投資額はここ5年で4倍増、躍進のB2B SaaSをVCはどう分析する?ーーBessemserレポートから見えた「4つの注目ポイント」

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編集部注:本稿は「インプットをアウトプットするブログ」ブロガーで、B2Bスタートアップ・インキュベーション「archetype」を経て2017年にカスタマーサクセス管理ツールを開発するHiCustomerを創業した鈴木大貴氏による寄稿。

資金調達ニュースや大規模カンファレンスにおけるピッチコンテストの顔ぶれを見ていると、数年前と比較して明らかに日本でもB2Bスタートアップの躍進が目立つようになってきている。ではこの分野で先行する海外、特にアメリカのトップティアVCはこのマーケットをどう捉え、どのような変化が起きると予想しているのだろうか?

Bessemser Venture Partnersが2月に発表したレポート「State of the Cloud Report 2018」から、内容をかいつまんで紹介してみたい。

成長が加速するB2Bスタートアップ

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Image Credit : Bessemser Venture Partners

2010年と2016年を比較すると、法人向けクラウドサービスを開発するスタートアップへの投資額が4倍に増加している。VCによるスタートアップ投資全体の成長もあるが、2016年はクラウドスタートアップへの年間投資額がVC投資の半分を占めていることが統計データから明らかになっている。

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Image Credit : Bessemser Venture Partners

では、投資を受けたスタートアップはどの程度の速度で成長しているのだろうか。いずれも今では上場している4社だが、成長スピードはビジネスモデルやサービスの性格によって異なる。年間売上が$1Mから$10Mに至るまで何年掛かったかが図示されているが、メール配信ツールを提供するSendgridは3年半掛かっているのに対し、音声通話APIの提供を行うTwillioは約1年で年間$10Mに到達している。

これからクラウド業界に起きること

レポートではクラウドの各レイヤ(FaaS, PaaS, IaaS, SaaS)においてどのような変化が起きつつあるのか、以下8つを紹介している。

  1. Rise of serverless computing
  2. APIs drive innovation
  3. Blockchain finds a home in the enterprise
  4. Payments-as-a-Service
  5. System of record moves to system of results
  6. Growth of the screenless software moment
  7. Values create value
  8. The cloud is flat

この中でも特に注目したい4項目を解説したい。

サーバーレスコンピューティングの台頭

サーバーレスコンピューティングが近年注目を集めている。インフラなどの低レイヤーの部分をクラウド側が巻き取ってくれるため、開発者にとって初期設定の手間や学習コストが減り、プロダクトのコア機能開発に集中しやすい環境となってきている。

プロダクトを支えるインフラについて、ここ数年はDockerをはじめとするコンテナが急速に広まっていることに加え、AWS LambdaのようなFaaS(Function as a Service)型サービスの活用は今後さらに進みそうだ。

イノベーションを加速するAPI

あらゆる分野のサービスでAPIの公開と活用が一般的となっている。Stripeの決済データをAPI経由でダッシュボードに表示したり、各種ツールの通知情報をSlackに流してチームで情報共有を行ったりというように、APIの利用が前提となっているおかげで少ない負荷で各サービスの連携がとれるようになっている。

利用者にとっての利便性が高いのはもちろんだが、様々なデータを引き出せるAPIが整備させていることで、新規サービスの立ち上げスピードを上げられることにも繋がる。日本国内は大量のユーザーを抱える大企業のサービスほどAPIをオープンにしていないケースが多いため、ユーザーのためにこうした取り組みを倣うべきだと思う。

スクリーンレスの進行

AlexaやGoogle Homeといった音声デバイスのヒットにより、画面を持たないインターネットデバイスのさらなる躍進が予想されている。エンタープライズにおける活用も進みはじめており、TACTのような、音声による顧客管理ツールのインターフェースも出始めている。この分野の進化は今後ますます進むだろう。

価値の源泉となる企業文化

クラウドサービスは買い切りではなく、定期課金モデルが一般的であるため、順調に行けばサービスの提供者/利用者の関係性が長くなる。サービスの価値は機能や使い勝手はもちろんだが、サポートやカスタマーサクセスに依るところも大きく、どのような対応になるかはその企業が掲げるビジョンや会社のカルチャーの影響を大きく受ける。今以上に顧客との長い関係性を前提とした組織やカルチャーの作り方が求められるようになるだろう。

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