GCPが360億円ユニコーンファンド、最大50億円出資も可能ーー今野、高宮 両氏に聞く「連続起業家の再現性」について

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写真左から:グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー今野穣氏、高宮慎一氏

ニュースサマリ:日経が報じている通り、ベンチャーキャピタル事業を手がけるグロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は16日、6号ファンドの設立を公表する。3月29日時点での一次募集で集まった資金は360億円。6月末の最終募集で375億円のファンド総額を目指す。

一次募集での出資者は三井トラスト・グループ、日本政策投資銀行、中小企業基盤整備機構、東京海上アセットマネジメント、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友銀行、横浜銀行、その他企業年金基金や金融法人、大学基金などを含む。ファンドにおける機関投資家の割合は8割になる見込み。

GCPは1996年に設立した1号ファンドから数え、23年での運用総額は1000億円を超える。累計投資先は150社以上、メルカリやユーザベース、ビープラッツ、すららネットなどの成長を支えた。

6号ファンドではレイターシードの企業から時価総額1000億円を超える「ユニコーン・ラウンド」までの成長企業を継続支援する。そのため、1社あたりの投資金額を50億円まで可能としている。また、大企業からのカーブアウト(事業分離)やMBO(マネジメント・バイアウト、経営陣による買収)も積極的に取り組む。

話題のポイント:スタートアップ支援で欠かせない、独立系ベンチャーキャピタルというポジションで常に業界をリードしてきたGCPが大型ファンドを公表しました。本稿ではその方針や、そもそもの「起業家」を科学する手法について、代表パートナーの今野穣氏、高宮慎一氏に詳しく話を伺っています(太字の質問は全て筆者、回答は両氏)。

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GCP過去最大の規模のファンドになった。方向性を整理したい

今野:今回の6号ファンドでは「日本発ユニコーン創出(10億米ドル規模の評価企業)」を掲げ、レイターシードからプレIPOラウンドに至るまで一貫してリードインベスターとして支えられるファンドとなることを目指しています。そのために過去最大の360億円という規模、かつ1社当たり最大50億円を投資可能な新ファンドを組成することになりました。

出資対象の企業ステージや出資額など目安は

今野:従来通り、シリーズAやその少し手前の段階から出資をしていく方針に変化はありません。ユニコーン企業になるためには概ね100億円程度の外部資本が必要と考えています。このうち、本質的なリードインベスターとして1社あたり累積50億円を投資できる受け皿を用意することで、シリーズAからIPO前まで、支援の手法は変わらずとも、あらゆるステージの資金調達に対応できることになると考えています。

出資の対象についてもうひとつ。ミラティブの例が記憶に新しいが、既存事業をMBOしてグロースさせるような手法は今後、どのように考えているのか

高宮:グロースキャピタルについても積極的に取り組んでいきます。これまでバイアウトファンドでは小さすぎ、かつVCファンドでは大きすぎ、ホワイトスペースとなっていた時価総額数十億円規模のカーブアウト・MBO案件についても積極的に取り組んでいく予定です。

スタートアップの支援策について。採用やバックオフィスなど、従来、パートナーがハンズオンで個別にアドバイスしていた内容をチームとしてバックアップするスタイルが拡大していると聞く。GCPとしてどのような体制・策を取るのか

今野:投資先支援としては新たな取り組みとして、投資先支援機能を専門とする「Value Add Team」を組成しています。投資担当とは異なる専任のチームで、経営者を対象にしたクローズドな合宿や勉強会の開催、また投資先が相互に刺激・学びあう場となるような投資先コミュニティー創り、緊急性の高い採用周りの支援等を実施していく予定です。

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全て内製するのか

高宮:いや、これまでもやってきたことなんですが、人事やマーケティング、IPO準備などキーとなる特定分野については外部の専門家と組んだアドバイザー・ネットワークを提供していく予定です。

ーーここはもう少し深く掘り下げてみたい。今、スタートアップの事業支援で話題になるのは一にも二にも「人材」だ。

GCPでは、スタートアップ支援をHR・IR・PRなどから入るそうで、採用は当然ながら力を入れている。支援方法も、採用エージェントによる母集団(タレントプール)を作るだけでなく、これまでのネットワークを活用した一本釣りもするし、また、重要なポジションについては間に入って面談することもあるという話だ。

「良いことも悪いことも全部言う。入ってから大混乱の方が問題(今野氏)」と、スタートアップ採用の難しさを垣間見せつつ、ベンチャーキャピタルが企業の透明性を担保する役割を担っているという話が興味深かった。

