【インタビュー】頓智の井口尊仁氏に聞くNYのスタートアップ環境と、iPadアプリ「tab」とNYの親和性

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セカイカメラで知られる頓智ドット株式会社が、先月新たに「tab」というiPadアプリウェブサイトをリリースした。近日中にiPhoneアプリをリリースし、また英語版のリリースも決定している。tabは“Interest to Action”を掲げるアプリケーション。ラテアートが可愛いカフェ、美術館の展示会など、キュレートされた情報をもとにユーザのアクションを生む。人々の興味が細分化し情報量が増えたため、雑誌などの従来メディアだけでは情報を適切にカバーしきれない現状がある。そこで登場するのがtabだ。感度の高いユーザ自身がキュレーターとなり、受け手のアクションにつながる情報をまとめていく。

その性質上、tabは場所がひしめく「都市」での展開が最適だ。同アプリは最初から海外展開を予定しており、海外の反応を見るためにニューヨーク(NY)に出向いたのが頓智ドットの井口尊仁氏。国内外のTechイベントで数々のピッチ経験を持つ井口氏だが、驚くことにNYを訪問するのは今回が初めてだったという。ご存知の通り、ここ1、2年でNYにも数多くのスタートアップが生まれている。その代表格がロケーションサービスの「Foursquare」だ。西側に精通した井口氏が見た東側はいまどうなっているのか 。

世界の縮図「ニューヨーク」とコワーキングスペース

東京は大都市といえど、住む人のほとんどは日本人でそこには秩序がある。一方、人種や文化のバリエーションなどから良い意味でよりカオスなのがNYだ。NYは「世界の縮図」だと話す井口氏。ユダヤの僧侶しかいないエリアがあるかと思えば、少し先のブロックには若い黒人のDJたちがたむろしている。ニューヨークの主要交通網である地下鉄では、一駅ごとに住む人種が違う。

西海岸とは全然違いますね。人間がメチャ多くて多様性もある。密集しているんだけど、でもお互いにリスペクトし合っていて良い意味で距離を保っている感じがある。西海岸のノリで行ってみたら、そこはSTAR WARSの酒場の世界でした。宇宙酒場に色んなやつがいる感じ(笑)。グチャグチャなんだけど、距離感をとって上手くやっているというか。

NYのスタートアップが集まる地域は、Chelsee、Sohoといったエリア。東京より若干規模が大きいものの、地下鉄や自転車で移動でき、感覚的には渋谷、青山、六本木くらいの距離感にそれぞれコミュニティがあるイメージだ。またNYにはコワーキングスペースも多い。TheNextWebによる「NYで最もクールなコワーキングスペース」には、「General Assembly」、「New Work City」、「We Work Labs」、「Projective Space」、「Dogpatch Labs」が挙げられている。今回井口氏が訪問したのは、「General Assembly」、「New Work City」、「We Work Labs」の3つ。これらのコワーキングスペースには種類、歴史、キャパなどそれぞれに特徴があるという。

We Work Labsは規模が大きく、マンハッタンに複数のスペースを持つ。New Work Cityは規模こそ小さいものの、オープンから5年と歴史が長い。中でも井口氏が特に惹かれたのがGeneral Assembly。このコワーキングスペースは、2011年10月頃に始まった政治運動“Occupy Wall Street”(ウオールストリートを占拠)の活動を支援している。アメリカの根本的な問題である貧困の差をなくすことを目的とするムーヴメントだ。Wall Streetで座り込みや寝泊まりしてデモ運動をしたり、ノウハウ共有のために自由大学を開催したり。またUSTやTwitterなど先端のITサービスもフルに活用しているという。NYではITサービスが政治活動に一役買い、彼らの活動をサポートしているのだ。

その場にいた僕もOccupy Wall Streetのデモに参加しました。アメリカは持ってる者と持たない者の差が大きい。この活動に参加するのは国民の99%に入るマジョリティーな人たち。残り1%がWall Streetで大きいお金を動かしインテリジェンスを握っている一部の人間。それは本来みんなでシェアすべきだ、という考え方のもと活動をしています。そして活動のツールとして使われたのが、Tumblr、Twitter、Facebookといったサービスだったそうです。

