#14 トークンによるインセンティブ革命 〜ナナメウエ石濱CEO × ACV唐澤・村上〜

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容の一部をテキストとして掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を組み、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャストでは旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

前回に引き続き、web3 時代のバーチャルワールド「Yay!」を提供されている、ナナメウエ CEO の石濵嵩博さんをお招きし、お話を伺っています。時代で分けるなら、1990〜2000年は Web1.0、2000〜2020年は Web2.0 とすることができると思います。2020年代は、クリプト(仮想通貨やトークン)を中心とした、 Web3 に期待が集まります。

石濵氏によれば、Web2.0 で我々がよく使うサービスの多くは、2013年より前に生まれたものです。つまり、そこから9〜10年程度は、世界を席巻するような革新的なサービスは生まれていません。果たして、Web3 時代をリードするプレーヤーは誰になるのでしょうか。

今回も話のお相手は、アクセンチュアの ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクターの唐澤鵬翔さん、Accenture Song シニア・マネジャー 村上仁(ひとし)さんです。(ポッドキャストの一部をテキストにしてお届けしています。)

ポッドキャストで語られたこと

  • オンラインコミュニティのアクティビティが増えると、そこの治安維持的な活動も必要になる
  • Yay! にクリプトの採用を決めたのは、コミュニティにおける自律性の懸念を解決するため
  • サステナブルなトークンエコノミーを作れたアプリケーションレイヤーはまだ無い

前回からの続き)

石濵:2013年に僕たちは起業しています。改めて振り返ると、Web2 のモバイルアプリの世界では、2013年までに出したプロダクトが勝っている。例えばメルカリとか LINE。LINE は2011年、あとスマートニュースは2013年ですよね。それ以降はほぼ無風でした。大当たりするようなものは誕生しないまま8年が過ぎ去り、僕たちも試行錯誤をしながらなんとか生き延びていった。今ようやくクリプトの流れが来て、僕たちの領域にかなり親和性があるため、新しくメタバースを定義して、僕たちの見え方だとこうだ、というのを世の中に提示してるいるわけです。

唐澤:コロナによってオンラインコミュニティが加速した部分はあると思います。一方で、類似のコンセプトのものが多い中、たとえば音声グループチャット機能を専門で立ち上げてるような企業もありますが、そうした中、うまくいくところとうまくいかないところがある。なぜ  Yay! がうまく波に乗れたのか。その背景を伺いたいです。

石濵:僕たちは、自律性にずっと課題がありました。例えばユーザのコミュニケーションに(運営側は)手を触れないけれど、ユーザが僕たちのことやプラットフォーム全体のことを考えて、いかに自律的に「これはやめとこう」と思える仕組みができるか。

例えば、ポップアップを出して、これよくないと啓発するやり方含めて、いろいろ試しました。そこに一番大きな問題意識があり、ずっと解決すべき懸念としてあった。そして、クリプトが出てきたときに、もうこれだ、と確信しました。当時はクリプトをやると上場できないとか、監査法人にもダメといわれたり、怪しい詐欺的なイメージがありましたが、これが問題を解決するために、インセンティブとして使えると思いました。

その当時、國光さんなどがクリプトについて発信しておられたので、いろいろと話を聞かせていただき、また Astar(Astar Network)のチームと話してコンセプトを学ばせていただきました。一番大きかったのは、そもそも Web2 自体に問題があり、それをいろいろな方法で対応をする上で、Web3のコンセプトがベストマッチだった。元々トークンをやりたいと始まったわけではなく、ユーザの自律性を高めるための方法として適していたんです。

唐澤:やり方は変われど、大事にしてきたことは変わっていないんですね。そこを真面目に貫いたからこそ、その他のプラットフォームと比べて安全性や UX(ユーザ体験)が保たれている。そして、サービスの存続につながっているんですね。

石濵:さらに、僕たちが、ユーザ体験にフォーカスしたというのもあります。監査の問題や上場よりも、明らかにこちらのメリットが大きいと思った。

唐澤:アクセンチュアもオンラインスペースの治安維持的なことをやるケースもある。僕ら自身、ソーシャル上の治安維持の大事さは、身にしみて理解しているんです。

だからこそメタバースやオンラインアクティビティが増えると、そこが問題になるとも感じています。しかも次元が変わるほどに。先日見た記事では、アバターが一体一体だと問題なく普通でも、お互い変な姿勢でくっつけると問題があるであったり。人のビヘイビアを検知しなくてはいけなかったり。メタバースは必ずしも 3D 空間でなくてもいいと思いますが、結局圧倒的に過ごす時間は長くなる。

多くの大企業がそこにすごく尻込みをしている。ほんとにそれをやって大丈夫なのか、レピュテーションリスクがないかなど。石濵さんの話を伺うと、そこはまさしくクリプトのようなものが出てきて、ある意味インセンティブ革命ですよね。人のモチベーションやインセンティブをデザインする。結果的に企業がオンラインスペースのようなものにチャレンジしやすくなりうるとも思います。

石濵:デジタル空間で皆が慣れてくると、当たり前のハードルが下がっていく。元々これはアレンジだ、とされていたものも当たり前になったり。Discord だったら別によくある話だね、という感じになっていくと、そこ自体のハードルは下がると思いますね。ただ日本の大きい企業はレピュテーションへの敏感度が高いですし、やはり目立つとネット上で炎上させようとする人もいたりします。

唐澤:Yay! のサービスでは、その世界でユーザにパトロールを含めてデレゲーションしてるんですか?

