躍進するフランスのテック業界、さらに速くさらに遠くを目指す

by Chris O'Brien Chris O'Brien on 2019.6.15

VivaTech に登壇した Meero CEO の Thomas Rebaud 氏
Image credit: Viva Technology

AI 写真のスタートアップ Meero は、フランスのテックエコシステムが近年成し遂げたことの好例と言えるかもしれない。

2016年に設立された同社はすでにベンチャーキャピタルから6,340万米ドルを調達しており、その中には昨年夏の4,500万米ドルのラウンドも含まれている。直近のたった6か月間で400人を雇用し、同社の従業員は600人近くとなっているが、今年末までに1,200人にする目標を持っている。そして Meero は最近パリで開催された Viva Technology カンファレンスで際立った数少ない企業のうちの1つだ。このイベントは主にフランス大手企業のデジタルトランスフォーメーションに対する取り組みを中心として組織されたものである。

Meero の速度と軌道はフランスのテックを勢いづかせるエンジンの回転数を、少し上昇させるものだ。VivaTech のステージ上で共同設立者兼 CEO の Thomas Rebaud 氏は、Meero を国際的な企業にするという夢を常に抱いており、また従業員も大志を抱くよう強く促していると述べた。

同氏はこう述べた。

速く進みたいならば、まずやるべきことは「think big/大きく考える」というマインドセットをチームに持たせることです。目標が10では小さい、だから100を目指そうということを、人々に理解してもらう必要があります。

将来有望な起業家がより良い場所を求めて拠点を引き払っていた5年前のこの国にあっては、Meero の物語は希少だっただろう。しかし今や Meero は数多くあるサクセスストーリーの1つとなった。フランスにおける資金調達は増加しており、その中には今年の大規模な最終ステージのラウンドも含まれているが、これは長い間なかったものだ。人工知能における力量を同国は強く促進させているが、同時にブロックチェーンのような新しい技術も歓迎している。投資家たちはフランスに注目しており、ベンチャーキャピタルの資金調達ではイギリスに次いでヨーロッパ第2位となっている。

しかしこの転換を誇ることができている一方で、同国は中国のエコシステムの盛り上がりを受けて国際舞台でさらに緊迫した競争に直面している。また一方ではシリコンバレーのスタートアップらが莫大なラウンドで資金を調達し続け、さらに素早くスケールしている。そしてフランスは起業や国際的な人材を惹きつけることがやりやすくなるよう多くの改正を行ってきたが、他の多くの地域に比べると行政面ではまだ悪夢だと思われている。

しかし、それでも勢いは削がれていない。それどころか、同国は眼前の困難に立ち向かう自信が育ちつつあるようだ。VivaTech において、同国のスタートアップ応援団長も務める大統領 Emmanuel Macron 氏は、フランスの起業家層のポテンシャルを熱く語った。

VivaTech 初日に現れた Macron 氏はこう宣言した。

4年前、我が国はスタートアップ設立においてすでに西ヨーロッパでナンバーワンでしたが、スケールすることについて問題を抱えていました。今や、資金額はどんどん大きくなっています。エコシステムを加速させるものがあるのです。

VC ファンディングの高まり

過去5年間、フランスはスタートアップのエコシステムを促進すべく働いてきた。フランス人はどの程度が政府の手柄だと言えるのか議論することを好むが、結果として現れた投資額は明らかだ。CB Insights によれば、2014年からフランスのスタートアップは2,734件の取引で128億4,000万米ドルを調達してきた。

この中には2019年第1四半期の調達額11億6,000万米ドルも含まれており、このペースで行けば昨年の総額34億米ドルを10億米ドル上回る目覚ましいものになるだろう。資金調達においてヨーロッパの国々の中では、イギリスにはまだ遠く及ばないものの、ドイツを僅差で上回り2位につけている。