Occupy Wall Streetの根本にある考えは、アメリカという国そのものが象徴である「自由」。従来の決められた働き方ではなく、個々人が選んだ形で自由に働くことを可能にするコワーキングスペースの目的にも共通するものがある。コワーキングスペース、そしてそこに入るスタートアップがOWSのような政治活動を支援することは自然なことなのかもしれない、と井口氏はいう。

マーケティング思考など、NYのスタートアップにみられる特徴

NYは、メディアやファッションブランドなどが多いことで知られる街。そして何より多様多種な人種が密集している。密度が高いのは人だけに限らず、レストランやクラブなどのお店もひしめき、毎夜のようにイベントが繰り広げられる。そんなNYという街の特徴は、そこで生まれるスタートアップの種類にどのように影響しているのか。

モジュール型のサンフランシスコ、NYは入り口から出口まで
サンフランシスコのスタートアップはモジュール型だと話す井口氏。決済だけやる、集客だけやる、女の子に美味しいカカオを届けるといった具合に細かくセグメントされている。それぞれの領域に鬼のようにプレーヤーが存在し、モジュール同士がつながることでスタートアップの塊ができていく。一方のNYは、ひとつのスタートアップが入り口から出口まで全てまとめてやることが多い。

デザイン雑貨やインテリアを販売するコマースの「Fab.com」がいい例。コマースのAからZまで全て自分たちでやってますよね。キュレーション兼コマースの「Fancy」だってそう。また「Tumblr」もコンテンツ流通から課金まで自分たちでやって一つの生態系をつくろうとしている。ロケーションサービスの「Foursquare」も、ショップへのサポートからPRツールまで全て自分たちでつくって提供しています。

これは恐らく金融やメディアなど確固としたインダストリーが確立しており、それらのプレイヤーたちとのアライアンスやビジネスアセットをフル活用できるというNYの地政学的な強さが寄与しているのではないか?と井口氏は分析する。

マーケティング思考なNYのスタートアップ
こんなのがあったらいいね、という発想でテクノロジーをベースに考えるシリコンバレーのスタートアップ。一方NYではマーケティング思考が強いという。イケていたり目立っているサービスは、NYの強みであるメディア的要素を何かしら持っていて、さらにデザイン力もある。そして何よりマーケティング思考であるため、しっかりしたビジネスプランを持っている。

こんな風にマーケティングを行うことでこういう結果を出す。それを踏まえて、いつまでにこれくらいでエグジットするという具体的なプランが描かれている。これはもしかすると、NYのスタートアップの人材の多くが、一度は別の企業で働いた社会経験やキャリアを持つ人たちだからかもしれません。

今回NYで話をしたスタートアップの中でも、日本人女性起業家のRie Yanoさんと彼女のBabyである「Material Wrld」は特に素晴らしかったと話す井口氏。以前にTechDollでも紹介したMaterial Wrldは、セレブを含む人のクロゼットをマーケットプレイスにしようというもの。テイストメーカー、キュレーターの巻き込み方が戦略的できちんと考え抜かれている印象を受けたという。ちなみにMaterial Wlrdは女性2人がファウンダーだ。

仮説の立て方と、反応や数字を踏まえた組み立て方がクレバーだなと感じました。話を聞けば聞くほど納得感があるというか。

ニューヨークで注目のロケーション系サービス

人やお店が密集し、パーティなどのイベントが多いNYでは位置情報サービスが当たり前のように使われている。日本も渋谷駅などIT企業が集まるエリアではFoursuareの駅チェックインが多いなどと言われているが、NYでは普通のOLなどが日常的にロケーションサービスを使っている。

もし彼女たちにFoursquareの使い方を教えてって聞いたら、なんで知らないの?って驚かれるくらいに普及しています。むかし僕たちも、なんで人がTwitterやFacebookをやるのかな?って首を傾げていた時代があったと思うんですが、どちらのサービスも今では当たり前になっていますよね。きっとNYではFoursquareも同じ感じなんだと思います。

