東大発のSapeetが実現する「クラウドでの着こなし」の可能性ーー3D試着サービスを公開

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実際に3D試着サービスを利用している様子/同社提供

東大発のファッションテックを手掛けるSapeetは7月3日、3Dを活用したEC導入向けネット試着サービス「Sapeet EC tool」の運用開始を発表した。実際にバスケットボールのユニフォームウェア販売を展開する「VAYoreLA」にて同サービスが利用されている。

Sapeet EC toolは「試着する人の画像」と「衣服の画像」を重ね合わせる方法ではなく、試着する人の体型データを基に作成した3DアバターとCADデータから作成した実寸通りの衣服の3Dデータを物理シュミレーションで試着させてウェブ上に表示する。

この方式により、画像の重ね合わせではイメージしにくかったサイズ感や丈感、シルエットなどをインターネット上で確認することができる。シャツインなどの着こなしや実際にリアルで服を着用した際の着圧感の再現などにも対応している。今後はポージングやモーション、カスタムオーダー対応の実装も目指していく。

「着こなし」のクラウド処理が実現する世界観

Sapeet代表取締役の築山英治氏

このシステムを開発したのがSapeet代表取締役の築山英治氏だ。東京大学在学中に学んだ流体力学の研究をファッションに応用した。読者の皆さんも津波などの挙動を報道などで見かけたことがあるかもしれない。あれだ。

築山氏は直近で布のシミュレーション研究に携わっており、自身の体験からオンラインでよりリアルにファッションの試着ができないかと今回のプロダクトを手がけた。この分野はいわゆる3DCGのテクノロジーでディズニーやCADのAutodesk、グラフィックチップメーカーのNVIDIAなどに最先端の情報が集まっているのだそうだ。

さて、一方でネットに慣れ親しんでいる読者の方であればやや既視感があるかもしれない。リンデン・ラボがリリースしたSecond Life(セカンドライフ)ではオンライン上に自分の分身を作り、当然のことながら着せ替えも自由自在だった。類似のメタバースはそれ以降いくつか出てきたし、MMORPGでも似たような世界観は実現している。

ではSapeetのどこに可能性があるのか?

思い出してほしい。Second Lifeはプレイするためにビューワーをダウンロードしたはずだ。そう、あのゴリゴリの3DCGを動かすにはどうしてもローカルPCのグラフィック処理が必要だった。一方でSapeetのサービスは全て一般的なウェブブラウザ、つまりクラウドで処理がほぼ完結している。

築山氏の話では、映画やゲームCGで使っているクオリティの3DCG処理をそのままクラウドで走らせるのではなく、試着というシチュエーションに特化することで処理の軽量化に成功しているのだという。

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着圧確認状態、赤くなっているのは服がキツイ部分/同社提供

つまり、この着せ替えは特定のクライアントに縛られることなく、マルチデバイス、つまりスマホでも動く、ということがポイントなのだ。

この先ソーシャルメディアは確実に今、実際に生活している私たちの情報をそのままコピーしたものに進化していく。facebookが全体の5%もの人材を投入してARやVR技術の開発を推進し、「本当に使える」レベルのメタバースを実現しつつあるのはここ最近の開発者向けカンファレンスの動向を見ても明らかだ。本誌でもウェブ3.0としてその動きをお伝えしている。

イーロン・マスク氏曰く「私たちはビデオゲームの中で生きることができるようになる」

そう、Sapeetの技術はこれからやってくるオンライン上の生活に必要な技術のひとつになりうるかもしれない。残念ながら筆者はこの分野の知識が薄く、他のサービス・テクノロジーとの比較まではできなかったが(あれば是非教えてほしい)それでも実際のデモで使ってみると非常に軽く動作する。スマートフォンでも同様だ。

築山氏の説明だと、スマートフォンの場合はどちらかというとこういう「着こなし」の処理よりも間に挟まる通信環境の方が動作に影響あるという話ではあったが、それでもメタバース(仮想空間)での生活を夢見たひとりとして大変興味深いサービスだった。

共同執筆:鈴木

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