ヨーロッパからの視点——起業家も投資家も、今こそ日本市場を目指すべき時

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。フランスのスタートアップ・ブログ Rude Baguette への寄稿を、同ブログおよび著者 Mark Bivens からの許諾を得て、翻訳転載した。(過去の寄稿

The Bridge has reproduced this from its original post on Rude Baguette under the approval from the blog and the story’s author Mark Bivens.


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Peter Thiel は日本のことを「究極の逆張り市場」と呼んだ。欧米の起業家や投資家と同じく、世界で3番目に大きな経済(=日本)は、不当に評価の対象から外されていたことを気づかせてくれた。勘違いしないでほしい。マクロレベルでは、日本経済はそれなりの困難に直面している。人口統計は国の考えとは違う方向に向かっており、高齢化が進み、移民は少なく、デフレは留まるところをしらず、人々は投資よりも貯金を好む。

ヨーロッパの政治家は、日本の政策を支持しないリスクとして、日本の経済成長における「失われた10年」を挙げるが、これには2つの罠が潜んでいる。一つ目に、この「失われた10年」の神話は数年前、高名な数名のエコノミストによって真実が暴露されているということ。二つ目に、2008年以降、多くのヨーロッパ経済は、ほとんどの経済指標で日本を下回っているという事実だ(下図参照)。

したがって、マクロレベルでは、日本の経済不況は誇張して伝えられてきた(その背景には、日本の政治家が経済が病床にあると吹聴することで、ワシントンからの圧力を交わせると考えている点もあるだろう)。言うまでもなくスタートアップの世界は、マクロよりもミクロで語られるべきだ。そこでは一体何が起こっていたのか。この数ヶ月間、日本で十分な時間を過ごした中で、まわりから聞いた話を書き留めてみたい。

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労働者ベースで見た一人当たり実質GDPの成長推移(1993年を1として)

日本のスタートアップ・シーンの変化

伝統的かつ社会的にもタブーとされた起業家精神は、日本で受け入れられやすくなりつつある。若い世代は終身雇用の時代の生活の安定は得られなくなり、リスクの意識も下がっている。さらにテック業界について言えば、ロールモデルが増えた。若い開発者が短期間で数十億ドルの企業を築くようになったからだ。 その好例が、LINE、ミクシィ、GREE、DeNA などだ。大きなIT企業——ヤフー、リクルート、楽天など——は、社内に起業家精神の文化を生み出すようになった。事実、東京のテックの集まりには、〝リクルート・マフィア〟の一部であることを賞賛する声もある。

そして、外来者が事にゆさぶりをかけた。Criteo、Supercell、Evernote などの企業は、時間をかけて関係づくりに邁進すれば、日本市場は歓待してくれると信じている。外国人が日本でスタートアップをはじめている。先週、私は3人の素晴らしい起業家にあった。小売のトラフィック分析を提供する先進的なソリューションを開発するフランス人(Locarise の Sébastien Béal)、日本の請求書ソフトに変革を起こそうとするオーストラリア人(MakeLeaps の Jason Winder)、日本のテックカンファレンス文化を変えようとするフィンランド人(Slush Asia の Antti Sonninen)だ。

政府は正しいことを多くやろうとしている。細かい信用調査をしたり、紐付きの補助金を拠出したりするだけでなく、日本の政治家はビジネスを創出しやすい環境を整えつつある。政府は量的緩和を継続し、賃金を上げるよう企業を促している。先週、福岡で市長の高島宗一郎氏は、自らが実施したスタートアップ創業特区が成果を上げていることを披露し、すべての関係者に対して利益を保証するだけでなく、イノベーションを育てるには政治家と起業家がどのようにコラボレートすべきか、自らのビジョンを語った。

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日本市場への参入は難しいか?

外来者にとって、日本市場は参入が難しいのだろうか。確かにそれはそうだろう。

しかし、例えば、世界が複雑だと呼ぶフランス市場と比べてみても、日本は我慢強く一歩一歩物事を進めることで、実を結ぶことができる市場だ(これは、フランスの DailyMotion と社会連帯経済法のゴタゴタを見てみても明らかだ)。

アメリカと比べてみても、日本の労働文化では、自社のトップ開発者が巨額を資金調達した競合から2〜3倍の月給で引き抜かれる心配をする必要が無い(Google が求人を始めたときの騒ぎを見てみるといい)。

世界で最も将来ビジョンを持つテック企業の中には、日本に可能性を見出しているところもある。前出した Criteo、Evernote、Supercell がそうだ。ホームデザイン・プラットフォームの Houzz もそうであり、先週6番目の新市場として日本参入を発表した。

Slush Asia もそうだ。Slush は世界で最もホットなテックカンファレンスを世界に展開する布石として、フィンランド国外で初開催する地に東京を選んだ。

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日本市場に可能性を見出すフランスの起業家たち

少数のフランスのスタートアップは可能性を見出している。先週、福岡に招かれたフランスからのスタートアップ代表団— QuantCube、Feeligo、TrustSeed、Popup Immo、DynAdmic、Recipay、La Belle Assiette は、日本のテックリーダーや政治家に話を聞く素晴らしい機会を得た。

まるで壊れたレコードのように、私が同じことを何度も言っているのは百も承知だ。しかし、ヨーロッパのスタートアップは、グローバルに物事を考えなければならない。それは、端的に自らのビジネスドメインで、ヨーロッパを代表するスタートアップになろうということを意味するかもしれない。あるいは、シリコンバレーに行くことに賭けることかもしれない。アメリカ市場を優先する論理的なビジネスセンスがあるなら、私はそのような動きを称賛したい。言うまでもなく、東ヨーロッパにも、アフリカにも、インドにも、南米にも、東南アジアにも新興市場戦略が存在する(特に新興市場の国々は、ヨーロッパの投資家に見過ごされている)。

しかし、もし、あなたのプロダクトが高い可処分所得を持つ成熟した市場をターゲットにしているなら、技術を受け入れる文化があり、世界で最も高い消費者エンゲージメントとマネタイズ実績を持つ日本をよく見てみるべきだろう。あなたのプロダクトは、私の目にも止まるに違いない。

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