—「Zaarly」
ロケーションを使ったサービスで一目置かれているスタートアップが「Zaarly」。仕事をしてほしい人と、仕事がほしい人をモバイルアプリでマッチングする。例えば、ゲームのテスター募集、ハンガーの片付け、コーヒーを買ってくるなど。ロゴをつくるというようなオンラインだけで完結する手伝いではなく、リアルに会ったり場所に出向く手伝いが特徴だ。Zaarlyを使うことで人がリアルにつながり、さらには仕事が生まれることで人々の生活が変わる。中にはこのサービスだけで生計を立てているような人もいるそうで、雇用主がいてオフィスに通うという従来の働き方を流動化している。

「Airbnb」
Airbnb」も生活を変えるという意味で画期的だと話す井口氏。今回のNY滞在はずっとAirbnbを使ったという。NY滞在最終日に泊まったのは、アーティストで大学講師、シングルマザーでゲイの旦那が2人いるという女性の家のロフト。多くの人が密集するNYだからこそ、マッチングの成功体験が早くに生まれ、それが継続利用につながるのかもしれない。

1日数千円とはいえ、空いたスペースを有効活用することで新たな収入が生まれ、普段出会えないような人たちと交流する機会も生まれる。Airbnbを立ち上げると、位置情報で現在地付近で泊まれる場所がスグわかってすごく便利です。

「Square」
また決済系で普及し、期待を集めているのが「Square」だ。ものの10分で、個人が簡単にカード決済のストア口座を持ててしまう。任天堂好きの若者が、古いゲームを売るために使うこともできるし、フリーマーケットなどで活用することも可能だ。Squareを使うことで色々なところで売買、ビジネスチャンスが生まれる。

Squareのアプリを立ち上げると、店舗などを含むSquareで決済できる場所がわかるようになっています。レシートにも位置情報が印字されますし。生活を大きく変えるという意味で、Squareもかなり期待されているスタートアップという印象を受けました。

ニューヨークを選ぶ理由

NYといえば、マイケル・ブルームバーグ市長の存在は外せない。彼がITとエコロジーに注力していることは有名だ。これらの分野に予算を割くことはもちろんのこと、NY市がガチのハッカソンを主催していたり、時には一緒に記者会見を開くなど広報的支援も行う。スタートアップにとってNYがいかに素晴らしい場所かをアピールする動画なども用意されている。

Made in New York from NASDAQ on Vimeo.

インキュベーションはすごく盛んです。それぞれに売りがあってバラエティもある。ファンドの規模が違うから統計的には西海岸からお金が入っているところが多いみたいですが、非常に活発なのでシードラウンドで頑張る分にはNYはありだと思います。でもエコシステムは出来上がっているしNYだけでも成立するでしょう。メディアもすごくあるしね。

そして都市そのものが壮大なベータテスターの街でしょ。人種も文化もバラエティがあるからテストに向いてるんです。それにロケーションベースがあそこまで触れる都市って他にない。AirbnbやSquareなんかがガンガン使われていて、そうするとその上にビジネスが生まれていく。

tabの海外での手応えを確認するために訪れたNY。今回のインタビューで井口氏に語ってもらった内容からも、tabとNYという街の親和性が高いことは容易に想像がつく。文化、言語、人種が豊富で、かつメディアも多い。

東京に10年住んでいたって全部わかりきった気にはならないですよね。もっと混沌としているNYなら尚更そうで、だからこそ、そこを補完するメディアが必要。また、感度が高くロケーションメディアに慣れていて、さらにはセンスが良いというキュレーションに最適な人間もたくさんいる。

遠からず英語版がリリースされるtabだが、リリース後のNYでの反響は気になるところ。ロケーションサービス、メディア、飲食系などを展開する日本のスタートアップは、数年先の東京を下見する感覚でNYを訪れてみると良いかもしれない。