四角大輔氏、松山太河氏、榊原健太郎氏—3人のサムライ投資家が考える、これからのインキュベーションのあり方 #SVS10

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左から:松山太河氏、四角大輔氏、榊原健太郎氏、矢澤麻里子氏(写真提供:サムライインキュベート)

本稿は、第10回サムライベンチャーサミットの取材の一部である。

アプリストアやユビキタスな環境のおかげで、オフィスに身を置かなくても仕事ができるようになったのは、何も起業家だけの特権ではない。活動する場を変えることで可能性が広がるのは、投資家にとっても同じことだ。

27日(土)、第10回サムライベンチャーサミット(SVS10)に設けられたこのセッションでは、従来からの概念を打ち破って、起業家への投資や支援を続ける3人の投資家の洞察が披露された。参加したパネリストは、

また、モデレータは、サムライインキュベートの矢澤麻里子氏が務めた。

起業家の選び方、投資の決め方

ベストセラー「自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと」の著者である四角大輔氏は、絢香、Superfly、Chemistry、平井堅といった有名アーティストを育て上げた元音楽プロデューサーだ。現在は、一年の約半分を日本、残りの半分をニュージーランドの森の中で暮らしていて、10月1日には、ニュージーランドでインキュベータを立ち上げる予定だ。

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四角大輔氏

日本とニュージーランドの、主に10代や20代の起業家に投資していきたい。イグジット戦略が見えづらいものの、クリエイティブな分野に投資していくという点で挑戦的な試みだと思う。

アーティストはトレーニングなどを経て歌はうまくなるけど、声質だけは生涯変わらない。僕は原石フェチなんだ。心の底から表現したいものが決まっているような…起業家にもアーティストにも、そんなタフさが欲しい。そういう人は、どんな壁にぶち当たっても、しなやかに乗り越えて行く。(四角氏)

日本や東南アジアで、ミクシィの元CTO衛藤バタラ氏らと共に、長年にわたりスタートアップ投資を続ける松山太河氏は、自身の投資ポリシーを次のように説明した。

松山太河氏
松山太河氏

起業家に必要な資質は、しなやかなタフさ、人が必要としているプロダクトが作れるセンス、リーダースキルを持っているか。投資を決める上では、起業家のプレゼンテーションを重要視し過ぎないようにし、彼らのプロダクトを見て判断するようにしている。プロダクトがまだ無い場合は、対面している人を見て判断することになるが、既に投資しているスタートアップの社長らがサービスをよく知っているので、彼らの意見もよく参考にしている。

社会に役に立つサービスを作る人に投資していきたいと考えている。起業家はただやみくもに、どんな投資家からでも投資を受けたいと願うのではなく、投資家の投資ポリシーやポートフォリオをよく見て、起業家が投資を受ける投資家を選んでほしい。(松山氏)

一方、イスラエルに進出を果たした榊原氏は、起業家にはリーダーシップが重要であることを強調した。

人の痛みがわかる人が好き。そして、失敗経験のある人に投資している。イスラエルの投資家を見ていても、彼らは投資を決める上で、起業家がリーダーシップを持っているかどうかをよく見ている。人が嫌がるような面倒なこと、人前で話すようなことを厭わず率先してやるかどうかが重要。(榊原氏)

起業家とアーティストの育成に、共通する点しない点

スタートトゥデイの創業者である前澤友作社長は以前、スタートアップをバンドにたとえたことでよく知られる。スタートアップのピッチやロードショーはオーディションにたとえられ、創業メンバーはバンドメンバーに例えられる。起業家とアーティスト両方の育成を経験している四角氏は、この点について、どう感じているのだろうか?

音楽プロデューサーを始めた当初は、ひたすら送られて来たデモテープを聴いたり、ライブハウスを回ったりしていたが効率が悪い。ある時期から、自分の好みをわかっている、地方のライブハウスのブッキングマネージャーや、イベントマネージャーから推薦された人、すなわち、スクリーニングされた情報を見るようになった。いずれ、アーティストのオーディションの概念を、起業家発掘にも取り入れたいと考えている。

ただ、アーティストにはリーダーシップは求められない。人間とは本来いびつなもので、バランスが取れてなければ取れてないほど、個性が際立ってアーティストとして評価される。したがって、私は日本でもニュージーランドでもエンジェルとして投資しているが、投資先の起業家のリーダーシップという点では皆無。敢えてそういうところに投資している。

アーティストの世界には、個人にはリーダーシップがなくてもバンドを組むという点がある。リーダーシップは無くても歌だけに集中できる環境を作って上げる。そして、メンバー同士でいかに役割が被らないようにするか。役割が被るとバンドはうまくいかない。(四角氏)

イスラエルとニュージーランド——2つの起業大国

写真提供:鳥居佑輝氏
写真提供:East Ventures 鳥居佑輝氏

イスラエルに進出した榊原氏と、ニュージーランドでインキュベーションを展開する四角氏。二人とも衝動に駆られて突然日本を飛び出したというが、地理的条件が全く異なるこれらの2つの国には、共通点があるのだそうだ。

イスラエルは、世界銀行の発表で、世界で一番起業がしやすい国。一方、ニュージーランドは経済誌 Forbes が発表している中で最も起業しやすい国で、政府が積極的に起業を支援している。Icehouse というインキュベータがあり、(Paypal 創業者の)Peter Thiel も最近、ニュージーランドにハマっている。ウェブを使えば、株式会社を10分間で作れる話も有名だ。(中略)自分は今後、日本とニュージーランドで、世界問題を解決する起業家に投資していきたい。(四角氏)

ニュージーランド人もイスラエル人も、日本人のことが好き。彼らは基本的に日本人に片思いだが、そもそも日本人が少ないので、自分が行くとすぐに受け入れられた。起業家はぜひイスラエルに来ることを考えてほしい。ニュージーランドは400万人、イスラエルは800万人、人口規模的にもこれら2つの国は非常に似ている。(榊原氏)

世界には、シリコンバレー以外にもオルタナティブなスタートアップ・ハブが増えつつある。その多くは特色豊かで、起業家は自分の嗜好や求める環境に合った地で、今すぐスタートアップを始めることができる。強い円と航空網の整備によって、世界の随所で日本人観光客を見かけるようになった今日だが、同様に世界のあらゆるスタートアップ・ハブで、日本人起業家が奮闘する姿を見られるようになる日が楽しみだ。

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