「インターネット・フランチャイズ化」が進む現代で知っておくべき2つのAmazon戦略

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2018年、サブスクリプションサービス「Amazon Prime」の会員は1億人を突破。この圧倒的な会員数のボリュームを武器に「インターネット・フランチャイズ化」を進めているのがAmazonです。

「インターネット・フランチャイズ化」とはオンラインプラットフォーム(Amazon)を利用し、加盟店がほぼノーリスクで事業展開できる仕組みをこの記事では指します。最たる例が「Amazon Subscription Box Store」です。

Amazon Subscription Box Storeは同社がキュレートしたサブスクBoxを手軽に注文できるサービス。詳細なサブスク・ラインナップ数は明かされていませんが、大手サブスク企業も目を向けています。

たとえば2019年初頭、飼い犬向けおもちゃ・お菓子サブスクBoxサービス「BarkBox」がAmazon Subscription Box Storeのチームと接触。同サービスへの参画アプローチをしたと報じられました

Barkboxは2011年に創業した、累計調達額8,000万ドル超えの大手スタートアップ。同社が参画すればAmazon Subscription Box Storeの強力な収益源となるでしょう。

さて、ここからはAmazon Subscription Box Storeの事例をもとに、Amazonが展開するフランチャイズ戦略を2つほど説明していきたいと思います。

インターネット・フランチャイズ時代の重要戦略「Business in a Box」

Amazon Subscription Box Storeの提供価値は次のようなものになります。

従来、顧客はさまざまなサブスクBoxを別々のサービス企業から注文しており、配達日の連絡や解約手続きに負担を感じていました。そこでAmazonが外部サブスクBox企業と提携することで顧客は一括で各種サービスを管理できるようになります。

一方、利用企業側はサプライヤーを自社で探す必要がなくなります。自社コンセプトと合う商品をAmazonの商品一覧から探して1つのBoxにまとめ上げるだけ。加えて、Amazonが抱える1億人のPrime会員へのアクセスが可能に。つまり顧客獲得や仕入れコストを下げることに繋がるのです。

利用企業はブランド名をAmazon側に貸し出すだけで事業展開ができるようになります。言い換えれば0から事業を創り出す高コストなプロセスを一切省き、オンラインで完結するSaaS戦略へと舵を切れるようになれるのです。

こうした商品やハードウェアをプラットフォーム側が手配し外部企業に事業立ち上げや展開加速の機会を与える。売り上げの20-30%程度を手数料として事業確立する戦略思考を「Business in a Box」と呼びます。

あくまでもサービス提供基盤はプラットフォーム側にあるため、日本のコンビニ業界でお馴染みのフランチャイズ事業モデルを展開できるわけです。

こちらの記事によると米国の中小企業の倒産率は2年以内に55%。40%がPMFに達成しないことが原因。このアイデアリスクをなくすのがBusiness in a Boxの大きな価値と言えるでしょう。

私たちが普段利用するAmazon Marketplaceとの最も大きな違いは在庫を保有するのがプラットフォーム側にあるという点。

これまで事業者は自社商品を掲載する必要がありましたが、Subscription Box Storeでは一切の手配が必要となくなります。100%オンライン事業でオフライン事業を展開できるようになったのです。この点を踏まえて”インターネット・フランチャイズ”と呼んでいます。

別例を挙げます。モビリティー時代のBusiness in a Boxを展開するのが「Bird」。同社は電動スクーター貸し出しスタートアップ。2017年に創業し、累計調達額は2.7億ドル。

Birdが昨年提供を始めたサービスが「Bird Platform」。企業にスクーターを貸すB2Bモデル。利用企業は自社ブランド名でスクーター事業展開できるサービスです。1回の乗車利用料金の20%を徴収します。

たとえば大手企業が社員向けの移動車として貸し出したり、オンデマンド配達企業がギグワーカー向けの移動手段として又貸しする利用シーンが考えられるでしょう。

ハードウェアを購入するリスクをスキップして新たなサービス提供が可能になっています。大手プラットフォームが、新たな事業機会をインバウンドで得るための非常に綺麗な拡大戦略と言えます。

プラットフォームを支える成長戦略「Flying Wheel」

ここで大きな疑問が浮かんでいるかもしれません。AmazonやBirdに代表されるように、他企業を巻き込めるほどにまで事業を成長させられるにはどうすればよいのか、と。

いわゆる規模の経済を用いたサービスは概ね「エクスポネンシャル的な成長」を意識しています。指数関数的な急激な成長とも呼ばれます。この急成長を具体化した戦略が「Flying Wheel(はずみ車)」です。

Flying Wheelは6つの要素から成り立っています。「売り手」「商品数」「体験」「買い手」「コスト下げ」「値下げ」。

最初の取っ掛かりとなるのが売り手の数。特にマーケットプレイスモデルの場合は需要(買い手)と供給(売り手)のうち、供給数を圧倒的に上げることが真っ先に求められます。これは売り手数が上がらないと商品数の向上に直結しないためです。

商品掲載のないマーケットにお客さんはそもそもやってきません。獲得コストがかかる最初のステップですがこれを抜きに急激な成長は得られません。Birdの場合、あらゆる都市に電動スクーターを配置してサービス供給量を増やした点が売り手数の上昇に該当します。

さて、商品数が上がるとサービスに対しての印象が良くなり体験価値を見いだせます。体験の良いサービスには買い手が集まり、追ってさらに売り手が商品を販売しに集まってきます。

取引総額が大きくなってくるとマーケットプレイスの維持コストが規模の経済によって下がってきます。AWSに代表されるクラウドサーバー事業などはまさに当てはまるでしょう。

最終的にサービス運営費用が下がり、売り手の出品数が上がってくると販売料金が下がります。より多くの商品が集まり、かつ低価格化が進んでくると顧客体験が向上。収集データも膨大な量になりレコメンド精度も上がります。

一連の流れはホイール回転のように加速度的に成長していきます。この成長カーブを「Flying Wheel」と業界では呼びます。

経営者として大切な意識は「直線的な成長カーブ」ではインターネット・フランチャイズ時代のプラットフォームになり得ないという点です。常に「エクスポネンシャル的な成長カーブ」を目指す必要があります(Flying Wheelに関して、より詳しく情報をお調べの方は上記YouTube動画を参考にしてください)。

ここまで”インターネット・フランチャイズ化”が進む現代で知っておくべき2つのAmazon戦略を説明してきました。

まとめるとインターネット・フランチャイズ時代では「Business in a Box」に基づいたプラットフォームと利用企業側がWin-Winになる仕組み構築が求められます。そしてプラットフォーム側になるには「Flying Wheel」に沿った加速度的な成長カーブを描く戦略思考が求められるでしょう。

Amazonが同2つの戦略を用いて大きな事業利益を獲得しに来ています。いわばSaaS時代のフランチャイズ経営を企んでいると言っても過言ではないでしょう。

Image Credit: Canonicalized

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