スマニュー大規模調達で考えた、J-Startup の未来
今週の話題(9月11日〜9月17日):スマートニュース、シリーズFで2.3億米ドルを調達——時価総額は、単独ニュースアプリで最高の20億米ドルに
2018年、時の安倍政権が中心となって「J-Startup」というプログラムが立ち上がりました。経産省、JETRO(日本貿易振興機構)、NEDO(新エネルギー・産業技術綜合開発機構)が中心となり、日本からユニコーンを生み出すこと、グローバルに認知されるスタートアップを生み出すことを目標に、そのロールモデルとなる100社を選ぶというものでした。プログラム開始から3年以上が経過し、採択されたスタートアップは130社を超えました。
どこからどこまでをスタートアップと定義するかについては、編集部でも時々議論を呼ぶテーマですが、J-Startup には上場会社も少なからず含まれていたので、J-Startup のスタートアップの定義について、経産省の担当者に尋ねたことがあります。日本企業は上場しても時価総額で言えば、アメリカのシリーズ B ラウンドのステージのスタートアップに及んでいないケースもあり、上場していてもまだまだスタートアップだ、というのが答でした。非上場の方が資金にアクセスしやすい、とする解釈さえあります。
そんな中、非上場ながらも日本の国内外で2桁〜3桁億円の調達事案が出てきたことは、非常に頼もしい状況だと思います。NASDAQ に上場するケースも近い将来出てくるでしょう。主戦場は国内であるにもかかわらず、より大きな資金調達の機会を求めて、中国のスタートアップ各社が NYSE や NASDAQ に上場してきました。米中両政府が規制を強めたことで中国企業が鳴りを潜めつつある分、アメリカでも日本のスタートアップへの注目は今後高まるでしょう。スマニューに続く勇者の挑戦に期待です。

いかに情報を発信するか
- のちに Yahoo の CEO を務めた Marissa Mayer 氏(現在はコンタクトアプリの「Sunshine」経営)が Google の VP of User Experience として日本を訪れたときに、「日本にはスタートアップコミュニティは無いのか」と発言したという話があります。英語圏の人々にとって、英語で情報が入手できないことは存在が無に等しいということを痛感し、弱小ながらも BRIDGE に英語版を備えるキッカケになりました。スタートアップが世界から資金を集めるには、情報も世界へ発信する必要があります。
投資家を失望させない努力とガバナンス
- アメリカに上場した中国企業が次々と撤退を余儀なくされたのは、米中両政府の介入もさることながら、Luckin Coffee(瑞幸咖啡)をはじめとする不正会計問題がキッカケでした。もはや事件を起こした企業にとどまらず、アメリカで上場する全ての中国企業に投資家から疑惑の目が向けられることになったのは、読者の皆さんもご存知の通りです。世界から資金調達する日本のスタートアップが、常に投資家からの期待を裏切らなければ、後進のスタートアップもその恩恵を受けられることになります。
グローバルなプレーヤーを目指す
- 世界から資金を調達するなら、プロダクトもグローバルなものであると好都合です。むしろ、これは発想が逆で、グローバルなプレーヤーになるために、世界から資金を調達するのだ、と考えた方が自然かもしれません。例えば、Y Combinator のデモデイに出てくるスタートアップを見ていても、昨今は、インドはもとより、韓国、台湾、中国、東南アジア出身の起業家の躍進が目立っています。こうした世界的に注目を集める機会に、日本の駆け出し起業家が名を連ねるようになるのも、そう遠い日のことではないと思います。
今月の調達ニュース
今月の国内スタートアップの主要な資金調達ニュースをお届けします。