しかしこれらの数字には重要な注意点がある。国有銀行である Bpifrance が今でも同国におけるスタートアップの最大の資金調達源のままだ。そして実際の取引件数はほんの少し減少している。

全般的に、これらの資金調達ラウンドは、フランスが幅広い分野の最初期段階のスタートアップに数多くの小規模ラウンドをばら撒いているということを反映している。資金のほぼ62%はシードあるいはシリーズ A ラウンドの企業へ回され、24%は「その他」に分類されるもの(ビジネスプランのコンペティション、企業のマイノリティ施策、奨励金など)に注ぎ込まれている。

スタートアップの資金調達の残り約14%はシリーズ B ラウンド以降へと向かっており、この割合はここしばらく変わっていない。これに対処するため、昨年フランス政府は「スケールアップ」を加速させるための一連のプログラムを発表し、ポテンシャルを秘めていると思われる100社以上の企業を特定して、それらの企業が資金調達の途を見つけることができるよう手助けを推し進めている。

フランス政府の目標は、現在4社のユニコーン企業を2025年までに20社にすることだ。他国の状況は、イギリスが16社、中国が90社、そしてアメリカは165社となっている。しかし、今年のこれまでの驚くべき大きな一連の資金調達ラウンドで、フランスがついにそこへ割って入ることができそうな兆候がある。

ほんの数年前まで、フランスではこういった大きなラウンドは極めて珍しいものだった。そして VivaTech で囁かれていた噂では、別のスタートアップが間もなく大きな資金調達を発表するのではないかということだ。

一方で、政府は PACTE(Plan d’Action pour la Croissance et la Transformation des Entreprises/ビジネスの成長と変革のための行動計画)と呼ばれる広範囲な改革を採択した。これには、オンラインでのビジネス設立の簡素化、税制改革、雇用プロセスの緩和、ICO などの新しい方法を通じて資金を調達できるようにすることが含まれている。

政府はブロックチェーン使用の促進といったイニシアチブも、引き続き推し進めている。また自国産のスタートアップを後押しする別の方法も探そうとしている。例えば、フランスのデジタル大臣 Cedric O 氏は、政府はパリに拠点を置きプライバシーに注力した Qwant 検索エンジンを使い始めるだろうと明らかにした。

昨年正式にローンチした France is AI は地元のエコシステムを促進させようとする別の取り組みであり、また技術の設計や使用に関して、より倫理的なアプローチを奨励するものでもある。フランスの AI の人材は長い間シリコンバレーに奪われてきたため、このプログラムはフランスに大きな気づきをもたらし、AI 業界で働く人にフランスで会社を始めるよう促すものとして設計されている。

フランスの AI コミュニティ出身者としてはおそらく最も有名な Facebook のチーフサイエンティスト Yann LeCun 氏は、VivaTech のステージでフランスが果たすことができる役割について楽観的であると述べた。

ヨーロッパ全般、中でも特にフランスには非常に良い教育システムがあり、そのため非常に良い人材がいます。そしてそれこそが、持っていない状況から作り上げることが最も難しいものなのです。

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スタートアップ大統領

2017年、Macron 氏が大統領に選出された年の VivaTech で、同氏はフランスをスタートアップの国にすると誓い、今も起業の味方であり続けている。全国的な「イエローベスト運動」で大統領の地位はおびやかされ、その在任期間はぐらついているが、テック業界においてはMacron 氏はまだ広く人気を集めている。

過去2年間、同氏は世界中のテック CEO の有力者や為政者を引き付けてきた Tech For Good Summit を通じ、VivaTech を活用してフランスに注目を集め、テック政策の発表ならびにフランスへの投資を盛り上げてきた。今年、同イベントは企業や政府がオンラインのテロリズムと戦うことを手助けする枠組み、「クライストチャーチ・コール」の創設で国際的にニュースの見出しを飾った。