石濵:今後はそうしたいと思っていますが、今の時点では AI と人を組み合わせたコンテンツモデルにしていて僕たちが自分でやっています。ユーザにデレゲートしていくような形になれば、真の意味での経済圏がそこでもまた生まれていくのかと思います。

唐澤:そこはハイブリッドになっていくのでしょうね。完全に任せるという話でもなく、一方で中央集権的にやると、そのデジタルスペースが大きくなればなるほどコストが大きくはなっていきますしね。

村上:Decentralize(分散化)でコンテンツモデレーションもある程度ユーザに委ねていくということになると、何が OK で何が NG なのかもコミュニティによって変わりますか?

石濵:おっしゃる通りです。結局、中央集権でやると、僕の思想やナナメウエ社の倫理になってしまう。例えば僕たちから見て過激な人でも、よく知ると実際は普通だったり、そういうのは結構ありますし。

例えば、日本円は終わるという話も、人によっては、「何言ってんだ」となります。僕の中では、金融リテラシーができてきたので、その意味が理解できる、というだけで。結局育った環境や場所、自分の持つ知識によって自分たちで意識決定する必要がある。何を感じて何を感じないかなど。

トランプ氏の Twitter アカウント凍結も、ジャック・ドーシー はやりましたが、それは彼の倫理観だと、トランプさんは危ない。でも果たしてそれが正しかったかどうか。僕はコミュニティベースで将来的にはやるべきだと思っている。なるべくセントラライズ(中央集権)で手を下さないことが重要だと思います。

唐澤:コミュニティという言葉がたくさん出ています。最近大企業もコミュニティを作っていく例が増えてきていますよね。Nikeでもランクラブでコミュニティを作ってなど。別に靴を売ろうとしてなくても、結果として靴が売れていくといった。これは、企業から見たら理想形ですよね。

一方、コミュニティは結構ナマモノ。石濱さんはソーシャルやコミュニティを長く手掛けてこられたと思いますが、良いコミュニティ、悪いコミュニティという定義は無いかもしれませんが、何かコミュニティ形成の要諦があれば教えてください。

石濵:これは本当に難しい。コミュニティの話でいくと2つあり、1つがブランド的な作り方。ここにいることが羨ましいと思われるもの。おそらく Nike のコミュニティの作り方はそちらで、いかにそのコミュニティがレアで、崇高で、入るとかっこいいという風に見せる。そうしたブランドをベースとしたコミュニティですね。

一方で、僕たちはどちらかというと、自分の好きなことを話せるから、あまり傍目を気にする必要もなく、気軽に使える、ここが好きだなって思うところから入っています。最初はそんなにキラキラとしたものを別に見せているわけでは無く、ここにいるとかっこいいよという見せ方でもなく、ただなんとなく使っていると、居心地が良くてってハマッていって最高と思えるコミュニティになっています。

唐澤:トークンみたいなものは、人とコミュニティ両方に付与していくのでしょうか?

石濵:コミュニティ貢献という形で、様々な貢献の仕方があるので、そうした貢献に応じてできたらいいなと。同時にそのボット配信のような、これは本当に貢献?機械的にやってない?という点も見ていく必要があります。

唐澤:非常に期待しています。我々も実は Web3 系のサービスを設計しているのですが、貢献をいかに測るのかや、そういう際にトークンをどう活用するのか、なんとでも設計できるというのが思うところで、正解がまだ出ていないですよね。世にあるトークンで、これパーフェクトだというやつがまだ無いと思ってます。

石濵:本当にそこが課題です。結局サステナブルなトークンエコノミーを作れているアプリケーションレイヤーが一個も無い。それを実現できればその企業は Web3 時代の GAFA になれると思っています。例えば STEPN。強烈でしたよね。だって20分歩いて15,000円稼げるんですよ。

唐澤:今は200円ぐらいですけど。

石濵:今はそうですね。そういうインパクトがあり、しかもそれが3ヶ月ぐらい続いた。そのレンジのまま、あるいは多少下がっても、サステナブルな形で作り込むようなトークノミクスが今後出てくると思うので、それをやったサービスが Web3 時代の GAFA だと思います。

唐澤:これは当たり前ですが、基本的にグローバルレベルの話なんですかね。

石濵:はい。グローバルが勝てるタイミングなので、グローバルを狙う。グローバルではアメリカや中国の強いプレーヤーがマーケットを取ってからだと難しいので、今は全員がそれに向けて頑張っている感じです。まだ可能性はあると思っています。

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