サイブラリーを生み出した「AND(アンド)の思考」とはーーサイバーエージェントに学ぶ組織論【対談・3/3】小澤政生×諸戸友

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組織論対談最終回。初回前回はこちらから

諸戸:小澤さんの中で他に自分が採用責任者としてやってみてハマったな、というか効果的だったなっていうのありますか?

小澤:説明会辞めたのと同時に、サイブラリーというのも始めました。

諸戸:サイブラリー?

小澤:サイバーエージェントのライブラリーでサイブラリーです。サイバーでよく使われる「AND(アンド)の思考」なんですけど、説明会を辞めて、でもより良い採用していくにはどうしたらいいのか、という一見対極にあるものをANDで両方とも美味しいとこ取りしてやろうみたいな考え方です。

そこで『サイブラリー』が生まれました。これは社員1人ひとりに自分の思うサイバーを5分くらい動画で説明してもらうんです。

当時40本くらい撮影して、それを学生に公開しました。移動中にみてもらって、説明会にきた体にする、いわば動画説明会みたいなものですね。通常であれば人事が話すだけですけど、「数十人(多分今なら数百人)の社員が自分の言葉で話す自社のリアル」、という切り口で、多種多様なサイバーエージェントを伝えていくっていうのはヒットしましたね。

取材もたくさんいただいたのでまるで自分が作ったかのように言われますが、ネーミングも企画運営も当時のメンバーのおかげで実現しました。

諸戸:これってANDの思考がないと出てこないですよね。

小澤:僕の中では「説明会を一旦全部やめてみて、ダメなら戻そう」くらいにしか考えてなかったのですが、実際やってみるといろんな反応が見れて面白かったですね。

例えば、夜行バスって今も昔も8時間くらいかかるじゃないですか。そこで色々見てきてくれるので、直接会った時や面談するときの質問の精度がめちゃくちゃ上がったんです。サイバーってなんの会社ですか?という質問はなくなって、サイブラリーで◯◯さんの見たんですけど、あれって実際どうなんですか?とか。

学生の質問力が上がったから、現場の社員も話せる引き出しが増えて、結果採用のスピードが上がったなんてこともありますね。あと、内定者が入社前にサイブラリーを見て事業、人、文化を映像で知ることができるようになったので、配属の参考になったり、入社後の加速につながりました。結果論ですが。

諸戸:いっぱい具体的な手法を教えて頂いたのであれなんですけど、何かこう総じて一番初めに僕が投げかけていた、「なんでサイバーには優秀なひとが集まってくるのか」っていう問いでいうと何が正しいんだろう。

僕が今聞いて思ったのは、さっきの「コスト意識」とか「ANDの思考」とか、そういう思考の人が人事にいるっていうところが1つポイントなのかな?と思ったんですよ。

小澤:多分、スタンスだけシンプルな言葉で決まっていて、後は自由にやってっていうカルチャーだからだと思います。「良い人を自分たちでちゃんと採用しよう。玉入れみたいにやって」「いい採用と強い組織を目指そう」みたいな。
最初は白目向きそうだし獣道を歩いている感覚になります。けどなんかワクワクするし、1回やってみるか!と決めて集まってくるカルチャーが作り出す強い組織だと思います。自分で決めて進めないといけないことしかないので、決断経験値は相当つきました。

諸戸:それが人事だけじゃなくて色んなところで、共通してあるのかもしれないですね。
そうすると当然、優秀な人が活躍しやすい環境になるんですよね。

小澤:あとは、渡邊大介さんもおっしゃっていたメッセージヴィークルじゃないですけど、経営陣からのメッセージを目にする機会がめちゃめちゃ多いです。ミクロじゃなくてマクロなメッセージ。「あ、やってもいいんだ、やっても死なねーな。全部やろ。やってから考えよう」みたいな(笑)

諸戸:そんなサイバーを辞めるきっかけというか独立しようと思った背景ってどんなところですか?

