製造業が産んだスタートアップは「立ち仕事の救世主」ーーCES2023出展のアルケリス

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

CES2023出展スタートアップ、これまでにコンパクトに畳める「タタメルバイク」のICOMAや、耳から脳波を測定して集中力を高めるデバイス開発を進めるVIE STYLEを紹介してきました。3社目となる今回は、立ち仕事の負担を軽減してくれるアシストスーツ「アルケリス」をご紹介します。

アルケリスは長時間の立ち仕事や手術による身体の疲労を大幅に軽減することを目指したアシストスーツで、スネとモモで体重を分散して支えることで、体幹が安定し、腰痛の心配からユーザーを開放してくれる効果があります。特徴としては装着したまま移動できることや、モーターなどの電子機器を使わない電源不要の点、そしてさまざまな体型でも容易に調整して装着ができる点が挙げられます。

アルケリスはパーツの構造や素材が異なる3つのタイプがあり、最軽量モデルで1.8 kg(Mサイズ)のarchelisFXスティック、機動力と安定性の両立を実現したモデルのarchelisFX、抜群の安定性を持つarchelisがラインナップされています。今回の出展にあたり、アルケリス株式会社 代表取締役CEOの藤澤秀行さんにお話を伺ってきました。

電源を使わないアシストスーツ

冒頭に記載した通り、アルケリスの最大の特徴はやはり、電源を使わない機構にあります。藤澤さんにその特徴を改めて解説していただきました。

取材時に試させていただいた時の様子

足に装着するアシストスーツですが、装着した人の体重を分散して支えることで、長時間の立ち仕事の負担を軽減します。装着したまま自由に歩いたり、自分の好きな場所で作業したりすることができます。装着した人は、まるで高いイスに座っているかのような感覚になります。

写真や動画だけでは理解しづらいですが、このアシストスーツを使うことで、座っているような感覚で立ち仕事ができるんです。また、大きな特徴として、電源を使わずに完全に機械的な仕組みだけで機能していることが挙げられます。充電する必要がなくバッテリー切れの心配もありません。何時間でも使用することができる製品です。(藤澤氏)

藤澤さんによると最初はバランスを取るのに少しコツが必要なのだそうですが、数分間装着しているだけで慣れてくるというお話です。そもそもアルケリスは医療従事者の立ち仕事のつらさを解消するために開発されたそうです。藤澤さんは開発のきっかけをこう振り返ります。

元々はですね、お医者さんから相談を受けてこの製品開発がスタートしたんです。内視鏡外科手術の先生が手術する際、10時間とかかかる手術でずっと立ちっぱなしだとやはり疲れちゃうのでそれを負担軽減できないかっていう開発依頼を受けて開発がスタートしたのがきっかけです。

そして最初の製品が2018年にリリースされ、その後、立ち仕事をする他の職種や状況でも使えることが明らかになったことから、工場等のさまざまな環境で使用されるようになりました。

その利用拡大に伴い、製品は使いやすさや軽量化、装着の容易さなどが改善されていったそうです。特に最近の開発には、軽量化と装着性の向上が重視され、その結果として新バージョンが最近リリースされています。(藤澤氏)

創業55年の企業から生まれたスタートアップの強み

アルケリスの特徴は製品だけでなく、そのスタートアップの経緯にもあります。2018年にアルケリスが生まれたのは、55年の歴史を持つ中小製造業「ニットー」の中での出来事でした。ニットーは設計開発から金型量産まで一貫した生産が可能という製造業の老舗で、病院の先生からの要望を基に始まったのですが、大きな事業拡大が見込まれたため、2020年にスタートアップとして独立することになったのです。

ニットーの開発力や製品化のスピードは元々強みで、私自身も実際に設計する際にさまざまなアイデアを取り入れたり、それを実現する技術力を持つ会社だと感じています。現在はアルケリスが開発や企画、販売を担当していますが、製造自体は引き続きニットーが行っています。(藤澤氏)

