「50億円は手始め」ヤマトが仕掛ける物流“運創”ファンド公開、グローバル・ブレインと共同で設立

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写真左から:グローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦氏、ヤマトホールディングス代表取締役社長の長尾裕氏

ニュースサマリ:独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン(以下、GB)は3月31日、ヤマトホールディングス(以下、ヤマト)と共同で新たなファンドの設立を公表した。名称は「KURONEKO Innovation Fund(YMT-GB 投資事業有限責任組合)」で、運用総額は50億円。ヤマトが有限責任組合員として大部分を出資し、運用期間は10年間。無限責任組合員としてGBが共同運営にあたる。

物流業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する狙いで、物流やサプライチェーンなどをテーマに、これらを変革する技術やビジネスモデルを持った国内外のスタートアップに投資する。出資の規模は5000万円から数億円程度で、資金だけでなくヤマトやグループ各社が保有する経営資源を活用した協業も視野に入れている。

話題のポイント:物流やサプライチェーンは社会経済の基盤であり、今回の新型コロナウィルスの一件でもよく理解できましたが、国境が封鎖されるという事態に陥るとそのインパクトは凄まじいものになります。逆に言えば、このテーマでイノベーションが起こると、社会全体が変わる可能性が高いということでもあります。

ヤマトはロジスティクスという点で、特にEC系スタートアップの大切なパートナー的存在になっています。例えばメルカリは2015年にヤマトと提携し、送料決済をアプリ内で完結させるシステム連携を開始しました。

メルカリは当時、創業2年・売上ゼロの「ザ・スタートアップ」でしたが、B2C文脈を増やすという方針で合致したこともあって提携を実現させています。創業年数で門前払いにせず、しっかりとロジックを持っている相手とは手を組む姿勢が伺えるエピソードです。

今回のファンドはこのようなスタートアップとの連携をより加速させるための仕掛け、ということになります。

今回、取材でヤマト側のファンド責任者を務める専務執行役員の牧浦真司さんにお話を伺いましたが、ファンドの特性としては協業が中心となる本体投資と切り分けて、ファイナンシャルリターンもしっかりと視野に入れたCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を目指すということです。協業の可能性がある企業へ投資し、IPOまで支援するパターンと、より本体事業とのシナジーが見出せれば直接(本体)投資も検討する、というスタンスですね。

一方で、物流は範囲が相当に広いです。サプライチェーン全体で考えれば、資材などのB2B物流、製造拠点、在庫管理、製品の個宅配送など、毛細血管一本ずつに事業機会が潜んでいます。

また、2010年前後から始まったシェア・オンデマンド経済は、UberEatsやInstacartなど、デリバリそのものの仕組みを変えてしまいました。こういったバーティカルな業界毎のサプライチェーン特性(例:食品ロスは流通の過程でも発生するといった業界事情など)と、新たなビジネスモデルとの組み合わせになるため、どこまでが投資対象になるのかなかなか掴み所が難しいわけです。

前出の牧浦さんも、2020年代の大きなテーマとなる5Gやスマートシティ、チャレンジャーバンクなど全ての分野において投資の可能性がある、というかなり幅広い門戸を認識されていました。例えばフィンテックは物流と切り離せない「代引き」というサービスがあります。現時点で私もまだ玄関口で現金を手渡ししている状況が続いていますから、この体験の変革にはインパクトがありそうです。

物流データは宝の山

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ヤマトHDが今年1月に公表した経営構造改革プロジェクト「YAMATO NEXT100」より

もう一つ、彼らの投資戦略を紐解く上で重要な情報が、今年1月に発表された経営構造改革プランの存在です。「YAMATO NEXT100」と題された計画で、中計などのさらに上の概念になります。

ここで彼らは3つの事業・基盤構造改革を打ち出しているのですが、中でも注目したいのが物流データへの着目です。現在ヤマトでは年間18億個もの配送を手掛けており、ここにまつわるビッグデータには様々な可能性が隠れています。例えばモノフルやスマートドライブといった移動データを扱うスタートアップたちは、「A地点からB地点」への移動をデータで可視化・効率化することで、様々な事業を生み出しました。

この宝の山のような物流・移動データが集中しているのがヤマトです。大きなテーマとして「宅急便」のDX、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化を掲げていますが、この周辺領域に強い技術やアイデアを持ったスタートアップにはチャンスがある、というわけです。また、これらを実現するために、2021年に300人規模のデジタル組織を立ち上げ、データドリブンな経営・意思決定プロセスを構築するそうです。

ヤマトは構造改革プランで「運送から運創」というコピーを用意しています。牧浦さんも取材の中で「50億円のファンドは手始め」とされていましたが、こうやって全体像を俯瞰すると、資金運用を主目的としたコーポレートベンチャーキャピタルというよりは、本体事業の構造改革を背景とした仕組みの一部が今回の「KURONEKO Innovation Fund」の本質と言えそうです。