“We’re making the world smaller”(僕たちは、世界を小さくしている)をコピーに掲げるマッチングアプリ「Wander」を覚えていますか。2011年2月、マウンテンビューにあるインキュベーター「500 Startups」にお邪魔した際に出会ったチーム。
ユーザーは、自分が住んでいる場所のガイドとなって、他国のユーザーと期間限定でマッチングされる。NAVERまとめにも、まとめ記事が。
ランダムにマッチングされる一期一会の出会いが楽しくて、個人的にもけっこう使っていました。ところが、残念なことに2012年の中旬にサービスがシャットダウン。と思ったら、最近になって、「Embark」という新しいアプリになって復活したというメールが届いたのです。
今では、3人チームだったWanderのメンバーの1人、Jiho Kang率いるチームが、韓国のソウルでサービスを作っているそう。順調に見えたWanderはなぜシャットダウンしなくてはいけなかったのか、新たにEmbarkに生まれ変わった経緯、また新アプリの内容など聞いてみました。
三橋:Wanderのチームが解散した理由は?
Jiho:2011年初期、3人でWanderを作っていた。Dave McClureや500 Startupsから出資を受けて、初期の頃は数字も好調だった。結局2回のシードラウンドを調達したけれど、サービスをスケールするためのその後の資金調達に苦戦したんだ。
2012年中旬までWanderを作り続けたけれど、複数の投資家や企業との交渉も失敗に終わって、それ以上作り続けることを止めることになった。でも、可能な限り、サービスの運営だけはしていくことを決めた。
三橋:新たに「Embark」として再ローンチした経緯を教えて。
Jiho:2011年の終わりには、僕は既に韓国のソウルに帰国していた。その後、2012年後半に、SK Planetという、韓国最大の通信企業SK telecomの子会社で働くことになった。SK Planetは、ソフトウェアやC向けのサービスに力を入れている会社だ。
もともとWanderが掲げていた価値提供にポテンシャルを感じて、Wanderのコンセプトを改めて形にするようにと、会社が専用のチームに与えてくれたんだ。Wanderという名前やコードは今の会社には著作権がないから使えない。それで、2013年中旬にWanderをシャットダウンして、「Planett」というアプリをリリースした。
三橋:ん?Embarkじゃなくて、Planett?また別のアプリ?
Jiho:そう。Wanderのコンセプトのまま、1対1のチャット機能を主としたアプリなんだけど、同時に「World Feed」と呼ばれる機能を加えた。必ずしも誰かのガイドにならなくても、世界中で起きていることがわかるような。
ところが、このフィードの機能が、元の1対1のクローズドな体験を飲み込んでしまって、Wanderが提供していた価値が薄れてしまったんだ。人の物語を通じて世界を知るというPlanettの価値も貴重だけれど、以前の特別感を取り戻すために全く新しいアプリを開発することになった。
三橋:Embarkとは、ズバリどんなアプリ?
Jiho:Embarkは、「今住んでいる場所を離れることなく、旅行にいける」サービスを目指している。1対1で世界中の人と繋がって、彼らの日常を体験できる。自分が知っている日常以外の生活を垣間みられる。
そんな「making the world smaller」(世界を小さくする)ことを目指しているんだ。また、国際的な友人関係のコミュニティを育みたいと思っている。
三橋:Wanderから大きく変えた点はある?
Jiho:元のコンセプトや仕組みとしてはWanderのそれを継承しているけれど、サーバーサイドのコードからデザインまで、Embarkは一から全部開発したよ。世界の誰か一人とマッチングされて、毎日ミッションが届く。メッセージを翻訳することもできる。まずは基本のところをしっかり作って、今後はユーザーをよりハッピーにするための機能などを追加していく予定だ。
三橋:ソウルのチームについて教えて。
Jiho:僕を入れて5人のチームだよ。みんな韓国人。Embarkは、SK Planet内の社内ベンチャーだから、メンバーは全員SK Planetの社員なんだ。でも、Embarkの開発に着手した頃は、WanderのデザイナーだったDaronにも手伝ってもらったし、プロトタイプを作るためにDarienにもソウルに一ヶ月来てもらって協力してもらったよ。
三橋:Embarkのユーザーは既に世界中にいる感じ?
Jiho:Wanderをアクティブに使ってくれていたユーザーに対しては、Embarkとして生まれ変わったことをメールで報告した。Embarkを運用してまだ数週間だから何とも言えないけれど、既に45ヶ国にユーザーがいるよ。今のところ多いのは、アメリカ、韓国、日本、スウェーデン、シンガポール、ブラジル、イギリスのユーザーだね。
三橋:出会い系として使われるリスクをどう考える?
Jiho:WanderもEmbarkもそうだし、赤の他人をマッチングするサービスには必ずその可能性があると思う。でも異性との交流はそもそものモチベーションではないから、一度に一人とだけしかマッチングされないし、マッチングされるのは1日1回だけ。
こうした制限を設けることで、お気に入りの相手が見つかるまで選び続けるといった出会い系のような使い方ができないように工夫している。一回一回を大切にするような体験を育みたいからね。
三橋:Wanderで得た最大の学びは?
Jiho:正直、Wanderをシャットダウンしてからのほうが、実際に運営している最中より多くの学んだことより多いかもしれない。というのも、スタートアップをやっていると、チャートだとか数字に取り付かれてしまうから。デイリーアクティブユーザーだとか、アクティブ率だとか、リテンションだとか。ユーザーに何を提供したいかという本来の目的よりも、良い数字を追うことにとらわれてしまっていた。
昔のWanderのユーザーに、サービスが復活するよ!と連絡をしたら、みんなからあたたかい反応が返ってきてすごく感動したんだ。こんなに時間が空いているのに。そのことが、なぜ今自分がこれをやっているのかを思い出させてくれた。みんなの期待に応えたいし、彼らの忠誠心に見合う価値を提供したいと思っている。
三橋:これからの予定は?
Jiho:開発のリソースのほとんどは、新たにリリースしたEmbarkに注がれるだろうけれど、まずはPlanettとEmbarkをどちらも運営していくよ。それぞれが、「世界を小さくする」というゴールに対して違うアプローチをとっているプロダクトだから。
ユーザーのそれぞれのアプリの使い方、やり取りされる会話の内容なんかをしっかり見て、2つのアプローチを最適な形で織り交ぜたプロダクトにたどり着きたいと思う。
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