事業成長こそチーム課題解決の鍵ーー佐俣アンリ&佐藤裕介両氏が語る強い起業家「共通項」

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写真:ANRIの佐俣アンリさん・hey代表取締役の佐藤裕介さん

スタートアップ界隈はこの10年で随分と科学が進んだ感があります。特にエポックメイキングな出来事はやはり、2010年頃に日本でも始まったアクセラレーションプログラムなどによる、構造的な起業支援の仕組みの始まりです。

属人的だった起業家育成を体系化し、投資やグロースなどの一部仕組みを再現性あるものにしました。また、定期的に開催される成果発表の「DemoDay」はパブリシティ効果を生み、スタートアップをひとつ上の「社会を変える新たな経済活動」に押し上げていったように思います。

一方でまだまだ未解決な分野もあります。例えばまだ見ぬ起業家の発掘と、組織作りの妙味です。

起業家やそのチームはどのようにして生まれるのか?ーーこの問いについて、興味深い話題を提供してくれたのが独立系ベンチャーキャピタル「ANRI」の佐俣アンリさんと、hey代表取締役の佐藤裕介さんのお二人。それぞれUUUMやラクスル、フリークアウトなど、次の世代を支えるスタートアップを支援、実務の両面から支えてきた人物です。

本稿では5月29日に開催するスタートアップのインキュベーションプロジェクト「SEEED」の開催を前にお話を伺ったので、その内容を共有いたします(太字の質問は全て筆者)。

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数多くの創業、起業家を見る中で、お二人の考えるチームの課題についてお聞きします。創業期(PMF前後)から成長期(上場まで)として形式的に切った場合、それぞれに発生する組織課題にはどのようなものがありましたか?

佐俣:まず、そもそもの大前提として「適切な事業をやれているかどうか」はしっかりと考えるべきですね。もちろん様々な問題がありますが、事業が伸びないということがチームの課題を生じさせる大きな要因になることは多いです。

佐藤:実際、多くのスタートアップってPMFすることなく終わってしまいます。そう考えれば、逆にPMF以外のあらゆる問題は創業期においては些末ですよ。

事業検証が終わってないのに最初から経営陣をパーツのように揃えようとする

佐藤:組織課題について延々と気にしている方もいますが、むしろPMF仮説をいくつかの検証可能サイズに分割し、リーンにデータをみながら欲しがられる製品に仕上げていく、ということだけをやっていれば問題ないと思います。

佐俣:本当に解くべきでない課題につっこんでしまうのはあるあるかもしれません。本当に解くべき課題が何かを見つけられず、そこまでたどり着けない起業家も多いです。ちょっと禅問答的ですが「困難だが解くべき課題を解くべき課題」というか。

PMFについてはそれぞれの製品・マーケットで起業家なりの答えを見つけるしかないと思いますが、ここに運良くたどり着けたケースもお二人は見ていると思います。「その後」に発生する課題はどのようなものがありましたか

佐藤:一次のPMF以降は、組織的に製品の累積改善数を最大化していくための採用、組織習慣の埋め込み、型化あたりでさまざまな課題がまた発生してきます。ただ、このあたりの悩みは、PMFを突破した経営者にのみにおとずれる贅沢な課題なので解くことを楽しめるといいですね。

確かに贅沢な悩みですね

佐俣:組織の課題は常に自分たちの事業に「意味がある人材」がとれないということに尽きると思います。課題のない組織ってないですから、繰り返しですが、起業家が成長するためには、事業が成長するしかない。いろいろ降って湧いてくる課題を乗り越える事業成長をつくるしかないと思います。

佐藤:こういった課題の解き方は企業文化、事業内容などによって個別に最適解が異なることもあるので、やっぱり自分らしく楽しんでやれるのがいいと思います。

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具体的な起業家で、お二人から見て組織づくりに特徴的なポイントがあった事例について教えてもらえますか

佐俣:解くべき課題が見つかったと確信して、長く種を撒き続けれる人間、という意味ではラクスルの松本恭攝(やすかね)さんですね。誰もシェアリングなんて言ってない時期から信じ続けたから大きなトレンドになりました。

事業領域の先見性があった

佐俣:だからだと思います。経営陣の能力不足が起きなかったのは経営者のビジョンが強かったからです。より自分たちにとって必要な人材を問い続けたし、何よりも創業者が願い続けました。結果的に立ち上げるたびに周りに優秀な人が置けたんです。

数年後の当たり前を信じてそれに必要な役割を考え、待ち続ける

佐俣:UUUMも同じです。個人のエンパワーメントなんて見向きしない時期を乗り越えましたよね。他の人が気が付いていない時にやれている。こういった冷静な市場の見極め・腹決めって本当に大切です。他の人に褒められないと不安だなんて思ってる人は難しい。

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佐藤さんはご自身も起業家としてフリークアウト・イグニスの成長に寄与した

佐藤:初期的な成長という意味においては、物理的な働く量が少ない起業家でうまくいってる人は見たことがありません。さまざまな諸条件があるとは思いますが「働いている」というのは前提条件です。

成功する起業家の行動パターンは

佐藤:検証したい仮説を常に持ち、いまどの仮説を検証しているかがはっきりしていることですね。その上で、仮説検証サイズを適切なサイズに分割できていること、複数の検証を負わず、ひとつひとつ処理していっている起業家がうまくいっている印象です。量と質の双方の検証を同時期に実行しない。

ちなみに佐俣さんは起業家としての佐藤さんをどう見てますか?

佐俣:長期の事業をどうつくるかのビューが強いです。短期で「すごいがんばる!」というよりは、長期的にどういう人と働きたいというビューが見えているんじゃないでしょうか。手がけているのがインフラのような事業モデル、ということもあって、結果的にチームとしても長期的に付き合えるメンバーが採用できていると思います。

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これからのエコシステムを考える上で、次のスタートアップに期待したいですが、10年前に比べて前提条件も随分と変わりました。お二人が考える次世代起業家に求められる要素のようなものがあれば最後に教えてください

佐藤:価値あるものは長い時間がかかります。

これまでは大きくて長期の事業は景気が登っていくところでしかできませんでした。実は大きなお金を合理的に食わせられる事業というのはそんなに多くありません。特にリセッションタイミングは、短期キャッシュフローが立つモデルが厚遇されがちです。

確かに堅実そうに見えるB2Bのモデルの話題が非常に多い印象はありますね

佐俣:お金も人も確実にこの世の中で一番恵まれた状況なのではないでしょうか。

佐藤:特にこのタイミングでのグロービス(・キャピタル・パートナーズ)さんのニュースは、景況感によらず長期視点で大きくなる市場で時間をかけて勝負できるという話です。

佐俣:なので、より社会的なもの、より困難なものに挑戦するべきです。

例えばミラティブの赤川(隼一)さんは自分が本当に尊敬できる人を諦めずに呼び続けてますよね。とにかく本当にいい人に数多く会って長期的に期待しつづける。いい人を決めて、執念深く追うことができる。

確かに結果的に優秀な人材が集まりつつあります

佐俣:大きなインパクトをだすチャレンジ、大きくバットを触ることに対しての期待が高まっている証拠なんだと思います。大きく触れるチャンスがあるのが、今の日本のスタートアップ業界じゃないでしょうか。

ありがとうございました。

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