顔写真1枚から3Dアバターを作成、臨場感に富んだコミュニケーションを実現するVRアプリ「EmbodyMe」がローンチ——インキュベイトファンドから9,000万円を調達

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Image credit: Paneo

昨年末から今年の年明けにかけて開かれたいくつかのデモデイの中で、一際気になっていたスタートアップがいた。VR スタートアップ、というよりは、アバターを作り出すスタートアップと形容した方が適当なような気もするが、「EmbodyMe」というサービスを提供する Paneo だ。同社は24日、VRアプリの EmbodyMe を SteamOculus Store で配信開始した。Oculus Rift、Oculus Touch、HTC Vive で無料で利用できる。

EmbodyMe は一枚の顔写真から自分そっくりのアバターを生成し、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を通して、他ユーザはインターネット越しに、あたかもその人と話しているかのような感覚でコミュニケーションができる VR アプリだ。Skype などでのコミュニケーションでは、動画や音声だけでは直接対面で話をする場合に比べ、ニュアンスやコンテキストが伝わりにくい場合がある。EmbodyMe では、オンラインでのコミュニケーションがリアルに比べ足りない部分をアバターを使って補い、必ずしも会って話す必要の無い環境を提供する。

この分野では、マイクロソフトなどが複数台の Kinect を使って人体を 3D キャプチャーし、リアルタイムレンダリングするようなしくみを開発しているが、スタジオが必要だったりするなど、その準備や環境は手軽なものとは言えない。Facebook も Oculus を使って同様の試みを行なっているが、実在感が得られにくかったり、作成に手間がかかったりしてしまう。

一方、EmbodyMe では顔写真から 3D モデルを容易に作成し、それをユーザの動作にあわせメタバースの中にリアルタイムに描き出すことができる。ユーザの話している姿、身体の動き、表情なども克明に再現されるのには驚きだ。ユーザの身体全体を実映像のまま 3D でとらえて送信するのではなく、アバターを使うという〝割り切り〟が導入の手軽さと遊びの要素をもたらした。当初は、Oculus Rift や HTC Vive を所有するゲームやエンタメ系ユーザをアーリーアダプタと位置づけ、EmbodyMe のユーザへ取り込んでいきたい考えだ。

今はまだ VR デバイスを誰もが持っている状況ではないし、VR 業界もこれからだんだん盛り上がっていくフェーズ。そこで、EmbodyMe からはユーザがアバター体験を動画出力できるようにした。

動画を Facebook や Twitter などに投稿してもらうことで、ユーザは VR デバイスを持っていない友人などにもアバター体験を共有することができ、ネットワーク効果が期待できる。(Paneo の CEO でエンジニアの吉田一星氏)

Image credit: Paneo

EmbodyMe は現在のところ無料だが、ビジネスモデルが確立できるかどうかの可能性について、吉田氏は大きな心配をしていないようだ。モバイルゲームに慣れた世代には、EmbodyMe 上でアバターが身につけるバーチャルアイテムを販売すれば、お金を払って買ってもらえるかもしれない。かつて世界を席巻した「Second Life」に大企業がこぞってバーチャル店舗を出店していたことから、メタバースの世界に広告を出稿してもらえる可能性も十分に考えられるだろう。

吉田氏は Paneo での当面の優先課題として、VR アプリのブラッシュアップと、サードパーティのデベロッパが EmbodyMe のアバター機能を使ったコンテンツやゲームを開発できるようにする SDK のリリースを挙げた。サードパーティのデベロッパからは既に多くの要望も寄せられているとのことで、2017年中の SDK 公開を目指したいとのことだ。

Paneo のチーム
Image credit: Paneo

Paneo の創業メンバーである吉田一星氏(CEO/エンジニア)、香島ユリ氏(共同創業者/デザイナー/モデラー)、田邉裕貴氏(エンジニア)はいずれもヤフーの出身で、以前は新規アプリの開発やデザインに従事していた。彼らが手がけたアプリは「怪人百面相(Face Stealer)」をはじめ、「なりきろいど(Avatar Phone)」では経済産業省の「Innovative Technologies 2015」に選出(いずれもアプリは既に配信停止)。また、吉田氏は学生時代に、ソーシャルメモサイトの開発で未踏IT人材発掘・育成事業に携わっている。彼らの軌跡を見てみると、優れた VR デバイスが世に出る何年も前から、ソーシャルネットワークとアバターという2つのコンセプトに一貫して取り組んで来た姿勢を伺い知ることができる。

Image credit: Paneo

VR を駆使したコミュニケーション環境が、いつの日か Skype や LINE のようなチャットアプリを凌駕する日は来るのだろうか。もちろんユースケースによってユーザはツールを使い分けることになるのだろうが、エンタープライズで言えば、シスコやアバイアなどが支配するテレカン・ソリューションの領域は、Paneo のようなしくみに進化するか、または Paneo のようなしくみによってリプレイスされるであろうことは想像に易い。

Paneo は2016年6月の設立。同社は今回の EmbodyMe ローンチとあわせ、インキュベイトファンドから9,000万円を資金調達していたことを明らかにした。来週には SVVR(Silicon Valley Virtual Reality)に出展するということなので、今後アメリカでの市場の反応も楽しみにしてみたい。

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