SmartNews、未来の姿

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2014.8.18

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8月8日、36億円という国内ネット系スタートアップにとって破格の規模の資金調達が発表された。この話題は国内はもとより、Re/codeが「Exclusive」として報じVentureBeatGigaOm(TechCrunchは日本語版のみ)といったネット系メジャーブログが続くなど、海外での注目度が高かったことも印象的だった。

渦中のサービスとはもちろん、スマートニュースが運営するニュースアプリ「SmartNews」だ。8月8日時点で400万ダウンロード、同様のニュースアプリを展開するGunosy(グノシー)と激しい鍔迫り合いを繰り広げていることで、ご存知の方も多いはずだ。

ところでこういった大型調達やCM合戦などの派手な話題が先行するこのニュースアプリ界隈だが、私にはひとつ大きな疑問があった。ーー率直に言えば「ニュースアプリにどれだけの価値があるのだろうか?」というものになる。SmartNewsはこの先、一体何になるのだろうか?

丁度、今回の調達をタイミングに、新たに6月から代表取締役会長兼共同CEOに就任した鈴木健氏およびヴァイス・プレジデント財務担当の堅田航平氏、執行役員の藤村厚夫氏らにインタビューする機会を頂いたので、この疑問をいくつかの設問に分けてぶつけてみることにした。本稿ではそのインタビューを交え、SmartNewsの未来像に迫ってみたいと思う。

アグリゲーション?キュレーション?ポータル?

ニュースの「おまとめ」サービスはおおよそ三つのタイプに整理することができる。ただRSSなどをまとめただけのアグリゲーター、何らかの方法で「編集」したキュレーション、配信に出来る限り特化したポータルやディストリビューターがそれにあたる。

まず、ここ最近のアグリゲーションの状況だが、iPadなどのスマートデバイスでのインターフェースが高く評価されたPulseはLinkedInに買収されている。元フレンドスター創業者が運用しているソーシャルニュースのNuzzelは数年の準備期間の後、静かなスタートを切ったがその後に話題を聞くことは少ない。噂によれば日本の状況をみてなのか、国内進出を狙っているという話を聞いたことがあるぐらいだ。

Flipboard

唯一気を吐いているのがFlipboardかもしれない。オンライン・ニュースをレコメンドするエンジンの「Zite」を紆余曲折の後、買収したのは2013年3月のこと。ユーザー数については直近の情報は少ないが、2013年9月時点で8500万人という報道もある。

アグリゲーションサービスの状況(CrunchBaseなどを参照)

次にキュレーションを眺めてみる。この分野はホットだ。

主要プレーヤーとしてはまず政治関連のまとめから始まったHuffington Post、テクノロジー系ニュースブログを元に複数メディアを統合して「経済情報まとめ」のポジションを確固たるものにしつつあるBusiness Insider(以下、BI)、そして直近での5000万ドル調達が話題になったBuzzFeed、この三つだ。アグリゲーターとの違いはやはり「人の手によるキュレーション(おまとめ)」と言えるだろう。

特にBIの素早い引用記事は特徴的だ。例えば、先日話題になったAppleによるBeats買収の話題は、第一報こそFinancial Times(以下、FT)だったが、その直後に引用記事としてBIが取り上げ、課金ロックがかかっているFTよりも大きくバイラルしていた。(ちなみに私も本件をピックアップしたのはBIの記事だった)

ポータルはニュース配信のみだけでなく、様々なコンテンツも複合的に配信するのがアグリゲーターとの差異と言える。転載が基本で記事に何か手を加えたりということはなく、例えばYahoo!ニュースの運営について詳しいインタビュー記事があったが、(ニュースのみで)月間80億ページビュー、編集人25人が24時間態勢で150社(媒体数は250弱)の情報提供契約元から1日に3500本から4000本の記事配信を受けているという。

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SmartNewsのダウンロード状況

SmartNewsは1日1000本の記事配信:編集体制はどうなる?

