なぜ世界を前提としたプロダクトづくりがスタートアップにとって大切なのか、その理由と3つのアドバイス

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日本のスタートアップは世界を前提としたプロダクト開発をする必要があるのだろうか?

もちろん答えはそのスタートアップのモデルや到達したい場所による。しかし「世界展開」は決してなんとなく言われているだけのことではない。

ブランドン・K・ヒル氏はアジアを中心としたクロスカルチャーのブランディングおよびマーケティングを提供するコンサルティングファーム「btrax」の創業者兼CEO。

北海道に生まれ、サンフランシスコ州立大学在学時からウェブデザインやプログラマとして活躍、現在はbtraxが主催するSF New Tech Japan Nightなどの運営を通じて国内スタートアップの海外進出を支援している。

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本稿ではブランドン氏がMovida Schoolで起業家たちに語った、サービスを考える上で必要な世界展開の視点を次の4つに整理してお伝えする。

1:最初から世界を視野に入れたサービスづくりを考える理由
2:プロダクトを絞り込むことで高いユーザー体験を生み出す
3:マーケットによって異なるニーズの違いを理解する
4:「国内生産、海外展開」のチーム作り

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最初から世界を視野に入れたサービスづくりを考える理由

もしかしたらここに疑問を持っている起業家もいるかもしれないが、ブランドン氏はやはり「数の限界」を指摘していた。

「日本のITベンチャーとシリコンバレー等を中心とする世界的なスタートアップの違いはプロダクト構成にあります。当然、ひとつの事業にフォーカスした方が圧倒的に強い。 人やカネ、ノウハウといったリソースを集中的に投入できるからです。 絞って成功すれば大きな収益も大型株式公開も見えてくる」。

facebookにTwitter、はたまた最近100億ドルの評価を得たDropboxにAirbnbといった世界的なスタートアップはいずれもプロダクトを絞っている。

「一方、国内だけで進めると、会社がある程度の規模になったとき、どうしても人口の限界があるので、次の事業の柱を立てなければスケールが厳しくなってしまう。この例は楽天やサイバーエージェント、DeNAなどずらりと並ぶ」。

ブランドン氏によれば、最初からグローバルに展開を考えた場合、対象となるユーザー数はざっくりと日本だけを考えた場合に比較して10倍の差が生まれるのだそうだ。つまり世界展開には「なんとなくいいな」ではなく明確な理由がある。

では具体的にどうやったら世界に通用するプロダクトを展開できるのだろうか。以下にブランドン氏のアドバイスを続けよう。

プロダクトを絞り込むことで高いユーザー体験を生み出す

facebookやEvernote、TwitterにInstagram。全て日本のものじゃないけど使える。なぜ、そういう違いが日本のプロダクトと海外のものに生まれるのか。それはやはりひとつのプロダクトにフォーカスしているからだ。品質の追求にどうしても差が生まれる。

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「例えば私はお店探しにサンフランシスコでYelpを使うのですが、価格帯や席の空き具合、人数を指定するとすぐに該当店舗が出てきます」。

しかし、国内にはこの体験性を再現してくれるプロダクトはないという。市場が小さく、広告などのマネタイズを優先させるあまり、ユーザー体験を犠牲にしている可能性があるというのだ。こうなるとさらに海外には通用しなくなってしまう。

マーケットによって異なるニーズの違いを理解する

マーケットにあったプロダクトを展開しなければ他の地域で使ってもらうことは困難になる。例えばメッセージングであれば、アメリカにいるときはLINEではなくより多くの友人が使っているWhatsAppを使うし、中国であればWeChat、韓国であればカカオといった具合の話だ。

「マーケット毎にニーズが違うんですね。例えばアメリカでは電話というのはそもそも定額なんです。だから無料通話を押してもニーズはありません。一方で日本では1分いくら、という価格設定ですから無料通話を欲しいと思う人もいるでしょう」。

ローカルルールの熟知は当然の話だということがよくわかる。

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「国内生産、海外展開」のチーム作り

ブランドン氏が今回の話でもっとも難しいポイントとして挙げたのがチームビルディングについてだ。彼の話を整理しよう。

シリコンバレーの技術者は日本の4倍かかる

まず、シリコンバレーで最高の技術者を採用する、というのは馬鹿げた話なのだそうだ。理由は単純、既に大手に取られてるからだ。さらに技術者の価格高騰も優秀な人材に手を出せない理由のひとつになる。ブランドン氏の話には、初任給で1500万円なんていう数字も挙げられていた。

「それぐらい出さないと大学卒業して数年の経験しかない人でも雇えないんです。数千万から数億円という数字もあるんです」。

国内生産、海外展開の事例

一点、日本のスタートアップが有利になる方法があるという。それが「国内生産、海外展開」の方法だ。日本のチーム(特に開発)はコストがシリコンバレーに比べて安い。給料は倍、それなのに働く時間は半分。結局コストとしては4倍かかることになる。

日本にものづくりの拠点を持ち、資金はシリコンバレーで調達する。このスタイルに成功しているのがgengoやTokyoOtakuModeなどだ。ボードメンバーが世界で通用する人材を集めているのも共通している。

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最初から世界に向けて作ればいい

また、日本でうまくいった事業を世界展開する場合、リソースの配分が難しい。海外展開したとしてもすぐに成功するわけではないし、多くの場合は結局国内の事業が優先となり、いつの間にか海外向けのサービスが消えてしまうことにもなりかねない。

これに対するブランドン氏のアドバイスは「最初から海外向けに作ること」とシンプルだ。

「海外ユーザーに使ってもらうことを最優先に考えて、結果的に日本のユーザーもつけばよかったね、という展開を目指した方がいい」。

この判断はなかなかできるものではないが、自身のプロダクト、マーケット、そしてなによりどの高みを目指すのかで、決めるべきことなのだろう。

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