本稿は、Collision 2022 の取材の一部である。
トロントでは、北米最大級スタートアップカンファレンス「Collision 2022」が開催されているが、このイベントの見所の一つでもあるピッチコンペティションが開かれ、ヘッドセットを使って正確かつ迅速な ADHD(注意欠如・多動症)診断を支援する「Dot Mind Unlocked」が優勝した。
Collision の開催中、ピッチステージで合計61のスタートアップが登壇。そこから選ばれた13チームが、20人の投資家の前でピッチ。投資家らは、プロダクトの可能性、ディスラプティブかどうか、財務面での評価、チーム構成、ピッチの品質の5点をもとに評価。セミファイナリスト(準優勝候補)として3チームが選ばれ、さらに3人の投資家と一般参加者(聴衆)の投票により優勝が決まった。
最終決勝の審査員は、
- Wesley Chan 氏(FPV Ventures 共同創業者 兼 マネージングパートナー)
- Mary D’Onofiro 氏(Bessember Venture Partners 共同創業者 兼 パートナー)
- Carter Copeland 氏(CAE 世界戦略担当シニアバイスプレジデント)
- 一般参加者(聴衆)投票の結果
以下に優勝した Dot Mind Unblcoked と、惜しくも優勝は逃したがセミファイナリストに残った2チームを紹介する。
Dot Mind Unlocked(カナダ)
ADHD(注意欠如・多動症)に苦しむ子供たちは世界中に10億人いると言われる。ADHD を正しく認知せず、さまざまな精神障害を一括りにした万能の対処法で臨むというアプローチもあるが、この方法は往々にしてうまくいかない。Dot Mind Unlocked は、Ericsson でソフトウェア開発などを手掛けた電気技師 Yishel Khan 氏により創業。彼女は、脳波を読み取るウエアラブルヘッドセットを開発し、人によって異なる精神障害の診断と治療法を提供する。
ADHD は精神科医にとっても判断が難しく、確定診断を出すまでに数年以上を要する。誤診が多く、投薬は試行錯誤の上に成り立っていて、治療や投薬の費用が嵩む傾向にある。Dot Mind Unlocked のソリューションを使えば、臨床テストをパスしたアルゴリズムによって、ヘッドセットを着用して数分以内に適切な診断ができる。Dot Mind Unlocked は現在、臨床医向けポータルサイト「Neuron」と、消費者向けプロダクト「Nerve」を提供している。
Dot Mind Unlocked は北米市場でサービスをローンチすべく、地元カナダやアメリカ、そして世界中に神経科学者やアドバイザーと連携している。2019年のローンチ以降、過去数年にわたり、92%という高い診断精度で、300人の児童発達評価を完了した。これまでに、約50万米ドルに及ぶ賞金や助成金を獲得し、最初のプロトタイピングとテストの第1段階を完了。現在、α版ローンチの第2段階に入っており、2024年までに北米市場でのローンチを目指す。300万米ドルを資金調達中だ。
Xare(アラブ首長国連邦/インド)
金融の根底には構造的な障壁がある。それは、すべての金融商品は、お金の所得者を念頭に置いて設計されているということだ。しかし、世界人口の60%に相当する45億人は金銭的収入がなく、一方で、世界の消費支出の40%以上に相当する25兆米ドルは、実は労働による収入を得ていない人々によって消費されていることがわかっている。つまりは、稼いでいる人と使って人は違うということだ。夫が稼いだお金を妻が使う、親が稼いだお金を子供が使うなど、出稼ぎなどで離れて住んでいる場合は送金の不便を伴う。
Xare(シェア)を使えば、誰でも〝カード〟を発行し、受取人に対し、電話番号または Xare のリンクで、資金を共有することが可能になる。発行者は自分のデビットカードやクレジットカードを登録し、その利用枠の中から受取人に対して自由に利用限度額を設定可能だ。このアプリの最大の魅力は、使用状況をモニターし、コントロールできることだ。子供や家族、友人と共有し、国境を越えて、自分のお金の動きを把握することができる。
Xare は175カ国以上で利用され、2021年には取引金額が300倍に成長した。今では10億米ドル以上がプラットフォーム上で共有されており、来年には10倍の成長を遂げることが期待されている。ソーシャルなフィンテック・プラットフォームを武器に、Xare は銀行や国際送金プラットフォームを凌駕する存在になることを目指しているようだ。Xare は、これまでにシードラウンドで日本の MS&AD Ventures などから300万米ドルを調達している。
MODU(カナダ)
写真は現実を平面に切り取り、絵画はそれを2次元で表現してきた。しかし、世界は平面ではない。拡張現実(AR)は、我々の現実の世界に奥行きを与えてくれるものになる。3D のコンテンツは我々に無かった没入感を与えてくれるが、そうしたコンテンツを作るには、時間、お金、専門知識がないとできなかった。Techstars が輩出したスタートアップ MODU は、こうした 3D コンテンツを作り出すプロセスを自動化することで、消費者にアプリを通じえ直接届けることができる「メディア3.0」フォーマットを開発した。
2019年に MODU がローンチしたアプリは、誰もがスマホをタップするだけで 3D 写真を手に入れることを可能にした。このアプリを通じて、400万人以上のユーザから累積6,000万枚以上の 3D 写真が撮影・アップロードされており、月間アクティブユーザは40万人、85%のユーザは広告に依存しないオーガニック流入によりアプリをダウンロードしている。消費者だけでなく、Google、Nike、Amazon、全豪オープンなどに、B 向けでもメディア3.0 の技術の導入に成功した。
アプリローンチから3年、MODU はより没入感のあるコンテンツ創造を支援できるよう、Spatial Audio(3D 音響効果)と AR の分野にも進出すべくチームを拡大している。3D 写真、3D 音響効果、AR の全てを、Web やモバイル体験に簡単に埋め込めるようにする。これまでに、Techstars SportsTech Melbourne(オーストラリア)に採択され、プレシードラウンドで資金の提供を受けている。
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