前置きが長くなった。SmartNewsは一体どこにカテゴライズされるものなのだろうか?(太字の質問は全て筆者、文中敬称略)

ーー今日は、SmartNewsがどの方向に向かうのか、特に独自性をどう作っていくのかという方向性についてお話お伺いしたいと思っています。鈴木さんは福岡のイベントでポータル的な方向性があると話をされていました。

鈴木:ポータルのような方向性も最低限はするけど、ということであってポータルを指向している、という話ではありませんよ。

ーー世の中を見渡したとき、ZiteやPulseといったアグリゲーションはFlipboardなどに集約される動きをみせています。またSmartNewsに類似したNuzzelのようなソーシャルニュースのようなソリューションはそこまで世界的に話題を聞くことがありません。このままSmartNewsがただのアグリゲーターであり続けるイメージがあまり持てないのですが。独自の編集を持つというような考えは?

鈴木:基本的にアグリゲーターとして積極的にコンテンツをつくることは考えていません。唯一、例外としてオリジナルのコンテンツとして「地球くん」というものを用意していますが、方向性としてはアグリゲーターであり、原理原則はよいコンテンツを探す、という方針ですね。

ーー例えばドイツではグーグルなど数社に対してニュース配信の収益支払に関する訴訟問題が発生しています。今後、このモデルがもし大きな収益源になった際、媒体社が配信を止めて独自に立上げる可能性はないとも限りません。独自性がなければそういった動きへの対応が難しくなるのではと思いますが。

鈴木:世界レベルでのお話としてヨーロッパというよりはドイツでの事案ですが、これは法律が適用されたら従うしかないです。日本や米国では発生する可能性は低いと考えています。

ーーでは人力の編集部は持たない?

鈴木:持たないですね。

藤村:リパッケージのような編集性はあると考えています。チャンネルプラスのような媒体をひとまとめにした、アプリチャンネルやワールドカップ時に設定したチャンネルの考え方ですね。

ーー切り口やテーマ性をどうお考えですか。

藤村:テーマ性という視点では季節や社会的関心などに応じて世の中の人が知りたい話題に対応できれば、と考えています。今は大きめの話題は計画的に準備してますが、機動的な考えは持ってもいいかなと思っています。編成的な、コンテンツがあるべきという議論をすべき、というチームはいた方がいいと思いますが、現時点でそのための特別なチームはいません。

ちょっと意外だったのは人力による編集体制を可能性の範囲にもあまり置こうとしていなかった点だ。Flipboardですら買収したZiteとCNNの編集チームと共同で「人手とアルゴリズム」による編集体制を作っているという話題もある。オリジナルの記事を作成することはなくても、編集方法に独自性が出れば、差別化は十分はかることができる。

その点をもう少し掘り下げてみよう。

ーー今ってコンテンツの配信本数は何本ぐらいなのですか?

藤村:現在は一日おおよそ1000本ぐらいをアグリゲーションしてますね。ただ、コンテンツが沢山あればいいという単純な方向性ではありません。アグリゲーションして集めてくる部分とアルゴリズムで選別する部分を期待されていますから。

ー一社会的な話題、例えばゴシップのようなものと公共性の高い事件や災害などの話題のバランスが大切になると思います。例えばPV至上主義のような考え方になると、これは世界的な傾向ですが、ネコちゃんがニュースサイトに出てくるようになります。こういった部分の調整はどのように考えておられますか?

鈴木:確かにPV至上主義になると煽動的になって上質な記事が出てこなくなりますよね。それはちょうど今、アルゴリズムでなんとかしたいというのが考え方ているところです。人間の手で排除するのではなく、アルゴリズムによるアプローチが大切なのです。どういう記事がでればいいか、という判断はもちろん人間による議論があります。しかしそれをそのまま人手で動かすのではなく、その本質をアルゴリズムに落とし込む、ということですね。

差別化や独自性についてはもう一点、創業時からのエンジェルとして参加している川田尚吾氏(ディー・エヌ・エー共同創業者)がインタビュー時にこのようなコメントを残してくれた。

「インターネットに携わり始めたのが90年代とかそういう時期ですので、検索エンジンの歴史はリアルタイムで眺めてきました。ヤフーがディレクトリ検索を作り、そのタイミングで多くのプレーヤーが生まれました。しかし残ったのはグーグルだけで、その理由は検索結果の質が突出して高かったからです。サービスにはある「ティッピングポイント」があってそれを越えると心地よさが提供できるんですね。SmartNewsは触った瞬間にそれを感じたのです」(川田氏)。