小澤:「採る側」から「育てて増やす側」になりたかったからです。

いろんな人になんで辞めたの?と聞かれますが、僕は今でもサイバーが本当に好きだし、自分を拾ってくれて、これでもかというくらいチャレンジをさせてくれた会社なので藤田社長や曽山さんには感謝しかありません。採用の仕事が面白くて、今だに天職だと思えているのもサイバーのおかげです。

採用責任者として自社に貢献できる人の採用を7年もやっていると、一瞬でっていったらあれですけど、(サイバーに)合うか合わないか瞬時にわかるようになってきて。その時その瞬間に会った学生を、その場でジャッジすることしかできなくなっていました。

一方で、採用したい人をいかに競合に勝って採用するかというのを考える時に、この会社に勝つためにはこのタイミングでこう言って、そうするときっと向こうはこう返してくるから、そのタイミングでこの社員を当てれば多分いけるなとか、悪い意味での「占い師」みたいになってきたんですよね。

自分が占い師化していくのがすごく嫌になってきて、採用がすごく好きで始めて他の人よりちょっと得意かなと誇りを持てる仕事だったのに、だんだん占いと判断しかしない自分が嫌いになってきたというのが正直ありました。

諸戸:なるほど

小澤:それと重なるかのように、ライフワークとして小学校とか大学の授業とかでキャリアについて話す場を有難いことに頂くことが増えてきて、もっとそっち側できっかけや気づきを与える仕組みを作れないかなと。

当然サイバーにはものすごくお世話になったし、何度も言いますがものすごく好きな会社でなのでめちゃくちゃ悩みました。ここは僕の穿った見方なんですけど、教育授業は既にやっていたし、サイバーってどっちかというとエンタメ性の強い会社なので、僕の中ではサイバー内で2つ目の教育事業みたいなものはないと思っていました。

なので、たまたま藤田社長とご飯を食べに行って、そこで起業を考えていると伝えたら「いいじゃん。起業はやりたいときにやったほうがいいよ」って。

諸戸:それは藤田さんが仰ったんですか??

小澤:はい。「やりたいときにやったほうがいいよ、ただ30超えてからの起業は気を付けた方がいいよ」と。それが僕の中ではやっぱすごいなって。普通だったらなんでって聞くじゃないですか。理由も聞かずにそう言ってくれて、逆にそれを聞いてもうちょっと頑張ろうかと悩んだくらいです。

藤田社長のおっしゃる通り、僕も当時31歳だったんですけど、チャレンジするなら今しかない。だったら思いっきりやってみてもいいかなという思いもあって。

諸戸:すごいね。本来だったら、何で?って聞くだろうし、うちでやればいいじゃん、とか、止めたりすることが多いと思うけど、瞬間的に「いいじゃん」っていうのは凄いね。

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写真左:TechBowlの小澤政生さん、クルーズの諸戸友さん

小澤:そうなんですよね、別に起業を煽っているわけではなく、でも覚悟決めて伝えたので応援してくださったんだと思ってます。

諸戸:それが起業のきっかけだったんですね。今って起業してからどれくらいですか?

小澤:10か月くらいです。

諸戸:10か月の間で、自分でやってみて気づく、あ、これサイバーで知ってて良かったなとかサイバーで教えてもらって良かったなってことって何かあります?

小澤:たくさんありますね。やっぱり「チームサイバーエージェント」の凄さは一番感じます。組織の一員として働いていた時って、自分の得意な部分だけやってても、後は周りの人がうまく連携して支えてくれてるので成功してたんだなと思います。一人でやっていると当たり前ですけどコピーも振込も請求書作成も全部やらなきゃいけない訳じゃないですか。今まで当たり前だったものが全部当たり前じゃなくなる。

苦手なお金回りとかバックオフィスとか、資本政策とかやったことないことしかないし、分からないことだらけです。1歩進んで10歩下がるみたいな感覚です。でもとりあえずやる。全部やる。やらないと死ぬ。そういうのを毎日繰り返しながらやっぱりサイバーってすごい会社だったなーと外に出てから思います。ちょっと飽きたからとか、なんか最近ブームだから、と浮き足立ったくらいで起業はしない方がいいです。本当に。

あと「小さく試す」も学びです。教育って特にそう感じるんですが、永遠に答えがない。とりあえずこんな感じでやってみたらどうなるんだろうみたいな、そういう実験を怖がらず小さく試しながら改善していく習慣は今もすごく活きています。

諸戸:実際に採用するっていう仕事から自分で育ててそういう人を増やすっていう仕事に変わるわけじゃないですか。凄く意義のあることだと思うんですけど、どういう人にどうなってほしいみたいなのってご自身の中であるんですか?

