リオから世界を席巻するD2CスニーカーブランドCariuma、1,300万米ドルをシード調達——シンガポールに拠点を移転、来年までに日本進出へ

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今どき、靴のブランドを作るのは難しい。見た目や履き心地の良い製品を作ることも一つだが、消費者、特にミレニアル世代とジェネレーション Z は、〝目の覚める〟ようなブランドにますます惹き付けられている。マーケティングコミュニケーション会社 Shelton Group によるレポート「2018 Millennials Pulse」によると、ミレニアル世代は、社会的および環境的原因を尊重するレーベルを好む傾向にあることがわかる。

しかし、少なくともシンガポールに本拠地を置くブラジルのスニーカーブランド Cariuma の CEO 兼共同創立者 David Python 氏によると、これらすべての条件ボックスをチェックが入ることは稀だ。

非常に履き心地がよく、見栄えが良く、よく意識して作られた靴——大きなブランドを見ても、3つすべてが揃う靴ブランドはない。(Python 氏)

Image credit: Cariuma

サンパウロに本社を置く靴メーカー Arezzo&Co の最高商業責任者(chief commercial officer)としての在職中、彼は年間1,200万足の靴を販売していた。前述したような挑戦に取り組もうと、Python 氏と共同創業者の Fernando Porto 氏は、前述したすべての条件を満たすレーベルを始めた。

2018年の業界レポートによれば、アスレチックシューズの世界市場は、2025年に950億米ドル強に達する見込み。 Python 氏は、この成長にはいくつかの理由があると考えている。 技術面では、e コマースプラットフォームのクラウド上開設、世界中で受け入れられる決済手段、2日などの短い時間で特定地域に商品配達する機能などが確実に追い風となる。

Python 氏はこうも指摘した。

高価なドレスシューズ、アウトドアシューズ、パフォーマンスシューズから人々が離れるというカジュアル化の傾向がある。このことから、スニーカーは今後盛り上がる唯一のフットウェアカテゴリと言える。

Python 氏のブランド Cariuma は2016年9月に設立されたが、最初の靴が市場に出るまでにさらに20ヶ月かかった。Python 氏によると、その時間は、スニーカーの分野で顧客が探しているものを研究するために費やされたという。

Cariuma のフットウェアは、Netflix の「Stranger Things(邦題:ストレンジャー・シングス 未知の世界)」のエピソードから生まれたクラシックな外観だ。履き心地について、Python 氏は、形状記憶インソールの一部が、アルゼンチンの高級革で作られていることを指摘。これは、ルイヴィトンのハンドバッグの製造に使用されているのと同じグレードだ。 耐久性の観点から、すべての Cariuma の靴には、強度を高めるため靴底にステッチが施され、硫化ゴムが使われている。

Image credit: Cariuma

もちろん、多くのスニーカーブランドにはクールさと履き心地の要素があるが、これらは彼らを悩せ続ける問題でもある。NPO の KnowTheChain のレポートによれば、クローゼットの中は強制労働の力で作られた洋服でいっぱいになっている可能性がある。例えば、アメリカに拠点を置く Foot Locker と Skechers は、サプライチェーンから強制労働をどれだけ根絶できたかという観点で点数をつけたところ、それぞれ100点満点で12点、7点しか獲得できなかった。

一方、Cariuma は、彼らの靴は(ゴムの)木自体を傷つけないよう慎重に収穫された生の天然ゴムと、綿花農家が公正な労働条件下で公正な賃金を受け取ることを意味する、フェアトレード綿で作られているそうだ。梱包材は100%リサイクル可能な素材で作られており、靴の輸送と輸送は100%カーボンニュートラル(つまり、Cariuma はカーボンオフセットを購入することでカーボン排出を補っている)。また、帆布を使った製品については、インソール革がまもなく植物ベースのものに置き換わる予定だという。

これらのサステイナブルな特徴によって、必ずしも価格が高くなるとは限らない。Cariuma の靴は79米ドルからだ。同社は「この分野の深い専門知識」によりコストを安く維持することができたという。同社の製品価格帯は他のスニーカーブランドと変わらないが、一足あたりの製造原価についてはコメントを避けた。

Python 氏はこの偉業について、Cariuma の COO Tiago Klaus 氏の貢献を称え、その理由に Klaus 氏が靴工場を経営していた経験を挙げている。

彼は製品開発に携わり、年間50,000以上のサンプルを生産していた。彼は工場に飛び込み、高品質の靴の製造方法をサプライヤーに伝え、サプライヤーを巻き込み、知覚価値を高め、コストを管理することができる人物だ。(Python 氏)

D2C モデルの真髄

2018年5月にローンチした Cariuma の靴は現在、世界中の40以上の都市で販売されている。このブランドは小売業者やオンラインマーケットプレイスを使わず、D2C モデルの採用で手頃な価格でありながらリーチを拡大することができた。

第一に、仲介業者を排除することで Cariuma はすべての収益を集め、それをブランド・製品・従業員に再投資することができる。第二に、顧客に直接販売することで、Cariuma はブランドの販売方法を完全にコントロールし、顧客が何を望んでいるかをよりよく理解することができる。