社内の部門ではなくスタートアップとして切り出し、スピード感を持たせる。この判断はやはり確固たる需要に気づかなければなかなかできません。藤澤さんは「立ち仕事」の課題や状況を次のように教えてくれました。

立ち仕事による疲労の対策って個人レベルではコルセットを巻いたり、温めるシートを使ったり、指圧マッサージを受けたりするなど、さまざまな対策があります。実際、日本国民の4人に1人が腰痛であり、そのうちの3分の1が仕事が原因で腰痛に悩んでいるという現状があります。
インターネット検索やウェブ上での問い合わせが非常に多く、私たちの製品が腰痛対策や負担軽減に役立つことを知ってもらえる機会や実際に使っていただくきっかけになっています。(藤澤氏)

利用シーン

問い合わせは寿司屋やラーメン屋のチェーン店の従業員、スーパーやコンビニのレジスタッフ、警備員など、様々な立ち仕事の人々から問い合わせがあるそうですが、主なターゲットは医療分野と産業分野なのだそうです。産業分野においては元々、ニットーがこういった分野に対する市場理解があることもひとつ背景にあるのだとか。

医療関係では本当に腰痛で悩まれていた先生方が手術ができなくなって引退しなければならない状況でしたが、私たちの製品を使用した結果、再び手術が可能になったというケースもあります。

また、工場でも腰痛で悩んでいる方々が多く、私たちの製品を使用することで、その社員も安心して働くことができるようになったというお話もあります。

また、使用者の声では、製品を使用した後や使用しなかった場合と比べて、仕事が終わった後の疲労感が全然違うというお声もいただいていますね。(藤澤氏)

オープンイノベーションへのきっかけ

アルケリス社のオフィスにて利用されている社員の方

国内外の「腰痛」という課題にチャレンジするアルケリス。CES2023に出展して海外と日本のフィードバックの違いを次のように教えてくれました。

海外ではダイレクトな反応がより強いですね。この製品に対するリアクションなど、日本では新しい製品に対して肯定的な意見を言いつつ、すぐに採用されるということはなかなか難しい風潮があるように感じます。一方、海外ではまだ仮説の段階ですが、実際に製品を試してみたいと思ったら、すぐに導入を検討するケースが多いです。

こういった意味で、市場への浸透性においては、海外市場、特にアメリカやヨーロッパの方が有望ではないかと考えています。実際に問い合わせも日本と海外が半々ほどで、コロナも少しずつ緩和されてきており、現在はリアルな展示会に参加し、アメリカやヨーロッパの方々にも直接取引だけでなく協力パートナーや代理店を通じて展開しています。(藤澤氏)

今後の戦略について藤澤さんは主な目標としてロボット化とスリム化を挙げていました。ロボット化では、手の操作なしでモードチェンジ可能な機能や、センサーを使用した効率的な動きの検知・記録などの実現を目指しているそうです。

スリム化では、体を支えつつ装着時のかさばり感を軽減するデザインや、目立たない形状(ズボンの下に装着可能な形など)のモデルを考えているとのことでした。

現状では工場や医療分野(BtoBの業界)で主に使用されていますが、将来的には一般の方々にも使用可能な製品に発展させたいという藤澤さん。例えば家事をする人々や行列待ちなどより一般的な利用シーンを模索しているのだとか。

一部の例ですが、現在、お医者さんだけでなく、実際の患者さんが装着することでリハビリに活用する取り組みも少しずつ始まっています。また、様々な立ち仕事の現場が存在する中で、市場に応じてカスタマイズ対応していくことも考えています。

例えば、農業分野では雨や地面の状態に対応できるような仕様が求められます。また、医療系ではクリーンルームでの使用が求められたり、警備員の方々は屋外での使用や緊急時の即応性が重視されたりする要望があります。

製品にはそれぞれの業界や使用環境に合わせた仕様が必要となっており、業界ごとの要件に合わせた開発も順次対応を進めながら、各業界の企業と連携しながら取り組んでいきたいと思っています。(藤澤氏)

ありがとうございました

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