話を二人のインタビューに戻す。

具体的にどのぐらいの人員配置を実施する

今野:ファンドの大型化に伴い、ファンドマネジメントに加えてファームマネジメントを強化します。主要キャピタリスト7名とバックオフィス1名が、経営チームとしてそれぞれ適材適所の責任をもち、より一層組織力を上げようと考えています。

少し話題を変える。国内の既存企業はファンドへの出資と並行してオープンイノベーション(協業)による新規事業創出の取り組みも続けている。ファンドとしてはWiLが資金を預かりつつ、同時に出資者と共同で事業を立ち上げるような例もある。GCPとしてオープンイノベーションの動きをどう見ている

高宮:ファンド投資家の属性でいうと、今回の投資家はほとんどが機関投資家となっています。そのため、資金をお預かりする代わりにオープンイノベーションのインテリジェンスやコンサルティング的支援を提供するものではありません。

一方で投資の視点でいうと、日本から定常的にユニコーンを創出するために、世界レベルで競争力があるベンチャーや産業を育成する必要があると考えています。そのためには、今まで脈々と築き上げてきた日本の強みである大企業や製造業の資産に、新しい日本発のイノベーションを掛け算していくような投資をしていきたいと思います。

具体的には

高宮:投資先の大企業との協業、大企業と弊社との協調投資はより増えると考えています。またカーブアウト・MBOでは、親会社の大企業が一部持分を残す場合が出てくると思います。その時は共に切り出した事業を大きく成長させていくことになりますし、またカーブアウトをすることそのもので大企業の集中と選択を促進し、より競争力を強化することに貢献できればと考えています。

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この10年を振り返ってスタートアップ投資の環境は随分と変化した

今野:10年ほど前は金融系VCと僅かな独立系VCしかおらず、1社に対して3億円を投資できるだけで競争力となっていました。また、VCファンドに投資する投資家も日本の機関投資家は僅かしかおらず、弊社も海外の機関投資家に頼っていた部分もあります。

私も取材していて、当時1億円の出資に大きなニュースバリューがあったのを記憶している

今野:今や多様な起業家支援のモデルや日本国内においても多様な投資家にご参加頂けるようになったのには隔世の感がありますね。

第四次産業革命真っ只中の現在、日本も遅ればせながらユニコーン企業を徐々に輩出し、日本から海外に飛び出していくサービスや、日本の巨大産業を本格的に変革していくサービスが生まれ始めてます。

C2C分野のメルカリや、ニュースでもユーザベースがQuartzを買収するなど、まさにその事例を生み出す側の支援をしている

今野:その一方、マーケットシェアを獲得していくには、より強烈な垂直的立ち上がりを求められている部分もあります。まさにヒト・モノ・カネ・チエを日本のエコシステムとして結集する試金石となっているタイミングです。

まさにここからの10年、大企業・スタートアップ・そしてそれを縦(時間軸)横(業界)をつなぐハブとしてのベンチャーキャピタルなどの支援機能が、どれだけ多くの産業リーダーを作り上げらえるかが、それ以降の日本の将来を左右するのではないでしょうか。新一万円札に渋沢栄一氏が採用されて話題になっていますが、社会に必要な後世に残る事業の礎を、起業家とともに築いていきたいと思っています。

ありがとうございました。

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GCPキャピタリストチーム・写真提供:グロービス・キャピタル・パートナーズ

ーーGCPの動向は起業家であれば気になる人も多いと思う。インタビュー途中、私は「次の起業家をどう見つけるか」というシンプルな質問を投げかけてみた。

キーはシリアルアントレプレナーだ。

大きな成功を目指し、上場までに100億超の資金を拠出しようとするとやはりそこには「信用」が必要になる。そのパスポートを有しているのが経験者、というわけだ。

また、今野氏に言わせると、彼らは「経験値」と「人脈」に要素分解ができるという。個人としてシリアルアントレプレナーでなくとも、経験値は特定業界の出身者であれば積むことができるし、経営や人脈についてもコンサルなどの出身者はその力を有している場合がある。

つまりチームでシリアルを再現する。こういうケースであれば、初回のスタートアップであっても投資検討の範囲に入る。

この10年で随分と起業の現場は科学が進み、システマチックになった。投資・起業両面で裾野が広がったと言えるだろう。一方で、大きな成功を目指し、それを実現できる起業家を再現性持って生み出すまでには至っていない。

産業の創出が科学されればそこには仕事が生まれ、人生が動き出す。スタートアップをマネーゲームではなく、社会を生み出す活動にできるかどうか。

成長してきたエコシステムの「次」の姿を楽しみにしたい。

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