DGと北海道新聞、「OnLab北海道」の第1期デモデイを開催——恋愛コミュニケーションをAIが支援する「AILL(エイル)」が最優秀賞を獲得

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本稿は、10月10日〜14日に札幌市内で開催されている「No Maps 2018」の取材の一部。

デジタルガレージ(東証:4819)と北海道新聞のジョイントベンチャー、D2 Garage(ディーツーガレージ)が運営するスタートアップアクセラレータ「Open Network Lab HOKKAIDO(以下、OnLab 北海道)」は12日、札幌市内で第1期のスタートアップを披露するデモデイを開催した。このアクセラレータは、昨年、札幌で開催されたクリエイティブ・コンベンションイベント「No Maps 2017」で開設が発表されたもので、第1期は今年4月20日にローンチし、6月末にキックオフを迎えた。

デモデイの冒頭で登壇した OnLab 北海道コミュニテイーマネージャーの山崎清昭氏によれば、第1期プログラムには54チームの応募があり、17チームが面接審査を通過、6社が採択された。当初は観光や一次産業系のスタートアップが多くなることが予想されたが、実際には AI を活用したアイデアプロダクトが多くなったという。キックオフからの3ヶ月間、週1回の頻度でメンタリングが実施されデモデイの日を迎えた。本稿では登壇した5社を紹介したい。

デモデイで審査員を務めたのは、

  • さっぽろ産業振興財団 専務理事 酒井裕司氏
  • DRAPER NEXUS マネージングディレクター 中垣徹二郎氏
  • ムラタオフィス代表 村田利文氏
  • ファームノート代表取締役 小林晋也氏

<情報開示> 筆者も今回審査員を務めさせていただいた。本稿記事中には評価的要素を含めていない。

【最優秀賞】AILL(エイル)by GemFuture

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厚生労働省の調査によれば、20〜30代の正社員独身者の半数以上が恋人がいないと回答しており、その理由として、建前では「忙しい」や「恋愛のノウハウが無い」という回答が多いという。しかし実際の理由は、「恋愛で傷つきたくないから」というのが深層心理にある、と GemFuture は見立てる。成果主義が浸透し、結果が明確に見えないことに努力しづらい世相も影響しているのだろう。

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GemFuture が開発した「AILL(エイル)」は、カップル間のチャットを支援する AI サービスで、好感度や告白成功確率を上げ、両者の関係性を進展させるべく AI キャラクターがナビゲートしてくれる。恋愛における心理的ハードルを下げることに特化しているのが最大の特徴。これまでに1,000人を超える会員を獲得しており、その86%が「(AI による)ナビゲートが必要」と回答した。企業への福利厚生サービスとして導入支援が決定している。

【オーディエンス賞】MyDee by CryptoLake

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CryptoLake は、分散型のパーソナルデータストア「MyDee」を開発。ユーザは自分の ID やパスワード、プロフィール(デモグラフィックデータ、ペルソナデータ)などを Web サービス側に保持されることなく、暗号化された状態で DropBox、Google Drive、スマートフォンなどに保存でき、情報を管理するイニシアティブを自身の手に取り戻すことができる。

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ユーザが自身の情報を能動的に Web サービスや事業者に開示しリワードを得ることができるオファーマーケット機能も提供。事業者の業態に応じて開示する情報内容を最適化し、ブロックチェーンにより透明性を確保。また、ペルソナデータを蓄積し、ユーザの一生を通じてのサービス利用状態(ライフログ)取得の事業も構想に入れている。同様のサービスは、DataSign、電通、三菱 UFJ 信託銀行などが提供または開発に着手している。

miParu Card by ミルウス

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医療やヘルスケアに関わる情報(お薬手帳、母子健康手帳、血圧手帳、健康診断の結果、レントゲン、CT スキャンなど)は、バラバラに管理されていることがほとんどだ。規模の大きな病院であれば院内にサーバを設置して管理していることもあるが、管理の手間とコストがかかる。クラウドを使うと、セキュリティ面での考慮や災害時にもアクセスを確保するための堅牢性が求められる。

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ミルウスの「miParu Card」は、これらの情報を大容量の記録が可能なカードに一元化することで問題を解決する。詳細な技術仕様は不明だが、公開暗号方式によりセキュリティが確保されており、日本・アメリカ・中国・ EU で特許を出願中。今年、札幌ライフサイエンス産業活性化事業に採択され、北大医学部との共同研究では、医師・薬剤師・患者間の処方箋共有を実現させた。来年以降、デジオンから miParu SDK の販売を予定しており、外部サービスとの連携にも注力する。

AI Road Heating Optimizer by TIL

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積雪がひどい地域では、道路上をヒーターで融雪するロードヒーティングが敷設されているが、エネルギー効率が悪いのが難点だ。札幌市では、電気代を含む年間維持費が12億円かかっているという。TIL によれば、ロードヒーティングのエネルギー効率が悪い要因の一つは、ヒーターの電源を制御するセンサーの性能が悪く、降雪と降雨を正確に区別できないからだという。その結果、雪が無い状態においてもロードヒーティングが作動してしまい、電力消費にムダが生じる。

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TIL が開発した「AI Road Heating Optimizer」では、画像解析によって降雪状態を適切に判断。過去のヒーター利用時と融雪状態などのデータをもとに、AI がヒーターの最適な電源制御を行う。札幌市内の15カ所で実証実験を行い、最もパフォーマンスの良かったケースでは燃料コストの50%削減に成功したという。北海道大学構内のセイコーマートに導入予定。初期費用無料、成功報酬型のモデルで大型商業施設やマンションなどへの導入から始め、将来は北海道のみならず、日本の降雪地域、アメリカ、カナダ、北欧にも進出したいとしている。

満室ナビ by ライトブレイン

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不動産オーナーは空室が出ると、近隣の強豪物件と同じ家賃、または、それより安い家賃に設定にするなど、金額面でのアプローチをとるのが一般的だ。しかし、勘と経験だけに頼った安易な値下げはオーナーにとって家賃収入の減少を招き、入居者の審査が結果的に甘くなることで家賃未払などのトラブルさえ生じやすくなる。

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ライトブレインが開発する満室ナビは、公開されている賃貸不動産110万件の情報、127件の設備要件などを収集し、不動産オーナーが市中の満室物件と設備や条件を比較できるサービスだ。入居者ニーズをとらえ、各設備の保有率などを把握することで、空室に悩む不動産オーナーがどういう対策を施せばいいのかがわかる。


D2 Garage 代表取締役の佐々木智也氏によれば、今回の OnLab 北海道の第1期修了により、東京で運営されている Open Network Lab(今週、第17期デモデイが開催された)とあわせ、通算で輩出されたスタートアップの数は100チームを超えた。今後は、Open Network Lab BioHealth などバーティカル特化プログラムの動向も期待されるとことだ。

OnLab 北海道の第2期は、2019年3月頃に募集が始まる予定。プログラム採択者には、メンタリング、資金、特典、コミュニティインキュベーションオフィスのスペースなどが提供される。

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