SmartNewsの検索性、レコメンド精度の高さとUIの素晴らしさは各所で評価されている通りだ。川田氏というベテランの直感を持ってして感じる優位性は、当然差別化につながるだろう。

ーー現在、SmartNewsは主要な新聞(読売、朝日、毎日、産経、日経)全てをカバーできていませんが、今後の計画は。

藤村:全部入れたい、というのが考えです。どんどん交渉していきますし、近くニュースとして発表できるものもありますよ。

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SmartNewsのビジネス:広告以外の可能性について

ーー質問をビジネス方面に変えます。ここまでの話であればスマートニュースはやはりあくまでプラットフォームとしてこの先の成長を模索することになりそうです。現在スマートニュース社としては新たなネイティブ広告ネットワーク「スマートアド(※仮称)」のリリースがありました。

鈴木:まだ正式に公開しているものではないのですが、収益の一部を還元して媒体社に渡すというアイデアはいくつかあります。現在議論中です。

ーー私、実は以前にRSS広告という「インフィード広告」の運用に携わったことがあるのですが、とにかく儲からないんですよね。媒体社のコンテンツを預かるわけですからそのバックフィーは50%、代理店とレップに支払ったら15%ぐらいしか手元に残らなかった。結果的にとにかくボリュームを増やさざるをえない。まあ通常のアドネットワークと似たような理屈です。

藤村:確かに媒体社のコンテンツを預かれば戻す比率も高くなります。ただ、インベントリ(Imp在庫)の考え方でちょっと他社と違うのは、自分たちで運用している部分と媒体社さんで運用している部分が分かれてるんですね。例えばチャンネルプラスのように媒体社専用に用意しているものや、こちら側でコンテンツを表示している場所によってレートが変わるようにして、収益が適切に配分される仕組みを目指していますよ。

ーー広告以外のモデルの可能性は?例えばBusiness Insiderではインテリジェンス、BuzzFeedなどの調査報道のような動きがあります。

鈴木:ごく少数に対しては定額のサブスクリプションも可能でしょうし、調査報道などの考え方もあります。クラウドファンディングによる調査報道は依頼元がわかってしまうという点で課題もありますが、そういった方法もあるかもしれません。ただ、BIのような単なるインテリジェンスを持つような考えはありません。

さて、いかがだっただろうか。

大きく編集方針(コンテンツ)と事業方針(ビジネス)について現状の話を聞き、そこからSmartNewsがどの方向に向かっているかを考えてみた。少しだけ浮かんできたのは、ソーシャルメディアというプラットフォーム上の集合知によって「あくまでテクノロジーベース」のニュースメディアのようなものを生み出そうする姿だったかもしれない。ただ世界的にも人力編集が主戦場のキュレーションの流れにおいて、これはあまり例がない。

例えば東洋経済オンラインの前編集長、佐々木氏は著書の中でこのような記述をしている

「ここ最近、スマホのアプリとして、フリップボード、グノシー、スマートニュースといった、個々人の属性にあったニュースを自動的に選んでくれるキュレーションサービスが人気を博していますが、こうした人間を介さないシステムだけで、読者が満足する日は永遠にこないでしょう」。(佐々木紀彦著「5年後、メディアは稼げるか」東洋経済新報社、2013年、p.156)

奇しくもこの発言をしたご本人がニュースキュレーションの一角を担う「NewsPicks」へ移籍したことは記憶に新しい。確かに人力だ。

今回の取材で気がついた点はこのプロダクトを「ニュースキュレーション」の文脈だけで捉えない方がよさそうだ、ということかもしれない。もっとGoogle的な、新たな情報マッチングの仕組みとして捉え、現時点で扱っているものがたまたまニュースであるという考え方であれば、もちろん人力の編集部なんてものはいらない。あくまで私の妄想だが。

結果的にFlipboardのようなものになるのか、全く別の姿をみせるのか。SmartNewsの未来像は大変興味深い。

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