iBeacon活用事例:来店情報をその後のマーケティングに活かす「物理的リターゲティング」〜スウェーデン

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スウェーデンでクノールスープを使った新たなマーケティングの試みは、iBeaconを最適に活用する「物理的リターゲティング」の事例である。

Glimr はモバイルデータのマネジメントを行うスタートアップで、頻繁に出版社と仕事をしている会社であるが、同社は先日、iBeacon をベースとしたプロジェクトをローンチした。スウェーデン最大の新聞社Aftonbladet向けのスープに関連するプロジェクトだ。

「従来のiBeaconではすべてプッシュ型のアプローチを使用していました」とGlimrのCEO兼共同設立者である Robert Hedberg 氏は VentureBeat に対して語った。

例えばある店舗のゲーム売り場にいるとしよう。すると、そのお店に設置されている iBeacon がビデオゲームの割引クーポンをあなたのスマートフォンにプッシュ通知してくれるといった具合だ。

そうしたアプローチの代わりに、「対象を入れ替えた」と Hedberg 氏は言う。そして、プロジェクトの協同者のいう「物理的リターゲティング」システムを構築した。

11月、クノールの商品を積んだトラックがストックホルムの寒空の下、温かいトマトスープとタイスープを人々に無料で提供した。訪れた人はスープをその場で食べることもでき、家に持ち帰ることもできた。そのトラックには iBeacon が設置されており、スープを手渡したスタッフのポケットにも電池駆動式の iBeacon が装着されていた。

人気の Aftonbladet アプリをすでにインストールしていた人は、トラックに訪れた際に iBeacon によって情報が登録された。

iBeacon は、Appleの支援によりビーコン技術を小さなデバイスに実装したもので、独自の位置識別情報を Bluetooth 経由で繰り返し送信する。顧客のスマートフォンにあるモバイルアプリがそのID情報を記録し、Wi-Fi かセルラー通信経由で出版社や広告主に送り返す。これが、先ほどのクノールトラックの前に立っていたユーザに起こっていたことだ。

Hedberg 氏が述べたように、通常 iBeaconでは出版社や広告主はID情報を受信すればすぐにその場所に応じた広告やクーポン、その他のプロモーション情報を店舗にいるユーザに送るというものだ。考え方としては、ユーザはその場ですぐに新しいゲームやスープを買うことができるだろうというものである。

しかしヨーロッパの人は、人との交流についてもっと忍耐強い見方をしていることが多い。ユーザにすぐクノールスープのクーポンを送る代わりに、Glimr がとったアプローチは待つことだ。つまり、ユーザが次にその Aftonbladet アプリを開くまで待つのである。それはその日の夜かもしれないし、数日後、または数週間後かもしれない。いずれにせよ、次にユーザがアプリを開いたときの画面に、ストックホルムにあるどのスーパーでも使えるクノールスープの割引クーポンが表示される。

「他のiBeaconの使用例との違いは、オフラインのプロファイルを構築するために使っていることです」とHedberg氏は述べた。彼によると、そのプロファイルにより「この人たちは私の店に来たことがある」ということがわかる。今回の場合でいうと、スープトラックに来た人だとわかるのだ。

「おそらく、そのiBeacon情報は小売店に送り返す方が理にかなっています。より良いユーザ体験につながるからです」と彼は言う。

「店舗で働いている人々こそが最大の物理的な強みです。」

では一体なぜ、広告を携帯電話に送って顧客の気を散らし、彼らの行動を邪魔するのか? iBeacon の技術は「あなたが店舗の中やトラックの前といったその場所にいたことを知る」ために使われるのがベストかもしれないとHedberg氏は言う。「あなたが今その場所にいること、ではないのです。」

Glimr はある意味、普通ではないデータマネジメントプラットフォーム(DMP)だと彼は言う。iBeacon に直接関わっていることもその理由だ。従来のDMPはデータを保管し、その多くはcookieに関連づけられたデータである。そして、それはオンライン広告のターゲットを絞るべくユーザをグループ分けするために使われる。

Hedberg 氏によると、少なくともヨーロッパでは、ブランドは「人が店舗にいるときに宣伝広告を送ることはほとんどスパムだと考えて」いる。彼らは人々が店に見向きもせずに街を歩いているような未来を避けたいのだ。また「広告は人をメッセージ攻めにしています」と彼は言う。

デジタルマーケターの間には、このクノールスープのトラックの試みは果たしてリターゲティングと呼べるのかどうか疑問を持つ人もいる。そこにはデジタルターゲティングがなかったからだ。通常リターゲティングとは、例えば人があるウェブサイトを訪れ、cookie を受け取り、商品を購入しないままショッピングカートから離れた場合、その商品の広告を見込み客に表示することを言う。マーケターの中にはそれを「ストーキング広告」と呼んでいる人もいる。

しかし今回の場合は、まずスープトラックを訪問したこと(つまり実世界での交流)を初回のターゲティングと考えて、この用語の意味を拡張している。また、ユーザがそのトラックのiBeaconの近くにいたとアプリが認識することが cookie に相当する。物理的マーケティングとデジタルマーケティングの融合により、ビーコンのこれまでとは違ったアプローチが示されている。

さらに、より洗練されたビーコンの使い方も示されている。位置情報を利用するシナリオの多くが想定してきたように、ユーザがビーコン設置エリアに足を踏み入れるとすぐにクーポンを送るのではなく、今回の位置識別情報はマーケティング活動を後に取っておくというものだ。

このアプローチは、店に入れば携帯電話に煩わしい宣伝広告が押し寄せ、そのすべての対処に頭を悩ませるような面倒な未来像を払拭するのに役立つかもしれない。

人によっては、そういった押し付けがましい宣伝をすれば、その店には2度と足を踏み入れないという結果になるだけだろう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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