[インタビュー] 元AppleのUXエバンジェリストが仕掛けるビジュアルストーリーテリングのiPadアプリ「Storehouse」

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Storehouse-ipad

先月新たにリリースされたのが、ビジュアルストーリーテリングのiPadアプリ「Storehouse」だ。写真とビデオを使えば、誰でもiPadで美しい物語を作成できる。サンフランシスコを拠点にするStorehouseのCEOは、Appleで長くUXエバンジェリストを務めたMark Kawano氏。共同ファウンダーのTimothy Donnelly氏もまたデザイナーで、現在9人のチームで運用している。

最小限の言葉しか要さない写真や動画は、今では新たな世界共通言語。でも、そのメディアコンテンツの消費体験は、タブレットという新しいデバイスを活かしきれていない。そう感じだ2人は、まるで雑誌から切り取ったようなストーリーを作れるStorehouseを開発した。例えば、National Geographicのフォトグラファー、Jim Richardsonが投稿したストーリー「Island Obsession」と「Ice Worlds」。ダイナミックな写真に息を呑む。CEOのMarkに、Storehouseについて、彼が前職のAppleやAdobeで学んだこと、デザイナーが心がけるべき点など聞いてみた。

ーーStorehouse以前のキャリアを教えてください。

kawano-Storehouse趣味でずっと写真を撮り続けていて、過去15年間はシリコンバレーでフォトグラファーのためのソフトウェアをデザインしてきた。ちょうどデジタルフォトグラフィーが本格化し始めた2000年にAdobeに在籍していて、デジタルSLRフォトグラフィーの初期のイノベーションに携わる機会に恵まれたんだ。

その後、Frog Designでハードウェアとソフトウェアのプロジェクトのコンサルティングを経て、2006年にAppeに転職した。iPhotoとApertureのデザインチームを任されて、後にAppleのユーザーエクスペリエンスエバンジェリストに昇進した。UXエバンジェリストとして、より洗練されたiPhoneとiPadアプリをデザインするために世界中の企業と仕事をしたよ。新しいデバイス上でどんな風にコンテンツ消費、コンテンツ作成にアプローチできるのかを学ぶことができた。

ーーStorehouseのアイディアはどこから?

メディアを消費するためのiPadアプリばかりが出回っている現状にフラストレーションを感じたことがきっかけ。共同ファウンダーのTimothyとiPadにポテンシャルを感じた。でも、既存のアプリはその独特のテクノロジーを完全に活かしきれていないと思ったんだ。その多くは、印刷物とウェブサイトのためにデザインされたコンテンツをiPadに載せているに過ぎなかったから。最高のコンテンツ消費体験を実現するには、コンテンツを作成するための素晴らしい方法が必要だと思った。それもiPad専用の。僕らは2人ともデザイナーでビジュアルを大切にするから、写真と動画にフォーカスする判断が自然だったんだ。

ーーStorehouseの主なターゲットは?

Storehouseは、特定の人のためというよりは、特定のストーリーのためのアプリ。これまで、ビジュアルを使った長いストーリーテリングは技術的知識を多く要したから、こうしたストーリーの作成はフォトジャーナリストやフォトグラファーに限られてた。でもみんなのポケットに素晴らしいカメラがある今、誰もがビジュアルなストーリー作りをできるようにしたかった。簡易的コミュニケーションに僕たちは既に写真や動画を使ってる。Storehouseなら、複数の写真や動画を合体させて、あとはコンテキストのためにテキストを追加するだけで意味のある物語が出来上がる。

ーーユーザーはStorehouseをどんな風に使ってる?

本当にいろんな形でStorehouseが使われていて僕たち自身驚いてるよ。フォトグラファーやジャーナリストが重要な世界情勢をシェアしていたり、食好きな人がレシピやお気に入りの料理を共有するために使っていたり。お母さんが家族の大事な瞬間を公開日記のように使ったり、ファッションデザイナーがランウェイの舞台裏(Stacey Bendetの2014 Spring Collection)を共有していたり。動画だけで作られたもの、また旅行や世界中の素晴らしい場所に関するストーリーも沢山投稿されている。

ーーモバイルやタブレットアプリを手掛けるデザイナーが心がけるべきことは?

フォーカスすることだね。色々やろうとしてしまうと、そのどれも中途半端になってしまって秀でたものが生まれない。ちょっと関連するけれど、制約はすごく大事だ。それは例えばテクニカルなことだったり、スクリーンサイズ、入力するデバイス、もっと一般的には時間やお金だったりする。大事なのは、向き合う必要がある制約をを認識して、それを受け入れること。それを踏まえてクリエイティブになる。制約が少ないとクリエイティビティも減ってしまうと思ってる。

ーーAppleやAdobeで学んだことで、Storehouseに反映している大事な教訓は?

僕は、誰もがクリエイティブだと信じている。自分のクリエイティビティを表現する方法はいくつもあるし、アーティストに比べると一般の人はクリエイティブアウトプットにフォーカスする頻度は少ないかもしれない。でも、誰もがクリエイティブな“うずき”を持ってるはず。だからStorehouseを作った時、世界中の優れたアーティストから学んだクリエイティブなプロセスに関する教訓を反映したんだ。その体験を、誰もが日常的に取り入れられるようにしたかった。

Appleでは、すべてのインタラクションで顧客を歓喜させることの重要性を学んだ。Storehouseのチームは小さくて、僕たちみたいな初期のスタートアップにアドバイスをくれるような人たちは、とにかく先にプロダクトを出せと言う。洗練仕切らなくても、より早くフィードバックをもらうために早くリリースするようにって。でも、僕たちはユーザーに1日目から素晴らしい体験を提供したかった。みんなに、Storehouseがクオリティーを大事にする、心のこもったブランドだと感じてほしかったから。最初の最初からそうじゃなきゃいけないと思う。

ーーStorehouseのチームについて教えてください。

今は9人のメンバーがいる。Timothyと僕が共同ファウンダーで、あとは7人のフルタイムの社員。ほとんどがエンジニアだけれど、みんなすごくクリエイティブだよ。デザインや良いユーザーエクスペリエンスへの深いリスペクトを持ったメンバーばかりだ。

ーー採用時にどこを見る?

採用するポジション、役割において秀でていること。必要なスキルセット以外では、会社のビジョンに情熱的かどうかが大事だ。多少経験が少なくても、賢くて、何かを証明するために2倍働く人に囲まれたい。がむしゃらに働く原動力は、情熱から来るものだと思うから。

ーーユーザー、特に日本のユーザーに対してメッセージを

Storehouseの良さの一つは、世界中の人のストーリーが見られることだ。写真と動画は新しい世界共通言語。キャプションが読めない他言語のストーリーでも、ストーリーをブラウスするだけですごく沢山のことを学べる。Storehouseで巧みに作られたストーリーは、イメージだけで大量の情報を伝えられる。人間は、どこにいても好奇心に溢れていて、ソーシャルで、自己表現が好きな生き物だと思う。Storehouseが、学び、笑い、美しいストーリーにインスパイアされるためのグローバルコミュニティになることを願ってる。

Storehouseは、iTunesでダウンロードできる。世界中のユーザーが投稿しているストーリーを発見するも良し、自らストーリーを投稿するも良し。素晴らしいサービスの使い方は、ユーザー自身が見つけてくれる。Storehouseが今後どんなサービスに成長していくのか今から楽しみだ。

 

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