台湾のポスト量子暗号スタートアップChelpis(池安科技)、2.6億円を調達

Chelpis(池安科技)のチームメンバー
Image credit: Chelpis(池安科技)

台湾スタートアップの Chelpis(池安科技)は、台湾政府の行政院国家発展基金と菓子製造大手 I-Mei Foods(義美食品)CEO の Luis Ko (高志明) 氏らが参加したラウンドで約5,850万ニュー台湾ドルを調達したと発表した。

量子コンピュータの登場により、新しい暗号プロトコルが登場し、古いセキュリティ機構は安全でなくなり、新しい暗号標準アルゴリズムで情報を保護する必要が出てくるだろう。

情報を安全に保護するには、新しい暗号標準アルゴリズムを使うしかない。(Chelpis 創業者兼 CEO の Ming-Yang Chi=池明洋氏)

暗号アプリケーションに注力していた Chelpis は、この問題に着目し、量子コンピュータの新アルゴリズムが引き起こす情報セキュリティ問題を解決するソフトウェアサービスを考え出した。

問題解決に必要なのはスピード

RSA や ECC など既存の公開鍵暗号は、ファイルやメッセージを送信する際に、いずれかの鍵(公開鍵)で乱数の束に暗号化する方式を採用している。しかし、量子コンピュータは、既存の公開鍵暗号方式を破れるほど強力であるため、量子コンピュータの計算能力に対応した新しい公開鍵暗号方式が必要となり、これはポスト量子暗号(PQC、post-quantum cryptography)と呼ばれている。

つまり、ポスト量子暗号は速さを追求するものであり、特殊な能力を持ち、計算が速い量子コンピュータが安全な時間内に解読できないような鍵の交換方法を、さまざまな数学的アルゴリズムを使って作り上げることなのだ。

ポスト量子暗号アルゴリズムのソフトウェア化

2017年に設立された Chelpis は、暗号技術やアルゴリズムの応用に深く関わっており、ARM や Academia Sinica(台湾中央研究院)と連携、Cointech や DoQubiz(奕智鏈結)といったブロックチェーンや情報セキュリティのスタートアップが Chelpis のサービスを利用している。 量子コンピュータの成熟がもたらす新たなビジネスチャンスに注目した Chelpis は、2020年にソフトウェア企業が利用するための暗号製品「AORTA」を誕生させた。

AORTA は、VPN の拡張版と考えることができ、ポスト量子暗号を利用して、企業ネットワークと各種クラウドサーバーとの接続に仮想的なプライベート伝送路を作成する。 AORTA は、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が公開した「SP(Special Publication)800-207 Zero Trust Architecture」の暗号化規格を採用しており、仮想チャネルを利用したい人は許可を得なければ入れないようにすることで、セキュリティを担保している。

VPN との大きな違いは、AORTA はゼロトラスト・インフラを使用しており、データ送信とデータアクセスの両方に、精密な認証を求められる点だ。
Image credit: Chelpis(池安科技)

我々の主な顧客はクラウド SaaS 企業だ。彼らは背後に多くのクラウド接続サービスを提供していて、我々は異なるドメイン接続のセキュリティの問題を解決するからだ。 AORTA は、複数のクラウドを同時に利用し、クロスクラウドを必要とするソフトウェア企業のためのテーラーメイドと言える。(Chi 氏)

AORTA は、すでに 5G 技術プロバイダ、Qualcomm、ブロックチェーンプラットフォーム「FormosaVerse」と連携しており、今年中に主要なパブリッククラウドと国内のクラウドマーケットプレイスで利用できるようになる予定だ。 また、Chelpis は積極的に国際協力を展開しており、欧米の多くの情報セキュリティ企業や上場企業と、量子攻撃対策アルゴリズムやゼロトラストセキュリティフレームワークの提供などの戦略的提携を締結している。

ポスト量子暗号を採用した仮想通貨ウォレット「Kevin Wallet」。
Image credit: Chelpis(池安科技)

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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