「在庫のない本屋」が流行りそうな3つの理由ーー米大手書店チェーン「Barnes & Noble」の身売りから考える次の業態

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ピックアップ: Elliott Management to acquire Barnes & Noble for $683 million

ニュースサマリー: 6月7日、投資ファンド「Elliott Management 」が米大手書店チェーン「Barnes & Noble」を6.8億ドルで買収したと報じられた。同書店チェーンは過去5年で企業価値を10億ドル以上減らしていることから事実上の身売りと見られている。

Amazonや独立系書店チェーンとの競争にさらされていることもあり、株価は年初来25%落ち込んでいたという。米国では新本売上の50%をAmazonが占めていることからオンライン販売に市場を取られてしまった模様。

Barnes & Nobleは1965年に創業された老舗書店チェーンであり、米最大手チェーン店舗にまで昇りつめた企業。書籍だけでなくコーヒープレイスの併設やおもちゃ販売などの多角化戦略を行う高級ショッピング店舗としてポジション確立を目指した。

2010年には本件のような身売りニュースの噂が立った。2018年には1,800人の従業員を解雇するなど、事業縮小のイメージが大きかったが最終的にファンドへ売却する道をたどった。

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話題のポイント:  本記事のポイントは「販売業から不動産業への転機」です。

米国スタートアップ界隈では店舗業態を販売から不動産へシフトさせる動きが始まっています。代表的な企業に家電チェーン「b8ta」やブティックチェーン「Bulletin」が挙げられます。

両社とも月額2,000〜3,000ドルで店舗一画を各ブランドの販売商品の展示スペースとして割り当てる不動産事業を展開。EC事業者が手軽に一等地店舗に商品を並べる機会提供を行っています。

店舗側は場所を貸し出すだけのモデルであるため、商品在庫を保管するスペースが必要ありません。つまり、売り場だけ確保できれば良いので従来型の店舗と比べて1坪当たりの売上上昇に注力できます。加えて在庫返却などの手間もなくなることでオペレーションの簡素化にもつながります。

<参考記事>

さらに月額サブスクリプションモデルのため店舗側は一定売上が担保されます。販売売上に左右されずに一定の売上予測が可能になるのです。出店ブランド側も多額の出店費用リスクを負う必要がなくなるWin-Winの関係構築ができました。

まさにこの不動産の切り売り/又貸しモデルで急成長を遂げているのがコワーキングスペース「WeWork」や、都市部でシェアルームを貸し出す「Common」です。

物件を丸ごと購入もしくは長期契約した上で、場を細かく切り分けて月額サブスクリプションモデルで売上を上げる、「箱」を先に押さえて細切りに売り切るコンセプトです。

多額の先行投資が必要となる一方、利用者は月額サブスクで柔軟性高く物件を利用できることから高い需要が望めます。1顧客当たりのLTVは高くないですが、回転率が高いことが前提のビジネスモデルであるため集客努力を怠らなければスペースの空きが発生せず収益化へ走れます。

さて、書籍売上に頼る書店チェーンはこうした不動産業への転換が必要となっていると感じます。具体的には大型物件を所有する本屋が書籍スペースを出版社へ貸し出し売上を上げるモデルです。大きくメリットは3つ挙げられます。

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1つはUXの最適化。日本では既存書店とAmazonの対立軸が取り上げられたりしていますが、不動産業にシフトすれば大手EC事業者との協業が狙えます

たとえば書店へ足を運んで欲しい書籍の内容をざっと読み、Amazonやメルカリで安い値段で販売されている商品を購入した経験を1度でもある人は多いのではないでしょうか。この消費者購入フローは潜在需要として膨らんでいるはずですが、現状の書店モデルでは対応できていません。

消費者が求めるものは「価格」「配達」「体験」の3つ。書店が現在提供しているのは最後の体験のみ。体験の接点を持つだけでは書店側に一切のメリットは発生せずEC事業に売上が流れてしまいます。そこで不動産業者になることで従来の購買体験を大きく変えられるかもしれません。

想定されるビジネスモデルとして、月額300〜500ドルの範囲で1種1冊だけ店頭に置くサービスが考えられます。大手出版社からだけでなく個人出版をする層も取り込めるでしょう。

来店客はAmazonレビューに代表される口コミをその場で確認。専用端末を通じてAmazonやメルカリなどの提携EC事業者経由でその場でオンライン購入できるUXです。

書籍売上に依存するモデルからの脱却を図れるだけでなく、先述した消費行動に対応できる点が不動産業の魅力です。

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2つ目は出版社の収益確保。従来、出版社側が一定量の在庫を確保して全国の書店チェーンに卸すのが販売業のモデルでした。委託販売の場合は売れ残り本を出版社が抱えるリスクが発生してしまいます。

しかしEC購入に絞ることで事前印刷して在庫を大量に抱えるリスクを背負う必要がなくなります。この点の大きなメリットは最低限の収益が発生する注文部数に達するまで印刷をしないクラウドファンディングモデルを採れる点です。

一例を挙げます。米国大手Tシャツ販売スタートアップ「Teespring」はデザイナーが販売するTシャツ予約数が一定数以上発生しない限り生産が始まらないビジネスモデルを展開。収益が必ず担保される販売者フレンドリーなモデルを提供する”Tシャツ版Kickstarter”を謳うプラットフォームです。

こうしたクラウドファンディングのコンセプトが書籍市場に入り込むことで書店チェーンを取り囲む業界全体の収益化とビジネスモデルの抜本的改革にもつながると感じます

確かに消費者が商品が製本されるまで待たなければいけないタイムラグの発生、印刷業者の売上減少につながるデメリット要素もありますが一考の価値ある新たな出版社の収益モデルと考えられるはずです。

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3つ目はキュレート力。繰り返しになりますが不動産事業は自社で書籍売上を立てる必要がなくなります。そのため在庫を持つ必要もなくなり、販売から来店客データ獲得へ事業活動が変わります

どのような顧客が、どのジャンヌの書籍を購入するかなどのデータを最大限活かすことが大きな事業価値になるのです。こうしたデータを軸に書店チェーンを展開することで各店舗に「色」を持たせることができるかもしれません。

筆者が訪れた4つ星以上の商品しか置かない「Amazon 4-star」では出店地域に合わせて売れ筋の商品を並べており、ローカル特化の小売店としての地位を確立していました。テクノロジーを用いて“街の本屋”の演出もできるモデルを確立していたのです。

この点、各店舗の地域需要を捉えて書店員がデータと消費者トレンドを読み取り最適な書籍を並べるキュレート力が試されるでしょう。

各地域の来店客数を増加させるため、データ基軸でコンテンツの横展開も望めるでしょう。たとえば二子玉川では子ども向け書籍の需要が高いと判明すれば育児関連サービスを併設する事業拡大も狙えます。書店という「場」をコミュニティドリブンの新たな価値提供で活性化させられるかもしれません。

さて、ここまで Barnes & Nobleの売却劇から書店チェーンの新たなビジネスモデル「在庫のない本屋」を考察してきました。同モデルは”本屋版WeWork”とも言えるかもしれません。

出版業界はサプライチェーンが複雑ですが、不動産業に軸足を移すことで、あらゆるステークホルダーが21世紀向けに業態を同時にアップデートできると考えます。

筆者は今回のBarnes & Nobleからの学びは大きく、日本の書店だけでなくあらゆる販売業者がビジネスモデルの転換期と捉える良い機会だと感じました。

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