ロボカップの役割と歴史、そしてロボット・ビジネスは今、どの段階なのだろうか

SHARE:

ロボカップをご存じだろうか。

サーボや配線が剥き出しのロボットたちがサッカーボールを蹴って(もしくは別の競技もあったかもしれないが)試合をしている様子を何かで見かけたことがあるかもしれない。このイベントがまた今年、7月17日から中国で開催されるという。

ただ正直言うと、この取り組みがどういうものなのかあまりよくわかっていなかった。いわゆるアカデミックなイメージと、そもそもロボットが実生活の中で活躍する時期というのはまだ先だと考えていたのも大きい。

しかし今、時代は大きく動こうとしている。特にソフトバンクが発表したPepperのインパクトは大きい。本来は数百万単位でかかるはずの筐体を20万円程の価格で世に出したという事実は、かつてのモデム無料配布を思い起こさせる。

ロボットで一体何が変わるのだろうか?そして今、事業を仕掛ける側の私たちはどのフェーズにいるのだろうか。

国内のロボット開発に携わるフラワー・ロボティクスがGlobal Partnerとしてこのイベントのスポンサードするという発表会があったので、勉強も兼ねて会場に足を運んでみた。

ロボカップの歴史とビジョン

ロボカップが始まったのは意外と古く、1997年からなのだそうだ。当時、ロボットの研究というのは各国の研究者が個別に進めているという状況だったそうだ。

ロボカップ国際委員会の元プレジデントで、大阪大学教授の浅田稔氏は、研究者たちの足並みを揃えるためには各自が「同じ課題」を追いかけることが重要であり、最初の標準課題として提起されたのが人工知能(AI)との融合だったと当時の経緯を説明していた。

ロボカップには2050年までにロボットが人間のW杯優勝チームに勝利する、というものがあるそうだ。1997年に始まった当時、世界で40ほどだった参加チームは現在400にまで膨らんでいる。

「世界中が呼応してくれて期待以上に(参加チームが)増えた。また、複数のロボット研究での論文数が増えたのもロボカップがインパクトを与えた実例」(浅田氏)。

また、コンピューターを使ったシミュレーションに携わった経緯からロボカップに参加し、現在5代目のプレジデントを務める産業技術総合研究所の野田五十樹氏は実際の産業界にも影響を与えた例としていくつかの「ロボット実例」を挙げる。

「Quinceは福島で発生した原発事故時に、現場撮影に成功した最初の機体です。千葉工業大学を中心にしたチームで、これはロボカップで培われた経験を生かしています。

また、同様にKIVAはAmazonの流通システムとして買収された会社のロボットで、アルデバランのNAOはソフトバンクが出したPepperの技術に生かされました。アルデバランは創設時からロボカップに機体を提供してくれていた企業なんです」(野田氏)。

このようにロボット研究および実際の産業界に一定の影響を与えた取り組みが、このロボカップだった、というわけだ。

現在はサッカーだけでなく、家庭やオフィスを対象にしたもの、生産現場やロジスティクスなど、実際にどう使われるかという視点でロボカップの対象も拡大しているという。

ロボット開発におけるデザインの重要性

今回の発表会は冒頭の説明の通り、フラワー・ロボティクスがGlobal Partnerとしてこのイベントのスポンサードするという発表会だった。彼らは新たにロボカップに対して「RoboCup Design Award」という賞を新設するという。

この理由がなかなか興味深い。フラワー・ロボティクス代表取締役の松井龍哉氏はロボットにおけるデザインの位置づけについて「接点」と表現する。

「ロボットのデザインというものは、エンジニアリングと日常生活の接点になります。(開発に携わる人には)最初に考えるべきはこの接点であるということを意識してもらいたい」(野田氏)。

もし近い将来人型のロボットと一緒に生活するとして、ターミネーターに出てきたような剥き出しのT-800型だったらどうだろうか?

私は夜眠れなくなると思う。

研究段階ではむき出しでも構わないかもしれない。大きさも素材も音も、あくまで論文のためのものだ。しかし実生活ではそうはいかない。たとえば今回新設されるデザイン賞にはメンテナンスのしやすさも評価される。実社会で壊れることを想定したデザインは、私たちがよく考えるUX(ユーザー体験)に近い考え方だ。

「ロボカップのデザインアワードではレギュレーションの中できっちりと設計されているか、思想があるか、全体のチームのコンセプトが現れているか、という点を評価したい」(松井氏)。

ちなみにフラワー・ロボティクス社は2001年の創業で、ヒューマノイドロボットのPINOで知っている方もいるかもしれない。現在は新たに「パタン」という新型のロボを開発中で、駆動部分と上に載せる「サービス」ユニットを分割するという一風変わった展開を考えているという。

足とソフトウェアのSDKを共通プラットフォームとし、サービスユニット(例えば空気清浄機とか)はサードパーティーとの協業にゆだねるというのはあまり例を見たことがない。この新ロボットについては夏頃にまた発表会を実施するということだった。

社会におけるロボットの役割を「考える」フェーズ

最近ではネット系の分野でもIoT文脈に乗ってハードウェアが語られることが多くなった。ただ、ドローンにしろ、ロボットにしろ、まず出てくるのは「どう使うの?」という素朴な疑問だ。中には醒めた目で見てる人もいるかもしれない。

ただ、こういうフロンティアで禁句なのは「できない、必要ない」というネガティブワードだったりする。浅田氏のコメントが私的にしっくりきた。

「(Pepperはまともに販売したら)数百万円から1000万円レベル。でも、これぐらいのことをしないと世の中には広がっていかない。一番最初に自動車が出来た当時、その機能は十分ではなかった。けれど社会が車の役割を認知することで受け入れられた。

Pepperもまた機能は十分ではないけれどまず出すことが重要。何が意味を持つのか、社会に何の価値をもたらすのか、それを一緒に考えることが大切。だからPepperは大きな試金石となる」(浅田氏)。

この話を聞いて数年前、同じようなチャンスがあったことを思い出す人もいるのではないだろうか。そう、スマートフォンシフトの時だ。あの時「誰も使わない」と反応した人々のなんと多かったことか。

今がもしそのタイミングだったとするならば、使い方を編み出した起業家が勝つことになる。ビジネスしかりサービスしかり。

もちろん今回も同じとはいかないかもしれない。パラダイムシフトは大なり小なりいつも発生しているのだ。その内どれをチャンスと捉え、ものにするのか。携わる起業家次第なのは言うまでもない。