豚の臓器を人に移植する「eGenesis」とは

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ピックアップA Biotech Company Gets $100M For The Future of Pig-To-Human Transplants

ニュースサマリー:ボストン、レバークーゼン、ベルリンを拠点とするバイオテクノロジー・スタートアップ「eGenesis」は11月7日、シリーズBラウンドにて7つの投資ファンド・投資家から合計1億ドルを調達した。同社の累計調達額は1億3,800万ドルに到達している。

同社が取り組むのは、ゲノム編集技術「CRISPR」を用いて心臓や肝臓、肺などの動物の臓器を人間に移植可能にすること。この移植方法は異種移植(xenotransplants)と呼ばれている。

世界には200万人もの臓器移植を待つ人々がいる。しかし人間からの供給だけでは足りていないのが現状。そのためゲノム編集を活用し、動物の臓器を人間の身体と互換性を持たせることで、多くの患者を救う取り組みをしている。同社は次世代型の医療の実現を目指す一つの研究機関・企業という位置付けだ。

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Image Credit : eGenesis

話題のポイント:今回の調達資金はeGenesisがこれまで取り組んできた、豚の心臓を人間に移植する異種移植の開発をさらに推し進めると同時に、人間と互換性を持ち得る動物の臓器を新たに発見する実験に用いられるといいます。

実は豚の臓器移植に関しては以前からそのサイズや生理学的な互換性の高さから、将来的に人間を救う医療として期待され続けてきました。事実、豚の心臓弁(心臓に血液を送るポンプ)は既に損傷・病気になった人間の心臓弁を代替した例を持つそうです。

しかし、eGenesisの共同創業者であるDr. Luhan Yang氏は、豚・人間間の臓器移植はここ1世紀、科学者の間では希望であり続けたものの、ほとんど進歩していないとも言及しています。

TEDトークにて同氏は、技術実現の障壁として移植後の拒否反応とウィルス侵入を挙げています。具体的には、ブタ内因性レトロウイルス(PERV)と呼ばれるウイルスの完全な除去が達成できていないことを指摘しています。移植手術を受ける患者は免疫抑制剤を投与されて抵抗力が低下するため、感染リスクも大きいのです。

これらのウイルスを除去する方法は、遺伝子編集技術の発達に完全に依存しています。共同創業者のYang氏とGeorge Church氏(ハーバード・メディカル・スクールの遺伝子分野の教授)は、CRISPRやゲノミクスのパイオニアとして有名。2015年には、実験室の皿で成長しているブタ腎臓細胞のPERV遺伝子の62コピーすべてを切り取ることに成功。そして2017年8月には、eGenesisのChurch氏が人間への移植を不可能にする特定のウイルスを排除した形で、数十頭以上の豚を生み出すことに成功するなど、数々の実績を残しています。

“豚の臓器を人間に移植する”というSF的な医療の未来が実現するのには、未だいくつかの大きな難題が立ちはだかっていることが分かります。しかしながら、同社の実績や今回の調達からこれまで以上に希望を見いだすことができるでしょう。将来的にeGenesisの技術が数百万の人の命を救うことはできるのでしょうか。調達後の研究成果に注目が集まります。

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