ビッグデータと科学で完璧なTシャツは見つけられるのか?ーーR&D機関「スタートトゥデイ研究所」発足、数百名規模の研究体制目指す

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写真左からスタートトゥデイ代表取締役の前澤友作氏、VASILY代表取締役の金山裕樹氏

ファッションショッピングサイト「ZOZOTOWN」を展開するスタートトゥデイは1月31日、同社のR&D(研究開発)機関となるプロジェクトチーム「スタートトゥデイ研究所(以下、研究所)」の発足を発表した。

同研究所は昨年10月に買収が発表されたファッションアプリ「IQON」を運営するVASILYの代表取締役、金山裕樹氏がリーダーを務める部門で、スタートトゥデイが保有するビッグデータを活用した研究開発を実施する。

同社が保有する具体的なデータとしては約3000万件のブランド公式商品データ(商品情報やカテゴリ、サイズ、素材など)、約1000万件のコーディネートデータ、約2300万人のユーザー情報(属性や購買履歴、保有アイテムなど)、その他店舗情報や物流関連データに加え、先日発表されたZOZOSUITによって今後蓄積される人体計測データなどが加えられ、解析研究対象となる予定だ。

金山氏の説明によると現在のチーム体制は非公開ながら、今後、機械学習や暗号化技術、素材や流体力学など、ファッションを科学的な側面から解析・分析するPhDクラスの人材を集め、将来的には数百名体制を目指すという話だった。本誌では発表に合わせ、金山氏とスタートトゥデイ代表取締役の前澤友作氏にショートインタビューを実施し、研究所が目指す内容を聞いてきた。(太字の質問は全て筆者、文中敬称略)

センスではなくサイエンスでファッションを解明する

PB商品、ZOZOSUIT_180130_0003
サイズを測定してくれるZOZOSUIT

先に断っておくが、現時点で研究所の全体像はまだはっきりとはしていない。前述の通り、同社に集まっている日本を中心とした「ファッション」に関するデータが集まっているのは事実だ。また世間をあっと言わせたZOZOSUITによってこれから集まるであろう身体データがここに加わりその内容はさらに厚みを増すことになる。研究所のアウトラインについて二人はこう説明してくれた。

リリースではビッグデータを扱ったファッションの科学的解明、というややふんわりとした表現でしたが、改めて研究所の概要を教えてください。

金山「研究所では人体のデータを始めとしたファッションデータの活用を目指します。得られたデータでどのような傾向が分かるのか、またどのようにサービスに活用していくかと言った点を外部の企業や教育期間と研究していきます。(研究所の)アウトプットには2種類あって、アカデミアに対しては論文や学会へのアプローチ、もう一つは企業が母体となってサービスやプロダクトに落とし込むパターンです。膨大なデータを取得する中で、我々以外の方々とも取り組んで世界を良くしたいという思いがあります」。

これはスタートトゥデイのR&D部門となるのでしょうか?

前澤「いままでは必要に応じて(企画開発を)やっていましたが、今後はここで幅広く研究に取り組んでいきたいと考えていますね」。

体制についてもう少しお聞きします。同じくR&D部門を発表したメルカリでは研究テーマや規模など具体的に決まっていましたがこちらはどのようなイメージになるのでしょうか?

金山:「研究所の体制としては最終的にPhD含め数百名体制を目指します。また、サービス化しない真理や定理に対しても研究をすすめる計画です。ファッションには「プロテクション」と「エモーション」という側面があります。プロテクションというのは寒いから着る、または大事なところを隠す、といった部分です。一方でエモーションは気持ちを高めるとか、自信や満足につながる、そういう面があります。例えばエモーションを満足させるところに採寸に関する技術がありますし、であればサイズスーツもさらなる進化が必要になってくるわけです。こういった組み合わせやコーディネートをアルゴリズムや機械学習、深層学習を通じて解明していきますし、例えばファッションで健康でなければならない、となればヘルスケアの研究も対象になってきます」。

