食がメンタルヘルスに効く理由:こころとからだ、テクノロジーができること(1)

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本稿はコーポレートアクセラレーターを運営するゼロワンブースターが運営するオウンドメディア「01 Channel」からの転載記事。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が9月、新型コロナウィルス感染症の世界的大流行に「終わり」が見えてきたと 見解を示しました。 2020年4月に日本で最初の緊急事態宣言が発出されてから約2年半。私たちのライフスタイルは大きな影響を受けたのではないでしょうか。

特に働き方については物理的に会えない期間が続いたため、リモートワークへの移行が一気に進みました。パーソル総合研究所が数回に渡って実施している 実態調査では 25%ほどの企業がリモートワークを実施しており、実施した企業の従業員の8割近くが継続を希望するなど、一定の「働き方」として定着しつつあります。例えばフリマアプリを展開するメルカリでは多様な働き方を推進するプロジェクト「YOUR CHOICE」の活用状況を公開し、実に9割の社員がリモートワーク勤務を活用している状況を 伝えています。

社会が急激に変化する中、問題になるのがこころと体のバランスです。特にこころの問題は大きく、WHOでは今年3月にパンデミックをきっかけにメンタルヘルスに関する問題を抱える人が25%増加したという 報告を掲載しています。

この社会的に大きな課題についてはテクノロジースタートアップの多くがアプローチしており、世界的にもヘルスケア領域への注目が高まりました。CB Insightsのレポートによると、2021年のデジタルヘルス領域へのスタートアップ投資は前年比で79%増、過去最高の 572億ドルに達したそうです。 2022年は世界的な不況から 大きく減速 していますが、世界的な状況の変化をふまえると、こころや体の課題にテクノロジーが必要であることは間違いなさそうです。

食とメンタルヘルスのつながり

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こころと体の課題解決には様々なアプローチがありますが、食もそのひとつです。世界経済フォーラムが7月に 公表したレポートによると、 毎日より多くの発酵食品と繊維を食べることでストレスレベルが下がるそうです。また報告の中では、メンタルヘルスと食事の関係はまだ完全に解明されているわけではないとした上で、この10年間の研究論文が増え続けていることも指摘していました。

では日本国内ではどのような状況があるでしょうか。

チョコレートやヨーグルトなど食と健康を手がける明治では「食」と新しいテクノロジー・アイデアを創出するスタートアップとの連携を模索するプログラム「明治アクセラレーター」を2年に渡って実施しています。

テクノロジーと食の掛け合わせにおいて、こころと食には具体的にどのような関係があるのか、明治にて乳酸菌の基盤研究の傍ら、メンタルヘルスと食の関係についても探索している山田成臣さんにお話を伺ってみました。

まず、そもそもメンタルヘルスの課題解決はどのように整理すればよいのでしょうか。山田さんは私見と断りつつ、次のように説明してくれました。

「心身状態を健康、未病、病気の段階に分けて考えた場合、一過性のメンタルヘルスの不調がある状態が未病であり、その蓄積によって病気になると考えています。病気となってしまうと治療するという選択になりますが、我々食品メーカーとしては病気になる手前である未病状態や健康状態をターゲットとして考えています」(山田さん)。

ここで言う「未病状態」とは気分が落ち込む、よく眠れないなどの自覚症状初期サインがある状態です。これを日々のケアによって未然に防ぐことが大切で、「健康状態」におけるポジティブな感情も健全な状態を維持するためには大切な要素となります。

山田さんの説明によると、国内でメンタルヘルスに不調を抱える人々は3,000万人規模(※)が推計されるとのことで、そこから半数以上もの人々がコロナ禍においてストレス増加を感じており、これらの状況からも相当数の人々が一過性の不調をさらに抱えている状況にあるのではないかと指摘していました。

ではこういった状態をどのようにして解決するのか。

メンタルヘルスケアにはマインドフルネス、呼吸法、コーチングなど様々なアプローチがある一方、これらを「習慣づけ」する課題がでてきます。山田さんはだからこそ、もともと習慣化されている「食」に利点があると指摘します。

「食そのものの素材はもちろん、料理を作る、見た目、香り、食べるシーンなど、食にからむ様々な要素がメンタルヘルスの健全化に寄与できると考えています。ヒトは一日に3+α回、喫食する機会があります。食事には新たな習慣づけが不要です。

また、食にはいろんな可能性があると考えています。例えば、グミの固さによっても心理的にもたらす影響が異なるという知見があります。噛み応えが弱いグミはリラックス、噛み応えが強いグミは覚醒感を感じます。このように食のもつ可能性を活かし、食事の機会にメンタルヘルスケアを組み込んでいくことで、抵抗感なく手軽に実施することができるのではないでしょうか」(山田さん)。

一方で、課題もあります。特に定量的な可視化の問題です。冒頭で紹介した世界経済フォーラムの発表でも指摘されていたように、食とメンタルヘルスの関わりはまだまだ未解決な部分が多いテーマです。これを科学的に証明できれば、より身近なメンタルヘルスケア、特に予防面での効果が期待できます。

「食のもたらすメンタルヘルスケアの効果について可視化できることが課題です。というのも、感覚的な定性データだけではなく、客観的な定量データがあることで、より説得力や納得感をもたらすことができるからです。また健康の自己管理が当たり前の世の中になってくる中で、メンタルヘルスケアも日々個人で管理することになることが容易に想定されます。したがってウエアラブルディバイスやアプリなどと連動してサポートできる体制づくりが課題になってくるのではないでしょうか」(山田さん)。

本稿ではメンタルヘルスを食という切り口で、その可能性についてお話と共に紐解いてみました。次回はメンタルヘルスケアに挑戦するグローバルのスタートアップをいくつかご紹介いたします。

次に続く:メンタルヘルスケアに挑戦する3つのスタートアップ:こころとからだ、テクノロジーができること(2)

※註:「働く人のメンタルヘルスとサービス・ギャップの実態調査(NTTデータ経営研究所)」にて45%が不調を抱えるとした調査結果から、日本の労働人口約6600万人(総務省統計局・2021年)を元に算出

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