新時代の組織、ヒントはGoogle流「自律協業」ーーシードで3億円集めたBeaTrust (ビートラスト)のワケ

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コロナ禍は私たちの働き方に大きな影響をもたらすことになった。

これまで「常識」だからと蓋をしていた通勤やヒエラルキー、毎日の仕事の在り方や評価など。成人した大人であれば、個々人の「成長」や「人生」に関わる大問題でもあるにも関わらず、ずっと変えられなかった社会の仕組みが大きく動き出しつつあるのだ。

そして今、この課題により明確なフレームワークを持ち込もうというスタートアップが現れた。具体的なプロダクトのお披露目はもう少し先だが、今、明らかになっている彼らの思想をお伝えしたい。

ベテラン・スタートアップ

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写真左より: 共同創業者の久米雅人氏と代表取締役の原邦雄氏、VP of Engineeringの長岡諒氏

BeaTrust (ビートラスト)は代表取締役の原邦雄氏と久米雅人氏らが今年3月に共同創業したスタートアップだ。

同社はこのほど、シードラウンドで3億円という資金調達を成功させた。増資に応じたのはリードインベスターとしてサイバーエージェント・キャピタル(CAC)、ラウンドに参加したのはDNX Ventures、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、STRIVE、One Capital,、Delight Ventures、PKSHA/SPARX、みずほキャピタル及び複数の個人投資家。出資はJ-KISS型新株予約権を発行する形で実施されている。

シードのタイミングで3億円も破格だが、これらトップクラスのVCが顔を並べるのも珍しい。なぜか。CACの近藤裕文氏はリードした評価ポイントを次のようにまとめる。

「コロナショックの発生によって、デジタル化(DX)は多くの産業、日本企業とって大きな課題となった一方、それを支援する組織構築から人材活用まで提供できるプロダクトは満たされていません。Google時代に課題感(深刻度)や問題点(進まない理由)を相当把握されていて打ち手も分かってらっしゃる点、原さん・久米さんのGoogle・シリコンバレーネットワークに加え、CACのグローバルネットワークで東南アジア市場の立ち上げをサポートできる点に可能性を感じています」(近藤氏)。

共同創業した原氏、久米氏は共に前職Googleで、最後の仕事をスタートアップ支援に捧げた人物だ。現在、Coral Capitalにて活躍する西村賢氏も在籍していた部門で、アクセラレーションプログラム「Google Launchpad Accelerator Tokyo」や、国内では珍しいGoogleによる出資案件(Abeja、PLAIDなど)などを手掛けていた。

もちろんこれだけでも実績としては十分だが、特に原氏はまさにインターネット・ビジネス創世記とも言えるシリコンバレーにて過ごした経験を持っている。同氏は国内でキャリアをスタートした後、渡米して米SGI(シリコングラフィクス)に在籍していたのだが、ちょうどこの1990年前後の米国インターネット世界は様々なスタートアップの「ビック・バン」とも言えるストーリーを巻き起こしている。

例えば原氏が在籍していたSGIには伝説的創業者、ジム・クラーク氏がいる。

彼がマーク・アンドリーセン氏らと作ったウェブブラウザ「Mosic(モザイク)」は「Netscape Navigator(ネットスケープ・ナビゲーター)」を生み出し、Microsoftと激しい戦いを繰り広げることになった。IEとの戦いに敗れたアンドリーセン氏がベン・ホロウィッツ氏と創業したベンチャーキャピタル「Andreessen Horowitz(a16z)」が支援したSkypeはかつての宿敵、Microsoftに買収されることになり、その後のa16z発展の基礎となる。

離合集散を繰り返しエコシステムを巨大化してきた米国らしいエピソードだ。

原氏はSGIを離れた後もシリコンバレーに残り、スタートアップ支援のコンサルティング・ファームを自分で立ち上げ、このスタートアップ・エコシステムの聖地がどのような原理で事業を生み出していくのか体で感じてきたのだそうだ。帰国後は主に広告畑で日本のマイクロソフト、Googleと渡り歩いた。

BeaTrustを共同創業した久米氏もまた、2回目のインキュベイトキャンプに参加するなど、2010年代の国内スタートアップ・シーンを自分ゴトとして経験してきた人物だ。イノベーションの理屈を知り尽くしている二人だからこそ、これだけ多くの投資サイドが集まったのはよく理解できる。

必要とされる「自律的な」働き方

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BeaTrustウェブサイト・プロダクトの公開は秋に予定されている

