メンタルヘルスをアプリで改善ーー認知行動療法実践アプリ「UpLift」がシード資金獲得

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ニュースサマリ:メンタルヘルススタートアップであるUpLiftは7月22日、シードラウンドでthe Laidir Foundationから100万ドルの資金を調達した。the Laidir Foundationはワシントン州にある非営利団体で、世界に良い影響を与えることを志向している。

同社はノースカロライナ大学医学部にてコンピューターによる認知行動療法(CCBT)を学んでいた学生により設立され、消費者向けにCCBTを実践するアプリを開発している。アプリでは、ユーザーに合った認知行動療法のボットによるセッションが提供される。最初のセッションは無料で、次のセッションからは月に29.99ドルのサブスクリプションプランが利用可能。

アプリは2018年に公開後、1万ダウンロードおよび1000人の有料会員を抱えている。同社が120人のうつ病患者を対象に行なったテストでは、標準的なうつ病スコアが1カ月で50%下がったという。同社は調達した資金を用いてプロダクトとチームを強化し、うつ病に苦しむ100万人にリーチすることを目指している。

話題のポイント:日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、メンタルヘルスに対して投薬ではなく「現実の受け取り方」や「ものの見方」といった認知にアプローチする方法論を認知行動療法といいます。

近年では今回取り上げた企業のように、コンピューターを用いてこの認知行動療法を実践するアプリケーションが多くリリースされています。以下の米国のVCであるWHITE STAR CAPITALによるマッピングでも、この認知行動療法が一つの分野として掲載されておりメンタルヘルス関連のスタートアップのうち33%がこの分野に該当しています。

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(Mapping out the Mental Health startup ecosystemより)

この分野ではセラピストとの対面セッションが高価格であること、また自分の精神上の問題を他人に公開することの心理的障壁があることを考えればコンピューターやAIが介在することの価値は高いでしょう。しかしながら対面ではなくセルフケアになるからこそ、顧客に継続的に使ってもらうことの難易度は高く、サブスクリプション型のビジネスモデルである認知行動療法アプリケーションの持続性には疑問符も付きます。

こうした背景を受けて最近は遠隔医療技術を用いて、ボットではなく実際のセラピストによるセッションを組み込んだシステムでの療法が実践されているようです。この場合、アプリケーションの使用から取得できる定量的なデータは、セラピストが対話の中から得る定性的な情報と合わせてよりパーソナライズされた治療が可能になります。

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Lyraウェブサイト

例えばメンタルヘルススタートアップのLyraではユーザーデータを用いて対面カウンセリング、オンラインカウンセリング、セルフケアアプリなどから適切な治療方法を提供しています。

また認知行動療法に関する新たな潮流としては、疾患予防やメンタルウェルネスといった治療ではない形のアプリケーションが多くリリースされています。この領域では瞑想アプリのCalmはユニコーンの仲間入りを果たしており、アメリカでは非常にポピュラーなアプリケーションになっています。ポジティブ心理学など疾患の治療ではなく人生をより充実させるための手段が充実してくる中で多様なアプリケーションが期待されます。

日本人は日常的なメンタルケアへの関心はあまり高くないように感じますが、アメリカほど対面のカウンセリングが普及していないからこそ、テクノロジーを用いたメンタルケアが普及する素地はあるかもしれません。(執筆:矢部立也

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