ニュージーランド首相 Jacinda Ardern 氏は計画を発表するプレスカンファレンスにMacron 氏と共に参加した。この計画は51人の命を奪った銃乱射事件が起きたニュージーランドの都市にちなんで名づけられている。銃撃犯は襲撃の様子をライブ配信し、人々は動画のコピーを繰り返しアップロードし続け、Facebook、Google、Twitter は動画の世界的な拡散を止めることに対してほぼ無力であった。

クライストチャーチで起きたことは、ただのテロ襲撃ではありません。インターネットの力を使い、それを狂気的なプロパガンダ拡散のための機械へと変えたのです。(Macron 氏)

同イベントはフランスが技術開発と政策において中心的なプレイヤーでありたいと望んでいる証拠でもある。ここでは Macron 氏は微妙なラインを歩んでいる。なぜなら、彼は法人税や労働法といった多様性の問題に関して、その意見を曲げようとはしないからだ。一例として、フランスは「GAFA」とも呼ばれている Google、Apple、Facebook、Amazon のようなアメリカのテック大手に打撃となるような、高い税率を提唱し続けている。

VivaTech に姿を見せた同氏は、フランスは誰かを罰しようとしているのではなく、公平な税制を求めているのだと再び説明した。そして同氏はこの機会を使い、フランスはスタートアップにとっても、彼が税を課そうとしている大手テック企業にとっても、適切な場であるとピッチした。

彼はこう述べた。

成功した起業家や将来有望なエンジニアなら、自分の才能を存分に発揮できる場所で働きたいと思うものです。挑戦を受けて立ちたいと思うものです。

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La French Tech

フランスのテックシーン、もしくはフランスそのものが示す現在進行中の発展の兆候としては、昨年 La French Tech のディレクターに選出された Kat Borlongan 氏も挙げることができる。5年前にフランスの前政権がローンチしたこのプログラムは、フランスのテック復活への取り組みの中心となることを意図したものだった。

Borlongan 氏は Techstars や Google で働いた経歴、彼女自身のコンサルティング企業 Five by Five によって、パリのテックコミュニティではよく知られている人物だ。だがよそ者に対してあまりオープンではない国においては、フィリピン生まれで15年前にフランスに移って来たばかりの人が選ばれたのはかなり注目に値することであり、よりオープンであろうとする取り組みの象徴である。

French Tech Mission はパリのスタートアップキャンパス Station F にオフィスを持っており、その役割の大部分は同国の悪名高いお役所仕事を起業家が切り抜ける手伝いをすることだ。Borlongan 氏はテック関連の問題に対する補助を調整し応答性の速度を上げるために、フランスの様々な省庁とネットワークを構築している。

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La French Tech のディレクター Kat Borlongan 氏

この任を受けるにあたって、Borlongan 氏にはやるべきことが山のようにある。

早急にやるべきことは、スタートアップがより多くの成長資金を引き付ける手助けをすること、政府の応答時間をより能率的にし続けること、そしてフランスのテック業界がさらに多様性を持ちアクセスしやすいよう促進することだ。後者の取り組みには最近の「French Tech Tremplin」と呼ばれるプログラムのローンチが含まれている。このプログラムは1,500万ユーロ(約18.3億円)の予算を持ち、多様な経歴をもつ起業家をターゲットとしている。

また最近フランス政府はディープテックのスタートアップの発展を加速させるプランを明らかにした。ここにはラボ段階の研究に対する5億5,000万ユーロ(約671億円)の投資、スタートアップ段階を加速させる5年間に対する8億ユーロ(約976億円)、そして最終的に成長を後押しする13億ユーロ(約1,586億円)のファンド・オブ・ファンズが含まれている。

しかし、おそらく最も切迫した目標は、より多くの人材をフランスに引き付けることだ。人々にフランスに来ることについて話していると、分かりづらい、お金がかかる、馴染みづらいということを恐れている人が非常に多いと、彼女はインタビューの中で述べている。それに応えて、彼女は同国のフレンチテックビザプログラムの全面的な見直しを進めている。

