作業時間3割減も、DNPとMantraがマンガ自動翻訳で協業

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

大日本印刷(DNP)は9月、AI翻訳サービスを手がけるMantraと共同で独自のマンガ向けAI翻訳エンジンの開発を公表している。DNPが独自に提供するシステム「MOES(モエス)」に搭載されるもので、マンガの翻訳をサポートしてくれる。

これまで海外向けのマンガ翻訳は話し言葉が多いことやコマで文章が途切れるなどの課題から、AI翻訳を適用させることが難しかった。一方、人手で翻訳するとコストがかかるためタイトルが限られるなどの問題に直面する。今回提携した両社はこういった課題に特化したAI翻訳エンジンを開発し、DNPの編集システムに載せることで生産性向上に取り組んだ。

マンガ翻訳の課題についてMantraの代表取締役 石渡 祥之佑氏はこのように説明する。

近年、特許やマニュアルなど幅広い文書の翻訳に機械翻訳が急速に導入されつつある一方、マンガの翻訳はAIによる効率化が進んできませんでした。これは、マンガ特有の砕けた会話文で語の省略が多い、テキストが非規則的に配置されており文脈情報を抽出しにくい、固有名詞が多く対訳辞書の整備が手間、といった性質に起因しています。これらの問題に対し、Mantraはマンガのコマや吹き出しを認識する画像認識技術と、適切に文脈を考慮する機械翻訳技術を組み合わせることで対処を試みています(Mantra 代表取締役 石渡 祥之佑氏)

DNPサイドで実用化に取り組んだ三代川 智行氏もマンガ翻訳の難しさをこう語る。

マンガの翻訳はニュアンスや語彙の強さや登場人物毎の話し方、口語など通常の翻訳とは違った難しさがあり、これらを得意とする翻訳者がストーリーを理解した上で手作業で対応しているため、自動翻訳とは一番遠い分野と認識しています。なので、精度の低い自動翻訳結果が先に入力されていると全て手作業で翻訳するより効率が悪いんです。

一方、Mantraのエンジンは一般的な翻訳エンジンに比べて明らかに精度が高く、自動翻訳後に修正を加える前提であれば商用レベルは可能であると考えました。マンガにおいては翻訳だけではなく、フォント(書体)の選び方、行間、文字の配置や回転、文字フチなど、組版の要素も重要です。この機能は既に持っているので組み合わせることで実用化に近づくと考えたんです(DNP 三代川 智行氏)

この翻訳技術をマンガ編集フローに組み込んだのがMOESだ。MOESは翻訳版のマンガ制作に必要な翻訳や校正・進捗管理などを実現するクラウドシステムで、DNPでは2016年から印刷物や電子書籍におけるマンガ翻訳の制作工程でこれを活用してきた。画面上に表示されるマンガレイアウトの吹き出しに直接翻訳した文章を入れることができるので入れ間違いなどの防止に役立つ。またクラウドで共有できることから時差のある国や地域での進捗管理も容易になる。

Mantraの提供するマンガ専用翻訳ツール「Mantra Engine」はマンガ翻訳の効率を高めることはできる一方、従来と異なる翻訳ワークフローを設計しなければならない点に課題がありました。今回、既に洗練された翻訳システム(MOES)やそれを中心としたワークフローを持つDNPさんへの技術提供という新しい取り組みを開始することで、世界におけるマンガ翻訳の生産性を爆発的に向上させられるのでは、という期待が社内で膨らんでいます(Mantra 代表取締役 石渡 祥之佑氏)

自動翻訳を取り込んだ直後の編集画面(翻訳者による修正未実施)

今回、Mantraと共同で開発したAIエンジンによりMOES上で従来、手作業で入れていた作業フローに加え、翻訳文章があらかじめ入った状態で編集作業を開始するフローを選択できるようになっている。

翻訳フローを選択した検証では作業時間が3割以上削減される結果も得ており、DNPは今後もテスト運用を通じて改修を進め、2021年度中のシステム実用化を目指すとしている。

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