失敗に終わりつつあった「nana」が、世界的な成功を見せる音楽アプリに成長を遂げるまでの軌跡【ゲスト寄稿】

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本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


nana Music 文原明臣氏

音楽アプリで金を稼ぐのは難しい。競争が激しく、たいていの人は音楽アプリに多額の金を払いたがらないからだ。

しかし、nana の文原明臣氏は困難にもめげず、事業を続けている。nana はコラボレーションして音楽を作れるアプリで、ユーザ同士が異なる音楽トラックをアップロードすることができる。アップロードされたトラックは他のユーザによる編集やリミックスを経て、数え切れないほどのアレンジを作り出すことができる。

今日では世界中に数百万人のユーザがいる nana だが、リリースから3ヶ月の頃には、資金はほぼ底を尽き、新規のアプリインストール数はゼロに向け下降していた。文原氏と彼のチームがこの事態を脱却した経緯は、素晴らしいストーリーだ。

Tim:

nana はプロのミュージシャンに特化しているのでしょうか? あるいは、アマチュアのミュージシャンでしょうか?

文原氏:

アマチュアに特化しています。nana は、コミュニケーションを図るために、楽しみながら音楽を使えるアプリです。

Tim:

お客さんについて教えてください。誰が nana を使っているのですか?

文原氏:

10代の女の子の間で最も人気があり、世界中に300万人のユーザがいます。日本のユーザが200万人、それ以外は台湾、アメリカ、ベトナム、インド、フランスです(編注:数字はインタビュー当時のもの。現在のユーザ数は400万人)。

Tim:

それらの国で人気のあるのはなぜでしょう?

文原氏:

理由ははっきりしていません。意図したものでもありません。すべては口コミで成長してきました。

Tim:

少し文原さん自身についても話をさせてください。かつてプロの歌手だったそうですね?

文原氏:

はい、私は スティービー・ワンダーやレイ・チャールズのような歌手が好きでしたが、nana を始める前は5面ほどプロのカーレーサーをしていました。

Tim:

プロレーサーから音楽スタートアップとは、大きな転換ですね。どうして、進む道を変えようと思ったのですか?

文原氏:

お金がなく、スポンサーもいなかったからです。レースで生計を立てるのは大変です。しかし、私がキャリアを変えようと思ったのは、ハイチ地震の支援にお金を調達する目的で作られた YouTube 動画を見たときのことでした。世界中から集まった57人のアマチュアミュージシャンが『We Are The World』を歌っていたのです。彼らは互いに離れた場所にいながら、録音され編集さたものでした。大変感動しました。互いに顔を合わしたこともない状態で、互いに共鳴しあいハーモニーを奏でているのは素晴らしかった。自分でもそのようなものを作りたいと思ったのです。

Tim:

文原さんは、2012年に nana を初めてローンチしたとき、Movida の初期のアクセラレーションプログラムに参加していて、多くのパブリシティを得ましたよね。でも、事はスムーズには進まなかったんですよね?

文原氏:

最初はうまくいったのですが、当初のパブリシティが無くなると、ダウンロード数も減っていきました。2012年末までには、新しいダウンロードはほぼ無くなり、資金も尽きかけていました。

Tim:

そこで、何があったのでしょうか?

文原氏:

持てる限りのいくばくかのお金を使って、nana を使いやすいように UX を完全にデザインし直しました。しかし、最も重要な変化は、自分の歌やコラボレーションをユーザがソーシャルメディア上でシェアできるようにしたことでした。この機能をつけておかげで、人々は再び nana のことを話してくれるようになり、ダウンロード数は上がり始め成長を続けました。

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2015年に開催された第1回 nana フェス

Tim:

ライブイベントも開催してきましたね?

文原氏:

はい。2015年に開催した『nana フェス』には約1,000人が来場しました。このイベントでは、多くのライブやコラボレーション・パフォーマンスが繰り広げられました。非常に楽しかったので、今年も再び開催する予定です。

Tim:

nana のユーザ同士でバンドを結成したり、プロのミュージシャンになったりした人はいますか?

文原氏:

もちろん、何人かはいます。nana で出会ったユーザ同士が結婚したケースもあります。

Tim:

それは素晴らしい。音楽には本当に国境が無いんですね。違う国のユーザ同士がコラボレーションする事例も多いんですか?

文原氏:

いいえ。残念ながら、たいていの日本人ユーザは他の日本人ユーザとコラボレーションしています。フランス人ユーザも、他のフランス人ユーザとコラボレーションしている、という感じです。これはソーシャルメディア上での共有や言語の問題に起因すると思いますが、将来はより多くのグローバルなコラボレーションを見出したいと思います。

Tim:

音楽でお金を稼ぐのは大変だとよく言われます。Naha のビジネスモデルは、どのようになっているのですか?

文原氏:

nana は無料で使えますが、我々の売上には2つの収入源があります。一つはアプリ内広告で、もう一つの有料サブスクリプションです。有料ユーザは、特別な音声効果を使えたり、広告を隠したり、高度な検索オプションを使ったりすることができます。

Tim:

nana をローンチしたときに Movida アクセラレータに参加しましたよね? すべてのスタートアップに、アクセラレータに参加することを進めますか?

文原氏:

いいえ。私は、アクセラレータでの経験から多くのことを学びました。当初はビジネスの経営方法をほとんど知りませんでしたし、メンターからは他の創業者らと同様に多くのことを学びました。素晴らしい経験でした。しかし、アクセラレータは、大きなリスクをとって、迅速に成長するか失敗するかを白黒つけたい企業にのみ向いていると思います。そういう企業こそが、VC やアクセラレータが関心を示す業態だからです。安定して堅調に成長できる素晴らしいビジネスは多くありますが、彼らはアクセラレータからあまり多くの利益を得ることはないでしょう。その種の企業の創業者は、自身の力で事業を成長させていくのが良い方法です。

Tim:

文原さんは神戸出身ですが、なぜ東京に来て nana を始めたのですか?

文原氏:

神戸で、会社を始めることに興味を持ってくれる人を見つけられなかったのです。2012年当時、スタートアップを始め、新しいビジネスアイデアにパッションを持ってくれる人に会うには、東京に来るより他ありませんでした。幸運なことに、それは変化しつつあり、現在では日本中で新しいスタートアップが見られるようになっています。これは素晴らしいことがだと思います。


nana の UI の変化が、同社のダウンロード数を好転させ、nana を失敗しつつあったスタートアップから成長するスタートアップへ変化させたのは、興味深くもあり重要なことだ。nana を使いやすくしただけでなく、ユーザが nana での体験を多数の非ユーザにソーシャルメディアで共有できる機能をつけたことが状況を変化させた。

これは、コンシューマ向けアプリを作ろうとしている人には不可欠なことだ。今日アプリストアには220万以上のアプリが登録されており、ユーザから注意の目を引くためには、多額のマーケティング予算を使うか、アプリにバイラルマーケティングのしくみを組み入れるくらいしか方法は無い。あなたのアプリを使ったことをユーザがシェアできるようにするだけでなく、ユーザが実際にシェアしたいと思うようにさせるものであるべきなのだ。

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