Pass French Tech と呼ばれるプログラムの下で、同国は240社の急成長中のスタートアップを特定し、追加の補助を受ける資格があるとしている。現在これらの企業は国外出身の従業員に新たなフレンチテックビザを提供することができる。このビザには必須条件がほとんどなく、例えば企業はフランスで仕事を探している人を見つけようとしていると証明する必要がない。そしてたった48時間で承認が下りるのだ。

Borlongan 氏によると、資金やアイデアの欠如以上に、将来有望なフランスのスタートアップの多くが直面する障害は、職場の空きを埋めることができないということである。

彼女はこう言う。

大事なものは人材です。人材が揃っていれば、その他のすべてを引き付けることができます。人材がいれば、投資はそれに続くのです。

先へ続く長い道

フランスがスタートアップの大望を実現させるには、やるべきことがまだ非常に多く残っているが、そのうちの1つは同国の大手企業に関係のあることだ。

VivaTech のカンファレンスは外国人にとっては奇妙な獣のように見えるかもしれない。この巨大なテックカンファレンスホールに足を踏み入れれば、L’Oreal、LVHM、La Poste、フランスの公益事業や公共交通機関、およびその他のテック以外の企業でフロアは埋め尽くされている。しかしフランス政府はこれらの大手既存プレイヤーが時代に取り残されないよう、将来有望なスタートアップに対して投資したり買収したりすることを切望している。

カンファレンスには VivaTech の Open Innovation Lab プログラムを通じて選ばれたスタートアップを取り上げたブースがあり、これらの取り組みの成果を示すチャンスだ。だがそれらのスタートアップの一部は明らかに大手ブランドのニーズに対応するものであり、それ以外は無作為に選ばれたように見える。どちらにせよ、これらの大手を動かそうとする政府の後押しは、伝統的企業の多くがデジタルの不活発さを振りほどこうとしていたこともあり、企業が後援するハッカソンやピッチコンテストおよびインキュベータの奔流となった。

それでも、CB Insights によれば、フランス企業によるベンチャー投資は2019年第1四半期に前年同時期に比べて8%下落している。また VivaTech で Facebook の LeCun 氏は、フランスの大手企業はアメリカや中国の競合と比べて長期的な R&D が十分ではないと警告している。同氏はこのように述べた。

フランスでは IT において長期的な研究がありません。

最後に、スタートアップやイノベーションという点でフランスのイメージは劇的に改善してきたが、国際的な企業をローンチする良好な場所として見られるためには、まだやるべきことが数多くある。

一例として Ivalua を見てみよう。

およそ20年前に CEO の David Khuat-Duy 氏によってパリで設立され、企業の支出管理ツールを開発している同社は、5月21日、6,000万米ドルをベンチャーキャピタルから調達したと発表した。この資金調達により同社の評価額は10億米ドルを超えるものとなった。

しかしフランスのテック業界にとって潜在的に大きな意味を持つこの件は、いくぶん静かなものだった。なぜなら、同社がフランス発祥の企業であることを知るのは困難だったからである。2017年、同社が躍進を遂げて7,000万米ドルを調達したとき、「フランス史上最大級のグロースエクイティキャピタルラウンド」とプレスリリースは大きく報じた

しかし5月21日のプレスリリースでは同社とフランスの繋がりは言及されなかった。さらに Ivalua のウェブサイトはフランスにおける経歴にほぼ触れていない。外から見る限り、同社はカリフォルニア州レッドウッドシティに拠点を置く企業の1つにしか見えないのだ。

もちろん同社の成功と忍耐力は、フランスにエネルギッシュな国際的スタートアップを生み出す力があることの証左だ。だが同社が徐々に海外へと移りつつあり、自社のルーツを軽視していることは、フランスのスタートアップの評価が説得力を持つには、まだまだやるべきことが山積していることを思い起こさせるものである。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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