欧州の中でもスタートアップ都市としての注目度が増しているドイツの首都ベルリンで、現地を代表するテックフェスティバルである「Tech Open Air(以下TOA)」が先週19日から22日にかけて開催された。
現地のスタートアップコミュニティが、「専門領域を超えた知識の交換、コラボレーションを通して人をつなげ、ともに成長すること」というビジョンを掲げ、当初はクラウドファンディングを通じて2012年にスタートしたTOAも今年は7回目を迎えた。
筆者自身も14年度から通算で5度目の参加となり、年々規模が拡大していくTOAを目にしてきた。大規模イベントであるため、一部のイベントやセッションにしか足を運ぶことができなかったものの、写真とともに今回のTOAをざっくりと振り返ってみたい。
メインイベントとサテライトイベントに2万名が参加
まず、TOAの構成だが4日間のプログラムは、メイン会場で行われる2日間のトークイベントと展示ブースを中心としたメインイベント、ベルリン市内のさまざまな企業やスタートアップがホストして開催するサテライトイベント、TOAのスピーカーや投資家、メディアなどが中心に参加する限定メンバー用のOpen Circleの主に3つで構成されている。
チケットが数百ユーロするメインイベントと比較するとサテライトイベントはより手頃な値段で気軽に参加できる形態となっているが、両方の参加者を合わせると、主催者いわく今回はおよそ2万名がTOAに参加したとのことだ。
テクノロジーの本質や意味を問う
もともとTOAは、ベルリンのアイデンティティともいえるアートシーンとテックシーンをうまく融合させ、異なる領域の者同士がアイデアを交換させることを重視してきた。スタートアップの成長ノウハウなど事業戦略に関わるトークも少なくないが、むしろそうしたところから一歩下がって、テクノロジーの可能性について自由に想像したり、テクノロジーや人間の本質について問うものも多い。
たとえば、現在70年代以来のブームがきているというインスタントカメラのポラロイド社の28歳のCEO、Oskar Smolokowski氏のトークは、スマートフォン時代で誰もが高機能のカメラをいつでもどこでも使える状態にあるにかかわらず、ユーザーがポラロイドカメラを求める理由と背景を考察するものだった。
写真を撮る、その場で撮った写真を近しい友人と楽しむという目的が明確で、その機能が限定されているからこそ、敢えてお金を払ってでもカメラを買う人が増えているというのは、多機能なデバイスとユーザーとの関係性を考える上でとても興味深い題材だった。
ブロックチェーン、機械学習など旬なテーマも
そのほか、メインイベント、サテライトイベント、展示ブースを通じて今年は特に目立っていたテーマがブロックチェーンだ。決済システムのRippleのCTOによるトークや、ブロックチェーンプラットフォームのLiskの展示ブースなども存在感があり、またサテライトイベントでも今年オープンしたばかりのブロックチェーン関連のビジネスに特化したコワーキングスペースのFull NodeやブロックチェーンベースのエクイティファンドレイズプラットフォームのNeufundがイベントをホストするなど、ベルリンにおけるブロックチェーンコミュニティの急速な成長が感じられた。
また、Google CloudのChief Decision Scientistを務めるCassie Kozyrkov氏による、機会学習の本質を噛み砕いて説明するトークセッションも人気を集めていた。
ダイムラー、グーグルなど大企業の存在感
そのほか、展示ブースなどで存在感を出していたのはドイツを代表する自動車メーカーの一つであるダイムラー社やT-モバイル、グーグルなどの大手企業だ。こうした大手企業の参加がTOAで圧倒的に目立ち始めたのはここ2、3年のことであり、ベルリンのスタートアップシーンにおけるエコシステムの変化を感じるところだ。
グーグルは、今年の秋にはベルリン市内に新たにグーグルキャンパスをオープンさせる予定だ。すでにGoogle for Entrepreneur という起業家支援チームによる活動はここ数年ベルリンで続いているが、さらにローカルなコミュニティに受け入れられたいという意図もあるかと思う。グーグル内外のスピーカーによる、トレンディなテーマを扱ったトークセッションを終日専用ブースで開催し、多くの参加者を引きつけていたのが印象的だった。
また、ダイムラー社のブースもグーグルと並んで目立っていたが、同社が運営しているインキュベーターに参加している5-10チームもブースを有し、同社のデジタル化戦略にあったプロジェクトを披露していた。関係者によると、今回はダイムラー社の社員も多くTOAに参加しているとのことで、自社がデジタル化の波にのって大きく変わろうとしている姿を多くの社員に知ってもらいたいという動機もあったようだ。
日本企業からも多くの参加者が
筆者はTOAに参加するのが今回5回目となったが、日本からの参加者が増えたのは昨年からのことだ。今年も昨年に続いて、TOA TokyoというTOAの世界ツアーイベントを東京で開催しているメディア企業のインフォバーンが公式ツアーを企画したこともあって、会場でも日本人らしき参加者の姿をよく見かけた。
日本人に限らず、ベルリン以外の場所からTOAに参加する人の割合は、ここ数年でかなり飛躍したように感じる。その分、初期のローカルな起業家コミュニティが作り上げていた独特の熱量みたいなものはかなり穏やかになったが、スタートアップエコシステムの成長とともに関係者の構成が変化していくのは必然とも言えるだろう。
ざっくりとした紹介となってしまったが、ベルリンのスタートアップシーンを体感するには、TOAはもっとも良い場所であると思う。次回は来年の夏に開催予定だ。
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