WOVNと凸版印刷、5年を経てたどり着いた共創関係——はじまりはSaaSの代理販売、今では共に新事業を開発

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。2014年3月に創業した Wovn Technologies(以下、WOVN)は、Web サイト・アプリを多言語化し、企業が海外戦略や在留外国人に対応した情報提供を可能にできるサービスを開発しています。2014年に1行のコードを Web サイトに挿入するだけで多言語対応できる「WOVN.io」を生み出し、2015年にエンタープライズ向けに有償提供の開始、2020年にはモバイルアプリを多言語化する SDK「WOVN.app」の提供開始、業務 DB などの社内情報を多言語化する「WOVN.api」の提供など、新サービスを次々とローンチしてきました。

一方、凸版印刷は、さまざまな業界の企業に対して、印刷物の制作・発行はもとより、Webサイトやコンテンツの編集・制作やWebキャンペーンの企画・実行、企業のデジタルマーケティングを提供しています。凸版印刷が WOVN と初めて資本関係を持つことになったのは、2016年の WOVN のシリーズ Bラウンドに凸版印刷が出資したときです。当時、凸版印刷のプレスリリースでは、出資が持つ意味を「オフラインとオンラインのシームレスな多言語化ソリューションを実現していくため」と説明していました。

それから5年ぶり、 WOVN が2021年7月に発表した新たな資金調達ラウンドに、凸版印刷は再び参加しました。スタートアップが以前投資を受けた投資家から再び出資を受けたということは、それまでに実施した両社間の事業共創に一定の成果が見られた、との評価の表れと見ることができるでしょう。さらなる関係強化で両社はどのような事業を展開しようとしているのか、話を伺うことができました。

代理販売の関係から協業へ

凸版印刷は、WOVN が2016年12月に実施したシリーズ B ラウンドで初めて出資参加しました。これより以前から、凸版印刷はクライアントに対し WOVN.io の代理販売を行ってきましたが、出資には、より深い販売連携や共同サービスの開発など SaaS ビジネスに積極的に関わっていきたい意図があったようです。企業の情報発信媒体の翻訳を多く扱っていた凸版印刷にとっては、多言語化ソリューションを提供する WOVN とシナジーが期待できました。

凸版印刷は印刷物やPOPなどの多言語化を行ってきましたが、資本関係を結んだことを契機に、WOVN とオフラインとオンラインの多言語化をシームレスに行えるソリューションの構築に着手しました。例えば、観光案内、POP、ポスターなどのオフラインの制作物と、オンラインで情報発信している Web サイトがある場合、一括管理することで表記の揺れを防ぎ、記載された情報に追加や変更が生じた場合に、もれなく両方に反映できるといったものです。

凸版印刷には大企業のクライアントが多く、オンライン・オフラインにかかわらず、情報発信の制作や管理をまとめて託されているケースが少なくありません。当時は東京オリンピックを前に外国人観光客に優しい案内が求められるようになり、また外国人労働者が増える中でよりきめ細やかな対応を必要とした大企業から、凸版印刷にはさまざまな多言語対応の依頼が寄せられ、そういったニーズに対応するため WOVN のソリューションは各所で重宝されました。

企業が海外戦略の推進、外国人従業員向けの情報発信などを、Web サイト・アプリを通じて行うには、多言語化の戦略・企画から構築まで一気通貫に行えることが必要になります。多言語化の戦略・企画に入り込める凸版印刷と、Web サイト・アプリの多言語化の構築に強みをもつ WOVN が組み合うことで、顧客にトータルソリューションを提供できるようになりました。(Wovn Technologies 三浦氏)

さらなる関係強化を目指して

凸版印刷が今年発表した中期経営計画(2021年4月〜2023年3月)では、収益率向上戦略の一環として「新事業の創出(フロンティアビジネス)」を掲げており、CVC からスタートアップへの投資を加速させる中で、今年7月に発表された WOVN への2回目の出資はそのタイミングから考えて、この「新事業の創出」のド真ん中にあることが伺えます。

中期的な経営課題の1つとして新事業・新市場の創出を掲げ、2016年7月から現在までに国内外50社強のベンチャー企業へ出資してきました。(中略)前回の出資が協業を念頭に置いたものだったのと対照的に、今回の出資の背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)事業の拡大、SDGs への姿勢など、WOVN の力を借りて、凸版印刷のケイパビリティを拡大したい、という我々の意図があります。(凸版印刷 坂田氏)

DX 支援はSDGs の9番「産業の技術革新の基盤をつくろう」に寄与し、また、企業の情報発信の多言語化を支援することで、情報へのアクセスの不均衡を是正する観点から SDGs の10番「人や国の不平等をなくそう」とする動きにも繋がります。大企業に求められる社会的責任が大きくなりつつある世界的潮流の中で、凸版印刷のように、スタートアップとの協業を通じて、こういった課題を乗り越えようとする大企業は今後増えていくことでしょう。

我々の社内の(今後、どういったものを開発していくかといった)情報も WOVN さんと共有し、凸版印刷の商材やソリューションの中に WOVN の SaaS を組み込むと、どのようなものが出来上がるか、ということを検討しています。例えば、当社では e ラーニングの仕組みを企業に販売していますが、WOVN の仕組みを組み合わせることで、多言語環境に対応し複数言語に切り替えられる e ラーニングの仕組みやコンテンツをお客様に提供することが容易になります。
(凸版印刷 菅野氏)

凸版印刷との関係強化は、WOVN にとっても大きなメリットがありました。WOVN のユーザには大企業が増えつつあり、そんな中での凸版印刷との協業は、スタートアップである WOVN が今後ユーザになるかもしれない大企業から信頼を獲得する上で極めて有効に働いています。

両社では WOVN.io の販売協業や共同で開発して生まれるソリューションなどで、2023年までに6億円の売上を計画しているそうです。

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