エネルギー新市場でスタートアップが勝ち抜くには?——エネチェンジ創業者の城口洋平氏に聞く【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


世界のエネルギー市場は、自らの姿を変貌させつつある。過去70年間における変化は小さなものだったが、これからの10年間で、日本や世界のエネルギー市場は全く異なる様相を呈するだろう。

今日は、日本最大の小売エネルギー切替プラットフォーム「エネチェンジ」の代表取締役会長である城口洋平氏に話を聞く。エネチェンジのビジネスモデルに迫り、会社を始める上でイギリスやヨーロッパより日本が都合のいい場所である理由について、城口氏は興味深い考察を教えてくれる。

今回も素晴らしいディスカッションなので、お楽しみいただけると思う。

エネチェンジ 代表取締役会長 城口洋平氏

Tim:

興味深いのは、エネチェンジがスタートしたのは2015年4月ということですね。これは、消費者がエネルギー事業者を切り替えできるようになる前のことでした。

城口氏:

はい。法律が変わった時に我々の準備が整っているよう、意図的に規制緩和の1年前に会社を設立しました。

Tim:

そういうことなのですね。しかし、市場がまだ存在していない市場への事業に、投資家をどうやって見つけることができたのですか?

城口氏:

ヨーロッパのエネルギー市場は2008年頃に規制緩和されているので、この市場がどのように発展し、エネルギー切替プラットフォームがどんなに良いビジネスになるかを、潜在投資家に説明することがができたのです。

Tim:

お客さんについて教えてください。エネチェンジを使っているのは、どういう人たちですか?

城口氏:

我々のお客様は、エネルギー市場全体の動向を反映していますね。日本のエネルギー市場の半分は小売顧客7,000万件、残りの半分は商業や産業の顧客およそ100万件です。エネチェンジの売上の約半分は商用利用から、約半分が住居利用からです。

Tim:

エネチェンジは、住居利用のお客さんにも、商用利用のお客さんにも、同じ内容を提供しているのですか?

城口氏:

実際のところ、提供内容はかなり違っています。住居で利用されるエネルギーは極めて単純なので、いくつか利用できる選択肢を提示し、お客様には最適なものを選んでもらいます。我々は、推薦した事業者から手数料を受け取ります。Web ベースで処理が完結します。商用利用のお客様では状況がより複雑なので、専任の担当者がお客様毎に料金プランを開発します。

Tim:

お客さんが、特定のエネルギー事業者を選ぶ上で、主な理由は何でしょうか?

城口氏:

クリーンエネルギーやグリーンエネルギーを宣伝している事業者は数多くいますが、お客様の95%は価格で選んでいます。信頼性は言うまでもなく重要ですが、それが疑わしい事業者にはエネチェンジを使ってもらっていないので、選択の判断はほぼ価格を元に行われているのが現状です。

Tim:

エネチェンジを始められたわけですが、他にもイギリスで事業を創業されていますね?

城口氏:

はい。21歳の時に日本で最初の会社を創業し、それを少額で売却しました。博士号を取得しにケンブリッジ大学に通いながら、エネルギースタートアップを3社設立しました。Cambridge Energy Data LabSMAP (Smart Meter Analytics Platform、エネチェンジです。

Tim:

ということは、エネチェンジはイギリスで運営しているのですか?

城口氏:

いえ、エネチェンジは今や極めて日本の会社です。私は自分の時間の半分をイギリス、残りの半分を日本で過ごしていますが、エネチェンジの経営陣やスタッフは全員日本にいます。

Tim:

エネルギー事業者切替以外にも、事業を拡大させる計画はありますか?

城口氏:

はい。我々の事業はまだ第一段階にあり、エネルギー業界に対して、より深いソリューションを提供する計画です。現在はエネルギー事業者の顧客獲得を支援していますが、今後、顧客の管理のほか、どのお客様が利益に貢献しているかの把握や、スマートメータのデータ解析を支援したいと考えています。エネルギー企業は規制緩和以前、特定の顧客が利益に貢献するかどうかを意識する必要はありませんでした。以前はただサービスを提供し、市場全体として利益が出ていればよかったのですが、それが急速に変化しつつあります。

Tim:

それは興味深いですね。言ってみれば、過去100年間は政府がエネルギー事業の唯一の顧客だったわけですね。エネルギー事業者は規制当局に新しい発電所の建設や料金値上の許可を求めるので、エネルギー事業者にとっては規制当局の反応だけが重要だった。エネルギー事業者にとっては、エネルギーの消費者が顧客になると言うのは、極めて新しいコンセプトなんだろうと思います。

城口氏:

そうですね。それは日本だけでなく、市場の規制緩和が進む中で、世界中で起きていることです。

Tim:

日本では、すでにエネルギー小売事業者が400社を超えています。将来、どういった企業が生き残ると思いますか?

城口氏:

最も速く新しいテクノロジーを取り入れて活用できる企業でしょうね。日本のスマートメーターやデータ品質は、他の市場より遥かに優れていますから多くの事業機会がありますが、結局のところ、テクノロジーを理解した企業の経営効率が最も高まるので、その効率が最も良い企業が勝つことになるでしょう。

Tim:

この種のテクノロジーにおいて、日本は他の市場より進んでいるんでしょうか。遅れているのでしょうか?

城口氏:

私の知る中でイギリスと日本は最良の市場で、この2つの市場の間に大きなテクノロジーの差は無いように思います。どちらの市場においても、企業はまだ理解をし始めたところです。しかし、日本はスタートアップを始める上で、より都合のいい場所だと思います。

Tim:

なぜですか?

城口氏:

日本の方が市場が大きく、買収や IPO といったイグジット機会が多いからです。金融業界を除けば、イギリスのスタートアップは M&A や IPO の機会を求めてアメリカを目指す必要がありますが、日本のスタートアップには買収機会へのアクセスがあり、地元市場で IPO への明らかな道筋が拓けています。この事実は、スタートアップが成長する上で、多くの選択肢をもたらしてくれます。


スタートアップがエネルギー市場で差別化するのは難しい。城口氏が指摘したように、消費者の大多数が価格を元に事業者を選ぶ環境においては特にそうだろう。日本では現在、エネルギー事業者として400社が登録されているが、そのうちの多くが将来、事業から撤退することは間違いない。

城口氏の日本市場に対する評価にも勇気づけられた。かつて私は、日本のスタートアップがさらなる成長が見込める段階で IPO してしまうことに対し、時期尚早過ぎると批判したことがある。これは日本をサンフランシスコと比較すると、そういうことになるわけだが、イギリスやヨーロッパ市場と比べれば、状況は極めて違って見える。

いずれにせよ、日本はスタートアップを始める上で素晴らしい場所だ。エネルギーや金融で規制緩和が進むにつれ、日本をディスラプトするスタートアップがさらに生まれてくることだろう。

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