本題に入ろう。彼らは何を解決しようとしているのか。

BeaTrustのテーマは大きな視点で言えば「イノベーション」だ。日本企業がイノベーションを起こすために必要な組織、人、文化を作り出すためのHowを提供する。彼らはこれまでの経験から、イノベーティブな企業の本質は「多様な人材による自律的な協業を促すカルチャー」と、それを実現に移すことができる「整備されたデジタルインフラ」にあるとしている。

解決のためのキーワードは「自律的協業」だ。彼らが在籍していたGoogleはチームワークのポリシーとして「re:Work」というコンセプトを公表している。久米氏は今後の企業イノベーションを考える上で重要なポイントにチームの「心理的安全性」と「相互信頼」を挙げる。

「企業が『オープンであること』も重要なファクターです。最近のスタートアップでは割とデファクトになりつつありますが、大きな企業ではまだまだ社員に色々な情報を開示し切れていないところも多いかと思います。人の情報から開示することでコミュニケーションの円滑化や協業機会を増やすカルチャーを醸成することを意識しています」(久米氏)。

一方、こういった話題は抽象論に陥りがちでもある。ルールで自律的に動けと縛っては意味不明だし、かと言って精神論で経営者のように振る舞えと指示をしてはチームワークとして成立するはずもない。そこで役立つのが思考フレームワークの存在だ。特にGoogleはOKRなどの導入でもよく話題になる。BeaTrustはどのような土台を用意しているのか。原氏の考え方はこうだ。

「自律的な協業を促すには、トップがビジョンを明確に示し、開示できるものはすべて開示し、心理的な安全性を担保しつつ、従業員の自主性にあとは任せるというのが道筋です。OKRは個人やチームの目標管理には重要ですが、同時に持続的に学習する文化を組織として根付かせることも競争優位性を保つためには大切だと思います(このあたりもre:Workにうまくまとめられています)。

そのような環境下では自然と社員同士が知識を共有しあったり教え合ったりする行為が活性化します。また、その根っこにあるのはGiver的な精神となります。日本企業の方々とお話をしていて一番感じるのは特に心理的安全性とコア業務を離れて他の社員をサポートすることに対する評価が確立されていないです。その場合、どうしても横断的な協業は中々現場からは生まれにくいと考えます。我々の製品はこのような文化を醸成していく後押しになるようなテクノロジーの基盤を提供していくことにあります」(原氏)。

両氏との会話で、特に印象に残ったのが教えあう文化だ。

コロナ禍に遭遇し、私たちは強制的に自律的な行動を求められる環境に遭遇した。従来型のトップダウンでは声が届かず、監視・管理というマネジメントの仕組みが崩壊した瞬間、組織は新しい方法を示さなければならなくなった。しかし、自律的行動は個々人のラーニングによるところが大きい。しかしもし、組織そのものに「学ぶ仕組み」がインストールされていればどうだろう。教え合う文化というのはこの組織の自己修復力を高めるために必要だというのだ。

冒頭に書いた通り、プロダクトの詳細はまだ披露されていない。秋ごろに公開される予定のプロダクトは次のようなHowの提供から開始するとしている。

  • 従業員の業務内容やスキル・経験の可視化
  • チーム構成・組織体制の把握
  • 横断的かつスピーディで強力な検索機能
  • コラボレーションを生み出すためのコンタクト情報などの表示

会社はあなたのことを考えてくれているのか

取材でもう一つ心に残った言葉がこれだ。昭和の高度経済成長期、仕事というのは言葉通り「人生をかけたもの」が多かったように思う。車を作り、テレビを売り、道路を伸ばして山にトンネルを掘る。情報が乏しい時代、組織は一丸となってダイナミックに動くことが必要だった。「日本的サラリーマン」が輝いていた時代だ。

しかしそこから半世紀近くが過ぎ、私たちの世界は情報化で一変した。スマホで今いる場所にオンデマンドに配車できるし、不用品はどこか遠くに離れた見ず知らずの人に譲ることができる。それも数分で、だ。

企業に求められるイノベーションの頻度はどんどん回数を増し、そこで働く人たちの人生もせわしなく変化が求められるようになる。急流下りのような企業経営が求められる中、経営陣には大きく二つの選択肢を突きつけられるようになってきた。

使えない人を切って採用を続けるか、それとも変化に対応できる人を育てるか、だ。

原氏や久米氏が体験した「多様な人材が自律的に協業しあう世界」、それこそがこの新しい時代に求められているスタンダードなのではないだろうか。