東京都、都政課題解決に向けたピッチイベント「UPGRADE with TOKYO」第2回を開催—-アグリテックスタートアップ5チームが協業アイデアを披露

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Image credit: Bureau of Industrial and Labor Affairs, Tokyo Metropolitan Government

東京都は昨年末から概ね隔月の頻度で、都政課題解決に向けたピッチイベント「UPGRADE with TOKYO」を開催している。ヤフーの代表取締役社長や取締役会長を務め、昨年から東京都副知事として Society 5.0 施策の推進や都政改革に関する都政への助言を担当する宮坂学氏を中心に、地方自治体とスタートアップのオープンイノベーションの可能性を模索、VC や企業等との交流の場を創出する活動の一つだ。

昨年12月の第1回「観光」に続き、先週21日に都内で開催された第2回は「農業」をテーマに据え、全国から5つのスタートアップを招いた。各社は、東京農業を持続・発展させるための先端技術を活用したスマート農業の実現、東京産農産物の魅力発信・ブランド化のための効果的なプロモーション、高付加価値化に向けた東京産農産物を活用した加工品の開発・鮮度保持技術などをテーマにしのぎを削った。

<情報開示> 本稿は筆者は、主催者からの依頼により、当該イベントの審査員の一人を務めた。

このピッチイベントで審査員を務めたのは

  • 池田将(小誌 共同創業者 兼 シニアエディタ)
  • 小池聡氏(ベジタリア 代表取締役社長)
  • 菅原晶氏(三井不動産 ベンチャー共創事業部長)
  • 中村陽一氏(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授、立教大学社会デザイン研究所所長)
  • 前川英麿氏(プロトスター 代表取締役 CEO)
  • 上林山隆氏(東京都産業労働局 農林水産部長)

【優勝】PLANT DATA

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PLANT DATA は、愛媛大学と豊橋技術科学大学が持つ技術シーズをルーツとする大学発アグリテックベンチャー。植物生体情報(光合成や蒸散のリアルタイムデータ、クロロフィル蛍光など)の計測と解析、活用に関するサービスを提供するプラットフォームを開発。農産物をセンシングし、得られたデータを生産者にフィードバックすることで、農業における機会損失の排除を狙う。

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同社は、Society 5.0 対応の植物生産の方法として、家庭用水耕栽培キットと、アプリと連携させたデジタルツインによるサービスの個人向け導入を提案した。プロ農業においては生産量確保などの理由で栽培環境要素を変化させるような挑戦は難しいが、個人であればトライアンドエラーが容易であるため、プロ農家が体験できないのような知見を集められるのでは無いか、とした。

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MD-Farm

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新潟に拠点を置く MD-Farm は、イチゴのアーバンファーミングの仕組みを東京都内で導入することを提案。同社が開発した LED を使った水耕栽培が可能な閉鎖型植物工場は、水と電力が確保できればあらゆる場所で導入可能で環境を選ばない。収穫はロボットによる自動化、栽培棚を5段階することで単位面積あたりの収穫高も圧倒的な改善が可能になる。

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イチゴの本来の旬は春〜夏だが、国内で栽培されるイチゴの多くは、ケーキ需要に合わせ冬に収穫されるため、夏場に流通する国産イチゴは少なく、輸入イチゴしか入手できない。地産地消のイチゴをほぼ完全自動で生産することで、フレッシュで大きなフードマイルを必要としない適正価格で提供することを目指す。先日、日本市場に参入を表明した Infarm のイチゴ版と言える。

セツロテック

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セツロテックは、徳島大学発のゲノム編集ベンチャー。他大学や研究機関らと連携し、畜産物の高付加価値商品、生産性向上、独自ブランド開発を目的としたゲノム編集プラットフォームサービスを提供している。遺伝子組み換えや、従来の育種法(自然交配の繰り返し)とは異なる、ゲノム編集による効率的な畜産物の新種開発を支援する。

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セツロテックでは生産者へのヒアリングから、仔をたくさん産み肉付きが落ちない品種、予定したタイミングで出産する品種の需要を把握しているが、従来方法ではこのようあ品種の開発が難しいため、ゲノム編集技術が応用が期待できいる。東京には TOKYO-X(豚)、東京しゃも、秋川牛といったブランド銘柄が存在し、これらをはじめ東京の畜産業へのゲノム編集技術の適用を進言した。

ファーム・アライアンス・マネジメント

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ファーム・アライアンス・マネジメントは、グローバル GAP(農産物の安全管理基準)の取得を支援する会社。スマートフォンだけで生産情報管理ができる「Farm Records」を開発・提供している。Farm Records を導入することで、消費者にはフードトレーサビリティの機能を提供できる上、生産者と消費者のエンゲージメントを高める効果もある。

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都心部特有の作付け面積が比較的小さい農作地において、データドリブンでスマートな農業を支援することにより、従来型農業との差別化を支援する。消費者が購入した農作物に付されたバーコードから生産者が判明するだけでなく、将来は、どの畑でいつ植え付け・収穫されたかや、その農作物を使った料理が紹介できるようレシピサイトとの連携も計画している。

プランティオ

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プランティオは、AI により野菜栽培を最適化する IoT プランター「PLANTIO HOME」の開発や「シェア型コミュニティファーム」を運営。農業とエンタテイメントを結びつけたアグリテイメントという造語を作り出し、一般消費者がみんなで育てて食べることをテーマに、それを可能にするソリューションを提供している。

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土に挿すことで、日照、気温、空気湿度、土中温度、土中湿度、192°カメラを備えた「grow_connect」は、誰でも野菜栽培を簡単にできるようにする IoT + AI センサー。アプリ経由で「水がありません」「間引きをしましょう」などたゲーミフィケーションによりユーザにアクションんを促す。収穫期が近づくと、近隣の野菜が持ち込める飲食店からリコメンドを受ける機能も備える。

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なお、昨年末に開催された「観光」をテーマにした第1回では、優勝したオンラインマップ作成サービスの「Stroly」が東京都担当者とアイディエーション中、登壇したうちの一社である空き情報サービスの「VACAN」は、都庁展望台の空き状況提供、「TOKYO Data Highway」の中心となる西新宿での協業に向けた話し合いを東京都と始めたという。第3回となる次回は、水産の分野で東京の水産業に提言が行えるスタートアップが集められる予定。デモデイは3月26日、東京・丸の内の Startup Hub Tokyo で開催される。

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