまだまだ十分ではありません。また、パブリック型のコンセンサスアルゴリズムとして使われているPoW(Proof of Work)はブロックを生成するマシンに大量のリソース消費を求め、そのコストは利用者のトランザクション手数料にも影響します。

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画像提供:日本ユニシス

今回の実証実験ではコンセンサスアルゴリズムにPoA(Proof of Authority)を採用されていますね

中村:そうです。PoAはブロックの生成の役割を参加者間で順番に担っていき、そこに参加者間の計算競争は存在しないためマシンリソースの消費も抑えられます。取引を確定させるために必要なブロックの生成コストが小さくなるため、ランニングコストの削減にもつながるんです。

極めて公共的な仕組みになるでしょうから、最終的な消費者にかかる手数料の問題は重要です。最後に挙げられている外的要因とはなんでしょうか

中村:ビットコインで言えば、暗号通貨の価格変動や、ハードフォーク、電力取引以外のトランザクションの急激な増加などです。

電力取引システムそのものに問題がなくとも、このような外的要因によって対応を迫られることは好ましくないと考えています。パブリック型のメリットとしては、既存の広域のネットワークを活用できるためにネットワークの構築や運用の負担が小さいことや、広くデータを共有することができ、より多くの(取引に直接かかわらない)ネットワーク参加者によってデータの真正性が保証されるなどがあります。しかし、前述のような電力取引は安定的に行われなければならないといった特色を踏まえてコンソーシアム型を採用しています。

ここまで電力取引にブロックチェーンを使う意味、パブリック(非中央)かコンソーシアム(中央)かといったやや仕組みの部分をお聞きしました。話題を消費者、最終的なサービスに向けてみたいと思います。実際のユーザー体験はどのようなものになると想定されていますか

中村:(プロシューマ―と消費者を含めた)最終消費者は従来通りに契約する電力会社を選ぶことに変わりはありません。電力会社は電力取引プラットフォームにより、価格やサービス内容などで従来と異なるサービスメニューを消費者に提供でき、電力会社を選ぶ際の差別化ポイントとなることも想定できます。

電力取引のプラットフォーム内では、電力売買の注文が飛び交いますが、消費者がトレーダーとして画面操作をすることはなく、スマートメーターやHEMS機器等によって、現在の発電状況、消費状況に応じて自動的に取引が行われることを想定しています。そのため、消費者にとっては、電力の売買において従来よりも細かく自分の希望に沿った取引が行えます。そして、そのための煩わしい操作を必要としないようなものになると想定しています。

なるほど。株やFXみたいなトレード操作を一般家庭に提案するのは不可能に近い

中村:価格はプロシューマ―と消費者の注文状況によって決定されるため、双方において従来の電気料金に比べて価格面でメリットを受ける可能性があります。また、注文状況はブロックチェーンで管理され、すべてオープンにできるため、価格決定プロセスの透明性も高まります。

価格決定プロセスはどのようなものになるのでしょうか

中村:今回の実証研究における価格決定方式は、単位時間ごとのすべての買い注文と売り注文を価格順に並べたときの交点で価格が決定する「オークション」、買い注文と売り注文の合致で価格が決定する「ザラバ方式」、JEPX電力卸売市場に連動して価格が決定する「ダイナミックプライシング」の3つを対象としています。

さらに、注文データが公開さるということは、消費者にとっては自分の家庭で使用している電気がどこから買ったものかが分かるようになります。

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画像提供:日本ユニシス

電力の地産地消みたいなことができる

中村:そうです。今回の実証研究の範囲外ですが、消費者が地域や発電源の種別を指定して購入することができれば、地域を指定した取引は電力の地産地消を促進し、地域の活性化に貢献することもできるのではないかと考えています。

また近年、企業や一般消費者の環境に対する意識の向上に伴い、発電源の種別を指定した購入についてもニーズがあると考えており、消費者からのこのような注文は発電事業者にも影響を及ぼし、再生可能エネルギーの生産が進むといった良いサイクルを生み出す可能性があります。

電力取引をする際、専用の暗号通貨やトークンのようなものは使われるのでしょうか

中村:今回の電力取引プラットフォームには電力取引に使用するコインを実装しています。電力取引注文の約定、送電と受電の実績値に従ってコインが移動するといったものです。

最終消費者はそのコインを入手して、取引に参加する想定でしょうか

中村:最終消費者がコインの入手や換金に対して負担を感じないような仕組みにしたいと思っています。そのためのコインの位置づけとしては、現時点では、大きく分けて2種類かと思います。ひとつは用途を電力取引に限定しないような流動性の高いコインを実装し、多くの業種、業態とつながるトークンエコノミーを形成するという方法。

もうひとつは、電力取引自体はプラットフォームに実装したコインで行いますが、コインの存在を消費者には見せず、流動性の高い例えば銀行が発行するようなコインと連動させるという方法もあるかと思います。この場合、消費者は電力取引用のコインを入手せずに、他の流動性のあるコインで電力を取引することを体験できます。

なるほど、一般消費者にとっては新しいコインの種類が増えるよりも、使い慣れてるポイントになってくれた方が使いやすい

中村:その他の方法も含めて、消費者目線で何が最適であるかは、電力取引プラットフォームをサービスとしてはじめていくにあたって検討していくべき重要な課題と捉えています。

長時間ありがとうございました。

※1:自身で発電した電気を消費し、余剰分は売電する生産消費者のことであり、生産者(Producer)と消費者(Consumer)とを組み合わせた造語

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