小澤:「イキイキ働くエンジニアを世の中に増やす」っていうのが僕のやりたいことです。そのイキイキの定義やどういうエンジニアになるかは人によって様々だと思うんです。

誰もが使うデカいサービスを創りたい!でもいいし、得意な分野だけで食べていきたいでもいいし、身近な人と幸せに生きたいでもいい。働き方もとにかく色々あっていいと思うんですけど、その選択肢を自分で決めて、責任をもって楽しくやれるエンジニアを増やしたいと思っています。

結果的にTechBowlにプロ意識を持った若手エンジニアが集まってきて、「世界一の技術集団」になり、そこから面白いコミュニティや面白いものが次々と生まれるような仕組みを創りたいと思っています。

諸戸:それってどういうところからそういう課題意識を持ったんですか?

小澤:エンジニアとの就活の面談イベントとかマッチングイベントとかで、少し前だったら、わけ分からないことを好き勝手やっているエンジニアが結構いたんですよね。周りから見るとそれ何?クソアプリじゃん!(笑)みたいなものでも本人が好きで熱中してやっているのが一番いいんです。

でも最近は世の中のエンジニアニーズやテクノロジーが進んでいるみたいな文脈があって、「エンジニアとはこうあるべき」「とりあえず就活までにこれを作れるようになっておくべき」みたいな「べき論」に翻弄されている人も多く、結果的にエンジニアになりたいけど具体的に何が作りたいかというと分からないとか、とりあえず就活のために昨日徹夜してアプリつくりました、みたいな人が増えています。

与えられたものを作る努力は認めるんですけど、これ本当につくりたかったの?って聞くと顔が曇っちゃう人がほとんどで、純粋にモノづくりが好きなエンジニアではなく、エンジニアになることが目的になっている人が増えているなという印象がありました。手段の目的化っていうやつですね。

エンジニア目指す人が増えているのはいいことですが向かう先がずれていると感じるので、そこに一石投じてイキイキ働くプロのエンジニアを世の中に増やしたいと思っています。

諸戸:そういう小澤さんの言うプロのエンジニアというのはどうやって育てていくんですか?

小澤:お勉強ではなく「実務の疑似体験」を早くさせることだと思っています。今やっている「TechTrain」というサービスは、30歳以下を対象としたプロエンジニア養成サービスです。メンターが全員現役のプロエンジニアで、彼らが副業でコードレビューや開発の相談に無料で乗ってくれます。

諸戸:教える側はどういうところがモチベーションになっているんだろう。

小澤:自分たちがそうしてもらってきたからそうしてあげたい、還元したいという気持ちが一番ですね。あと定期的にメンターだけのオフ会をやっているんですけど、そういうコミュニティにも好んで参加してくれています。同業他社の同世代のコミュニティって意外とないので、TechBowlのメンターオフ会の情報交換が働くモチベーションや自分のキャリアを考えるきっかけに繋がったり。

あとはメルカリのCTOの名村(卓)さんが弊社の技術顧問を引き受けてくださっているんですけど、そういう時代を作ってきた人たちがメンターのメンターとしてお酒を交わしながらアットホームな雰囲気で色々話せるのが嬉しいと言ってくれています。みんな本当にいい方で、メンターは弊社の1番の強みなので感謝しています。

諸戸:今後はTechBowlとしては、どういう展開を描いているのですか?

小澤:TechBowlって名前の通りなのですが、Tech(技術の)Bowl(サラダボウル)みたいなのを作りたいと思っています。

トマトはトマト、キュウリはキュウリで、それぞれ色があり、存在感があります。でも混ぜると化学反応が起きて、色とりどりの鮮やかなサラダになる。エンジニアもそれぞれ自分の『色』はあると思うんですが、いろんなエンジニアがタッグを組むことで今までにない『色鮮やかな』サービスや技術が生まれる。集え、混ざれ、”鮮”エンジニア。という世界を創りたいですね。

諸戸:なるほど、そういう社名の由来でもあったんですね。今日はいろいろとありがとうございました!9月25日のイベントでもさらなるぶっちゃけ期待しています!

お知らせ:諸戸さん・小澤さんは9月25日のイベント「サイバーエージェント大解剖スペシャル」に登壇予定です。すでに定員に達しているので、参加したい方は主催者やパネラーにSNS等で直接お尋ねください

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