フランス政府、50億ユーロ(約5,880億円)のスタートアップファンドを創設へ——米中が覇権を争う中、デジタル主権でフランス優位を狙う

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フランス大統領 Emmanuel Macron 氏
Image Credit: Masaru Ikeda / The Bridge

世界的なスタートアップ競争はしばしば、ベンチャーキャピタルやユニコーンといった量的なものを基準として判断される。しかしアメリカと中国以外の為政者たちは、主権という漠然とした尺度を念頭に置いている。

テック大国であるこの2国の勢力の増大は世界的な不安をかき立てるのみならず、先週(9月第3週)フランスで見られたように、政府がデジタルな主権を維持するための取り組みを強化しようとする際のスローガンとしても使われている。

フランス大統領エマニュエル・マクロン氏はこう述べている。

私たちが戦っているのは主権のための戦いです。デジタルや人工知能といったすべての新しい分野で、私たち自身の勝者を作り上げることができなければ、私たちに残される選択肢は…他者に支配されるということです。

マクロン氏はカンファレンス「France Digitale Day」の前夜、同国テック業界のリーダーが集まるレセプションで話をしていた。話の焦点はフランスに当てられていたが、デジタル世界における独立性を失うという不安は広くヨーロッパ全土で共有されている。

懸念の一部は経済的な面だが、文化的な一面もある。それは、誰もが自分のためにというアメリカ的な精神、もしくは中国の独裁的な中央集権が、重要な技術や拡大する自動化に関する、設計やアクセシビリティを通じて押し付けられるのではないかという恐怖だ。

人工知能や自動運転の乗り物といった、変化をもたらす技術の発達が加速すると共に緊急性は増している。そして根本的なジレンマは簡単には解決できない。国は如何にして革新的な発展により引き起こされる広範囲なディスラプションから身を守りつつ、その力を利用して経済的および社会的な機会を作り出せるのだろうか?

主権への脅威とは、最近フランスの経済大臣 Bruno Le Maire 氏によってなされた、ヨーロッパにおける Facebook の Libra 仮想通貨プロジェクトを阻止するという宣言に際して提起された恐怖の1つだ。

同国はブロックチェーンの受け入れに歩を進め、仮想通貨関連のルールを緩和しているが、この通貨の魅力の一部は単一の存在や国からのコントロールを避けることができるという明白な能力だ。Libra のケースでは、Facebook のようなテック大手の関与が、自動的に多くのヨーロッパの為政者に疑念を与えている。

Le Maire 氏はこう述べている。

はっきりと言っておきたいのですが、こういった条件下では、ヨーロッパにおける Libra 開発を許可することはできません。ヨーロッパの国々の貨幣の主権は効力を持っているのです。

フランスでは、こういった感情は人工知能に対する疑問のことになると特に際立っている。2018年4月、同国は国家 AI 戦略を明らかにし、中国とアメリカによる支配の脅威について市民に警鐘を鳴らした。

同文書には研究やスタートアップを促進させるための多くの方策が含まれていた。だが同時に、AI 開発とデータ収集を切り離そうとすることで、哲学的な態度も示した。テック大手の消費者向けサービスは機械学習の進歩のため、そして AI アルゴリズムを磨き上げるために、個人情報をかき集めている。しかしこのデジタルなお宝を入手しようとする過程において、こういった企業の多くがますます、プライバシー侵害の批判を浴びるようになってきている。

フランスは AI 開発とデータ収集を切り離したいと考えており、そのために一元的な保管所で匿名化されたパブリックデータを誰でも利用できるようにしたいとしている。要するに政府は、市民のデータやビジネスがクラウドに吸い上げられ、どこか他の場所で利用されるのを見たくはないのだ。

新戦略の概要を述べるレポートにはこう記されている。

フランスと EU にとって、人工知能の要求に合致するデータポリシーは、それゆえに主権と戦略的自主性といった目的周辺に構築される必要がある。最初に、このバランスは崩れやすく、またこの目的にはビジョンが必要であると宣言されるべきである。それでも、中国とアメリカの大手の「デジタル植民地」となることを避けることができるよう、フランスとヨーロッパにおける人工知能開発のためには前もって必要なことである。

始まりはこうであったが、マクロン氏はフランスのスタートアップにさらに遠くへ、さらに速く進んでほしいと考えている。

同氏は9月第3週、スタートアップのエコシステムにつぎ込むことになる、55億米ドル相当のファンドを発表した。この中には、フランスのベンチャーファンドがレイトステージの企業の大きなラウンドに参加できるようにするための、22億米ドルが含まれている。これは現時点で同国最大の阻害要因の1つだ。

一般的に、フランスのスタートアップはシリーズ A の後に資金を探し始めると、より大きな小切手を切ってくれる海外へと流れていく。このトレンドには変化が起きつつあるようだが、発展の速度を上げることが緊急の課題となっている。

IPO にアプローチしている企業を支援する、経験豊かな資産ファンドのマネージャーが、ファンド残高の直接的な投資を担当することになる。

重要なことは、ファンドは税金で構成されているのではないということだ。むしろ、マクロン氏は幅広い保険会社やアセットマネージャーに参加するよう説得してきた。アメリカでは、国レベルの膨大な公的年金の出資金が、資金調達を求めるベンチャーファンドにとって主な強みとなっている。こういったファンドがフランスやヨーロッパで解禁されれば、利用可能な資本の量は非常に増加するだろう。

マクロン氏はこう言う。

資本の戦いが本質です。もしこの戦いに勝ちたいのであれば、より多くの資本の調達に成功しなければなりません。

この推進の一部として、国営銀行である BPIFrance と、フランスのスタートアップの支援と促進を監督する機関 La French Tech は、「The Next 40」と呼ばれるリストを発表した。その目的は同国で最も成長の速いスタートアップに光を当てて海外の投資家の注意を引き、また同時にフランスの悪名高いお役所仕事の迷宮を道案内することである。マクロン氏は2025年までに同国が25社のユニコーンを持てるようにしたいとしている。

マクロン氏の下で失業率は徐々に低下しているが、若年層へのチャンスはまだ不足しているようであり、多くの才能が流出している。

マクロン氏はこう言う。

アメリカではテック企業が新規雇用の3分の1から2分の1を創出しています。フランスにおける最も将来有望なスタートアップ40社は、今後数か月間で少なくとも7,000人の雇用を創出し、すべてのスタートアップを合わせれば2万5,000人となります。

同氏はこの成長のインパクトが他の経済分野に影響をもたらすことを望んでいる。しかしスタートアップに「もっと速く、もっと強く、もっと高く」と呼びかける中で、マクロン氏は以下のように述べ、自国のデジタルの未来を描きたいという同国のより一般的な欲求も挙げた。

技術における重要な選択で、誰かに依存していたくはないのです。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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