金山氏が「まるで石油のよう」と表現していたこれらデータも、そのままであれば単なる文字列にすぎない。これを精製し、プラントにかけて「使えるモノ」にするーー研究所が目指すのは従来センス中心に語られてきたファッションを定量化し、誰もが共通認識として扱える知識に変えようという取り組み、と説明できるかもしれない。

1センチ単位の「ぴったり」が変えるファッションの世界

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二人の描くイメージはなかなか大きな構想だが、では具体的にどういった世界観を開拓するのだろうか。質問を続けた。

実施する研究内容についてお聞きします。例えばAmazonではEcho Lookのようにカメラで撮影した自分に合ったファッションの提案、というようなわかりやすい世界観を持っていたりします。この研究所からアウトプットされるアイデアとして具体的に言えるものはありますでしょうか?

金山:「サービスのアイデアとして持っているものはありますが、今はまだ言えません。ただ、その人にとって何がカッコいいのか、周りも自分も同様に思ってもらえるようなポイントは探したいですね」。

前澤:「その人に何がカッコいいかをその人を満足させながら、かつ人からも言わせる、その答えを求めるのが研究所の目的です。カッコいいね、かわいいねっていうのを数値化する。あなたが満足するのはもちろんだけど、人もこれを絶対イイっていうからオススメですよっていうところまで持っていきたいんです。

カッコいいっていう曖昧だったものを、これとこれがこうだからカッコいい、100人の内85人がこれをいいと定量的にいってるからと、とにかく数値化する。ファッションって本当に似合うかな、とかネガティブになる可能性があるじゃないですか。それをポジティブに変えていくためにも数値化して、これは似合ってます、可愛いですよ、かっこいいですよと(定量的に)言ってあげることも大事かなと。そのためにもまずはぴったりのサイズを着てもらって感動する体験をしてもらいたい。そこに研究所で解析した数値が後押しする、そんな形になってくれればいいのかなと」。

なるほど前澤氏の話を聞きながら、おぼろげながら標準化されたファッションに関する情報、例えば「ファッション偏差値」のようなものがここから生まれるような印象を持った。当然のことながらグループのサービスに組み込まれることになるだろうし、標準化されるのであれば外部企業も使えることになる。

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質問を進めよう。では研究所が保有するデータから何らかのアウトプットを出したとして、どのように世界は変わっていくのだろうか?例えばユニクロが代表格となったファストファッションの登場で、私たちは少なくとも「生きるための衣服」には困らなくなった。彼らはどのように世界を変えようとしているのだろうか?

ファストファッションの登場で衣服に困ることは少なくなりました。同時に街中のファッションに均質感が生まれたり、それまでと目に見えた変化が現れたりしています。この研究所が与えるインパクトについてどのような未来像を持っているでしょうか?

前澤:「Tシャツを着た人のシルエットってアートだと思うんです。人によって全く違う。例えば車のボディラインってある程度数値化された黄金比ってあるじゃないですか。(それと同様に)人それぞれに合ったシルエットをどこまでアートにまで昇華させることができるか。絶対に「ここだ」っていうポイントがあるんです。

今回は数センチピッチで作ってるんで、自分のこれだというシルエットを見つけてもらいたい。1センチ単位で洋服って変わるんですが、これまでそんなことをお客様が選べるラインナップってなかったんです。洋服に1センチ単位でこだわる人ってなかなかいないじゃないですか。だからこそ完璧なTシャツ見つけたって言ってもらいたいんです」。

私はまだZOZOSUITを体験してないのでなんとも言えないんですが、ぴったりなTシャツってどんな気分になるんですか?

金山「すごくポジティブになりますよ(笑」

なるほど(笑

ファッションが定量化されることで実現できる世界観というのは実はすでに始まっている。本誌でも先日このような記事を掲載した。

本当にぴったりのファッションを手に入れることができる世界がやってくれば、オンラインでもっと手軽に世界中のファッションを楽しめるようになるかもしれないし、前述のファッション偏差値みたいなスコアリングがあれば、もっと自信を持てる人が増えるかもしれない。

ファストファッションが巻き起こしたような変化がここから生まれるのだろうか?彼らのアウトプットを興味深く待ちたいと思う。

 

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