何がクールか、我々のバリュープロポジションは何か、我々の顧客は何を好むかについては多くのアイデアがあった。2年間かけて、こういったことを細かく考えた。

しかし、新ブランドを生み出す段階において、最も価値のあることは、対象が誰であるか、カスタマージャーニー全体をどのようなものかを割り出すことだ。顧客はウェブサイトで最初に注意を向けてくれるか? 次にどんな話を聞きたいか? 購入時には、ウェブサイトからどのような情報を伝えたいか?(Python 氏)

例えば、Cariuma の「ブラジルらしさ」にあまり興味を持たない消費者もいるかもしれないが、それは他市場における大ヒット商品のような役割を果たしている。直接販売とは、Cariuma のチームが、同社のウェブサイトのランディングページから、客が購入した後に受け取るメールまで、すべてを即座に調整できることを意味する。

ある顧客層が特にブラジルらしさを受け入れている場合、Cariuma のブラジルらしさは顧客とのあらゆるエンゲージメントの最も重要な部分になる。D2C モデルは Cariuma により多くの洞察と顧客からの直接的なフィードバックをもたらす一方、サードパーティー事業者にこういった点を取り扱ってもらった方が技術的には容易であることは、 Python 氏も完全に認めている。

Cariuma は上位のファンネル分析にアクセスして毎週テストサイクルを実施するため、変更をその場で行うことができる。これは、大規模でエスタブリッシュなブランドにはない俊敏性だ。

Image credit: Cariuma

その一例がパッケージング。 100%リサイクル可能な素材で作られているが、すべての Cariuma 配送には2つの箱が使われている。1つの箱は靴を収納し、その箱は配送コンテナとなる、もう一つの箱の中に入れられる。

我々の顧客は、「この箱は間違いだ」と言った。もっと上手くやれると思っている。スタートアップである限り間違いも犯すが、我々は進化し続けていると口にすることを恐れない。3ヶ月後には、新しい箱ができる予定だ(Python 氏)

間違いに加えて、Python 氏には色覚異常がある。彼にとって、曇り空にはピンクの水しぶきが見え、土と木の幹はどうやら緑色に見えるが、Cariuma のローンチには妨げにならなかった。

Python 氏は、Cariuma のこれまでに顧客数や販売数靴の総数を共有することをためらったが、他の数字を明らかにした。例えば、スニーカー業界の返品率、つまり顧客が購入した製品を返品する率は約15〜20%。一方、Cariuma の返品率はその半分程度なのだそうだ。

こういった数字によって、Cariuma に惹きつけられた投資家もいる。2017年11月の資金調達ラウンドで1,000万米ドルを確保した後、Cariuma は2019年3月にさらに1,300万米ドルを調達した。ベンチャーキャピタルは参加しなかったが、代わりに、ファッション、メディア、銀行業界のいくつかの匿名エンジェル投資家が両ラウンドをリードした。

これまで、Cariuma にとってアメリカが最強の市場だったが、オーストラリア、台湾、シンガポール、イギリスもそれに続いている。2020年までに Cariuma は中国と日本に進出し、2019年末までに新しい靴を発売する予定だ。

Image credit: Cariuma

起業家になることは、Python 氏の計画の一部ではなかった。2009年にハーバードビジネススクールで修士号を取得した後、彼はかつてコンサルタントとして働いていたマッキンゼーに戻る計画だった。しかし、彼がマッキンゼーという有名企業で過ごした時間は、彼のキャリアの方向性を変えることになった。

そこでの2年間は素晴らしかった。何事にも代え難いものだ。MBA 経験が大きく考え、グローバルに考えることを教えてくれた。この経験無くしては、Cariuma も存在しなかった。

しかし、ビジネスは学問を超えたところに存在すると思う。それは、これまでに出会った人々だ。(Python 氏)

例えば、ハーバードビジネススクールで Python 氏が出会った友人たちは、結果的に彼をシンガポールのスタートアップシーンに紹介する存在となった。

Python 氏の色覚異常もともかく、Cariuma の設立には大きな困難を伴った。

資金調達、ピッチブックの作成、調達ラウンドのクロージングなど、私にとっては非常に新しいことだった。

私はオペレータだ。チームを運営し、オペレーションを構築し、物事を効率化する。それが私。舞台裏で仕事している。したがって、表に立つことは、共同創業者兼 CEO としての時間を割く必要のある新次元の話だった。(Python 氏)

さらに、Python 氏は妻子を含む家族全員をアジアに引っ越させる必要があった。ブラジルでは、Python 氏夫妻は〝非常に居心地のいい大企業の仕事〟に従事していた。母国語がポルトガル語で英語を一言も話さない3歳の息子にとって、この引越は何ら都合の良いものではなかった。

でも、妻はとても協力的だった。彼女は、私がどれだけ大企業での再喝に不満を抱いていたかを見ていた。彼女には感謝しても仕切れない。Cariuma にとって、私の最大のサポーターだ。(Python 氏)

Python 一家は母国ブラジルから離れたものの、シンガポールが彼らと Cariuma を歓迎することとなった。同社には世界中からやってきた30人以上の社員がいて、うち約20人がシンガポールを拠点に活動している。都市国家でのビジネスのしやすさと、世界各地へ毎日100便以上のフライトがあることから、シンガポールは拠点を開く最適なハブとなっている。

それに、食べ物も素晴らしい。(Python 氏)

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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