〝医療版LINE〟を開発するシェアメディカル、夜間往診サービスのFast DOCTORと提携——東京23区・千葉県一部で〝医療版Uber〟を展開へ

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左から:Fast DOCTOR 代表取締役の菊池亮氏、シェアメディカル代表取締役の峯啓真氏
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医療 ISV(independent service vendor)のシェアメディカルは11日、夜間往診サービスを提供する Fast DOCTOR と提携し、東京23区・千葉県の一部でスマート往診サービスの提供を開始すると発表した。シェアメディカルは、このサービスを提供するための患者向けアプリを開発中で、8月にもサービスを開始する予定だ。

シェアメディカルは、口コミ病院検索サイト「QLife」の立ち上げに関わった峯啓真(みね・よしまさ)氏が2014年9月に創業。これまでに、医療向けメッセージングツール「MediLine(メディアライン)」や医療辞書搭載 IME「医詞(いことば)」といったモバイルアプリをリリースしている。MediLine では、通信をはじめとする各種技術の発達により、電子カルテシステムや可搬型の医療検査機器が普及する中で、往診専門医療機関の医師同士の効率的で安全なコミュニケーションを支援するしくみを提供している。スマートフォンから簡単に利用でき、〝医療版 LINE〟という形容が最も分かりやすいだろう。

普段仕事をしている社会人にとって、医師に身体を診てもらうには平日の日中に休みをとって病院や医院に行く方法が一般的だ。どうしても休めない場合は、夜間診療をしている医療機関を探すか、救急外来を開いている病院を頼ることになるが、医療における人材供給が逼迫する中で、急を要さないのに救急外来を訪れるのには気が引ける。夜間には会計が閉まっていることが多く、あらかじめ病院に多めの現金を支払っておいて後日の精算を余儀なくされることもあるし、近場に開いている診療機関が無ければ、そこまでの交通手段を確保するのも難しい。

シェアメディカルがこれから始めようとするのは、一言で言えば〝医療版 Uber〟だ。ユーザはモバイルアプリ上にあらかじめクレジットカードと保険証の情報を登録しておき、必要なときに医師に往診を依頼することができる。医師はドライバーらとともに車で家まで来てくれるので、応急処置が必要であれば、到着までの間、患者が医師とコミュニケーションをとることも可能だ。

スマート往診サービスのサービスフロー
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今回の提携で、Fast DOCTOR は往診に出向く医師のネットワークの提供、シェアメディカルは患者の集客をはじめとするユーザエクスペリエンスの提供をそれぞれ担当する。法制上、医療機関には本院設置場所から半径16キロの往診が認められており、サービス開始当初は Fast DOCTOR のオフィスを中心に東京23区・千葉県の一部がサービスエリアとなるが、将来的には、このネットワークに参加する医療機関や関連施設を増やし、シェアメディカルや Fast DOCTOR サービスを全国展開していきたいとしている。

シェアメディカルは、診療点数を計算し医療報酬・診療費を確定するレセプト処理をはじめ、医療事務全般も医師から請け負う計画だ。法律の制約上、レセプト関連のデータや処理はクラウドに載せることができず、診療情報が入ったサーバを医療機関内に設置しておく必要があるが、シェアメディカルでは将来的に、医療事務の有資格者のいる BPO センターを地方に設置し、リモートログインで対応できるようにする考えだ。前述のネットワークに参加する医療機関や関連施設は、個別に医療事務の有資格者を置く必要がなくなるので、事実上、(医療器具は持っていても)医療設備を設置した診療機関を持たない、「フリーランスの往診専門医師」さえ誕生することになる。

この新しく生まれるビジネス機会は、必ずしも収入が多くない勤務医や研修医にとっても好都合だ。昼間は所属する大学病院や診療機関で勤務し、夜間に呼ばれたときだけオンデマンドで往診するというワークスタイルをとれるので、夜間の当直医などよりも行動の自由度が高い上に、相応の副収入を確保できるメリットがある。サービスの提供を(日中の往診ではなく)夜間往診のみに限定しているので、市中の従来医療機関や開業医らと商圏を取り合うリスクも極小化されている。医師会などから「黒船」と揶揄される心配も不要なわけだ。

開発中のモバイルアプリ
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海外でこの種のスマート往診サービスを見てみると、フィラデルフィアの「Stat」、ロサンゼルスの「Heal」、ニューヨークの「Pager」などがある。先月の世界保健デーには、Uber が往診で糖尿病検査やサイロイドテスト(甲状腺機能検査)が行える「UberHEALTH」を発表している。

シェアメディカルは、2015年12月にスローガン・コアントから(調達額非開示)、2016年11月に医療・介護人材紹介大手のティスメから5,000万円を資金調達している。

<参考文献>

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