Image credit: Fanfare
スマートニュース、シリーズFで2.3億米ドルを調達——時価総額は、単独ニュースアプリで最高の20億米ドルに(9月16日)
- スマートニュースは、シリーズ F ラウンドで2億3,000万米ドルを調達したとを発表した。これにより、同社のこれまでの累計調達額は4億米ドルを超え、時価総額は単独のニュースアプリとしては最高額となる20億ドルに達し、「ダブル・ユニコーン」の地位を確保した。このラウンドに参加したのは、アメリカの Princeville Capital、Woodline Partners、日本の JIC Venture Growth Investments、Green Co-Invest Investment、任天堂創業家のファミリーオフィス「Yamauchi No.10 Family Office」などに加え、既存投資家から ACA Investments、SMBC Venture Capital など。
オフィスリニューアルSaaS開発のSwish、6,100万円をシード調達——mint、福島良典氏、河合聡一郎氏らエンジェルから(9月15日)
- Swish は、シードラウンドで6,100万円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、mint のほか、エンジェル投資家として福島良典氏(LayerX CEO)、河合聡一郎氏(ReBoost CEO)、柄沢聡太郎氏(スターフェスティバル CTO)、成田修造氏(クラウドワークス取締役副社長兼 CITO)、竹林史貴氏(LOB CEO)、安倉知弘氏(フリークアウト執行役員米国事業担当)。
バーチャル空間「oVice」運営、シリーズAで18億円を調達【日経報道】(9月15日)
- oVice は、シリーズ A ラウンドで18億円を調達した模様だ。このラウンドは、Eight Roads Ventures Japan がリードインベスターを務め、One Capital、MIRAISE、ジャフコ グループ(東証:8595)、DG インキュベーション、DG ベンチャーズが参加した。
スキマバイト「タイミー」運営、シリーズDで香港のファンド3社などから40億円を調達——コロナ禍、物流需要へのシフトが功を奏す(9月15日)
- タイミーは、シリーズ D ラウンドで40億円を調達したことを明らかにした。このラウンドに参加したのは、いずれも香港を拠点とするファンドである Keyrock Capital Management、Kadensa Capital、Seiga Asset Management と、シニフィアン(THE FUND)、伊藤忠商事(東証:8001)、KDDI Open Innovation Fund。また、同社は今回のラウンドとあわせ、みずほ銀行を中心とした大手金融機関から13億円のデットファイナンスを行ったことを明らかにした。今回のラウンドを受けて、タイミーの累積調達額は約90億円(デットファイナンスを含む)に達した。
カスタマサクセスプラットフォーム「commmune」、シリーズBで19.3億円を調達——市場奪取に向け、マーケティング強化(9月15日)
- コミューンは、シリーズ B ラウンドで19.3億円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、DNX Ventures、UB Ventures(UBV)、Z Venture Capital、ジャフコ グループ(東証:8595)。本ラウンドを受けて、コミューンの累計調達金額は24.3億円に達した。
ウェルネスD2CのTENTIAL、5億円を調達——年内にもメーカー参加型のモールをローンチへ(9月15日)
- TENTIAL は、直近のラウンドで5億円を調達したことを明らかにした。このラウンドに参加したのは、アカツキ(東証:3932)、MTG Ventures、セゾン・ベンチャーズ、マネーフォワードベンチャーパートナーズ(HIRAC FUND)、豊島、南都銀行(東証:8367)がベンチャーラボインベストメントと共同運用する CVC、名前非開示の個人投資家。今回ラウンドを受けて、創業来の累計調達額が11億円に達した。
郵便物受取のクラウド化「atena(アテナ)」運営、プレシリーズAで1億円を調達——千葉道場、Coralから(9月13日)
- N-Technologies(N)は、プレシリーズ A ラウンドで約1億円を調達したことを明らかにした。このラウンドは千葉道場ファンドがリードインベスターを務め、Coral Capital が参加した。今回ラウンドを受けて、N の累積調達額は約1億3,000万円に達した。
アジアのニュース
今月のアジアのニュースをお届けします。

ソフトバンク、中国の配膳ロボット開発Keenon(擎朗)のシリーズDにリード出資(9月17日)
- 中国の配膳ロボットメーカーである Keenon Robotics(擎朗)は、今回復帰した投資家であるソフトバンクがリードしたシリーズ D ラウンドで2億米ドルの資金調達を受けたことを発表した。Keenon によると、これはサービスロボット分野では過去最大の資金調達だという。
Alibaba(阿里巴巴)が中秋節を前にNFT月餅を販売など——中国ブロックチェーン界週間振り返り(9月16日)
- 中国のテック大手 Alibaba(阿里巴巴)は、中秋節を前に、自社 e コマースプラットフォーム「Taobao(淘宝)」で、1個1人民元の NFT 月餅50個を販売したと、中国メディアが9月10日に報じた。同社のブロックチェーンプラットフォーム「AntChain(螞蟻鏈)」によって作られたものだ。
モバイルで洗濯が頼める「LaundryGo」が47億円調達など——韓国スタートアップシーン週間振り返り(9月14日)
- 非対面モバイルランドリーサービス「LaundryGo(런드리고)」を運営する Lifegoeson(의식주컴퍼니=衣食住カンパニー)が500億ウォン(約47億円)を調達。韓国産業銀行が300億ウォン(約28億円)を投入。アメリカ洗濯スマートファクトリ EPC 企業 A + Machinery を買収、世界初の顧客別自動出庫システムの開発に成功。
インドの中古車売買ユニコーン「Cars24」、シリーズFで2億5,860万米ドルを調達(9月14日)
- インドのグルグラム(旧称:グルガオン)の拠点を置く中古車マーケットプレイス「Cars24」が、シリーズ F ラウンドで2億5,860万米ドルを調達した。DST Asia、Alpha Wave Incubation、Tencent(騰訊)がそれぞれ7,500万米ドル、Moore Strategic Partners が2,270万米ドル、Exor Seeds が830万米ドル、HPS Investment Partners の CEO Scott Kapnick 氏が220万米ドル、Sen Investment Partners が47.2万米ドルを出資した。
インドの電子機器&ライフスタイルD2C「boAt」、2022年のIPOに向け時価総額14億米ドルを目指す(9月13日)
- インドの電子機器&ライフスタイル D2C ブランド「boAt」は、来年3月から6月に予定される IPO に先立ち、時価総額約14億米ドルを目指しているとのことだ。同社は今年1月、ニューヨークに本社を置くプライベートエクイティ会社 Warburg Pincus の子会社からシリーズ B ラウンドで1億米ドルを調達した。今年4月時点での時価総額は、約2億8,000万米ドルに達したとされる。
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