極寒のバルト海に身を投じピッチするイベント「Polar Bear Pitching」の第6回が開催——古本マーケットプレイス制作のBookisが優勝

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ゲーム会社 Rat Crew Studio をピッチに挑む、同社 CEO Akseli Jylhä-Ollila 氏
Image Credit: Polar Bear Pitching

年に一度、フィンランドのオウルで開催される「Polar Bear Pitching(北極熊ピッチ)」は世界で最もクールなスタートアップコンテストかどうかは分からないが、最も寒い場所でのコンテストであるのは間違いない。毎年、凍てつくバルト海の一角に主催者が穴を開ける。そして12人の起業家たちが、ほぼ氷水状態の海に入って競い合う。

ルールはいたってシンプル。起業家は水中に入っている間、ピッチできるというものだ。

オウルを本拠とするRat Crew Studios の創業者兼 CEO Akseli Jylhä-Ollila 氏は次のように話している。

私たちは参加資格がありますが、なんとも寒いです。

マイナス10度という極寒の中、寒冷地用のコートを身にまとった数百人の観衆を前に凍てつく海水に胸まで浸かって同氏は立っていた。

そこには何か考えがあると思われるだろうが、重要なのはその点だ。このピッチのアイデアを思いついたのは、6年前にオウル大学のスタートアップハブ Business Kitchen で働いていた Mia Kemppaala 氏である。オウル最大の雇用主であった Nokia は携帯電話事業を Microsoft に売却した後、大がかりなリストラを進めていた。そのあおりを受けて、フィンランド北方にあるこの都市の経済環境は悪化していた。

スカンジナビア北部の首都と宣伝しているこの都市の人口は約25万人である。当時、オウルの経済が逆風に耐えられるとは誰も思っていなかった。

実に悲観的な状況でした。

でもフィンランドでは、厳しい時こそ皆が団結するのです。(Kemppaala 氏)

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フィンランドには、困難に直面している時の忍耐を表す「シス」という言葉がある。Kemppaala 氏によると、ホッキョクグマ・ピッチが生まれた背景にはシスがある。面白おかしいユーモアで地元の人々の関心を引き、オウルのスタートアップの力になれることで、この地域にある別のテックの資産を宣伝できる方法はないかと考えていたという。

オウルの起業家たちは優れたアイデアを持っていたようだが、それを表現するのが得意ではなかったとKemppaala 氏は話している。寒中水泳という地元の風習を織り交ぜる考えが浮かんだ時、ピッチコンテストのイメージができていった。プレゼンに集中しながら、氷点下に近い海水につかる苦行に耐えられる姿を見せること以上にアピールできる方法はないだろう。

これがオウルの素晴らしいところです。これほどクレイジーな考えでも、皆が受け入れてくれるのです。

私が参加したのは、第6回イベントだった。この地域のスタートアップとテックのコミュニティを取材するメディアツアーの旅費を支払ってくれた地元団体「Business Oulu」のゲストメンバーとして、私は先週オウルにいた。

イベントが始まる前、私たちは市中心部から離れたバルト海の一角に開けられた氷の穴へと向かった。

水中には、プレゼンターが足をつく高台が置かれている。そのため、強い海流に身をすくわれてスウェーデンに流されてしまうことにならない。イベント開催中は、緊急時に備えて訓練を受けたダイバーが待機している。プレゼンターはスタートアップをピッチしようと氷のような海水の中で立っているのだから、その組み合わせが少し面白かった。

夕方戻る頃には太陽が沈みつつあり気温も低下、風が吹き始めていた。

多くの地元民がこのイベントに集まり、コンテストを一目見ようといくつかのコーナーでは人だかりができていた。

ピッチしたのは次の12社である。

  1. Bookis………古本のマーケットプレイスを制作
  2. Mealbox………健康食のデリバリー
  3. Doerz………都市や旅行代理店向けのクラウドベースのプラットフォーム、地元の案内人とともに体験を提供
  4. Kidday………子どもの写真と記念をより良く管理するアプリ
  5. Delektre………個人用の健康モニタリングデバイス
  6. Funky Jump
  7. Rat Crew Studios………オウルを本拠とするビデオゲーム企業
  8. Zenniz………テニススキル向上を目指す追跡システム
  9. Simlab IT………仮想現実の訓練
  10. AISpotter………スポーツ向けビデオアナリティクス
  11. VideoCV………ビデオベースの求職
  12. New Cable Corporation………新しい形の電子ケーブル
力士のコスチュームでピッチに臨む、日本の Funky Jump CEO 青木雄太氏

拷問のようなピッチを数分間こなした後は、その場をすぐに離れてメインステージに設けられている温かいバスタブに身を沈めた。

審査員による判定の結果、Bookis が優勝した。ピッチは下にある動画のような形で行われた。何というか、見せ場もあるので最後まで見る価値はある。

イベントが終了したのは午後9時頃で、寒さに耐えるのは皆もう十分だった。私も分厚いブーツを履き、寒冷地用のジャンプスーツを着ていたものの、手足の感覚がなくなりかけていた。スタートアップのピッチが進んでいくにつれ、この状況を克服するのは難しくなるだろう。今度は、温かい部屋でゆったり座って、起業家の人たちに次々とピッチしてもらうことにしよう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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