東北VCのMAKOTO、生成AI事業に転身——「CalqWorks」を買収、中小企業への導入本格化

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Image credit: MAKOTO Prime

独立系 VC は、東京・大阪・福岡などに多い。東北のプレーヤーは今でも多くないが、東北大学の未来科学技術共同研究センター(NICHe)で産学官連携コーディネータだった竹井智宏氏が2011年に設立した MAKOTO は、通算で約18億円のファンドを組成して30社ほどのスタートアップに投資を行い、この地域では独立系 VC として目立った存在だった。地方創生の MAKOTO WILL をはじめグループ傘下には7つの事業体が存在し、VC である MAKOTO CAPITAL は福留秀基氏が MBO し、スパークルが1号ファンドを組成したのは先月の既報の通りだ。

投資ビークルが完全に福留氏に引き継がれたことで、その後の MAKOTO は何をするのかという疑問が残っていたが、竹井氏の話によれば、MAKOTO グループ傘下の MAKOTO Prime という会社でジェネレーティブ AI 製品の販売・導入事業の全国展開を本格化させるという。同社が手がける「CalqWorks(カルクワークス)」は、量子コンピューティング分野のスタートアップ Jij のエンジニアだった元木大介氏が2020年に創業したスタートアップ KandaQuantum が中心となって開発したものだ。

「CalqWorks」の事業買収

Image credit: MAKOTO Prime

CalqWorks は2月以降、KandaQuantum が企画・開発、Strust が開発、MAKOTO Prime が販売する形で展開されてきた。それぞれの会社間に資本関係はないが、レベニューシェアによって良好な協力関係が維持されてきたという。12月、MAKOTO Prime は CalqWorks 事業を買収したことを明らかにしており、これまでの販売だけでなく企画業務も担うことになる。KandaQuantum からは CalqWorks の担当技術者が Strust に移籍しており、Strust が開発面での全般的な役割を担うことになる。

KandaQuantum は11月、ジェネレーティブ AI に関心のあるエンジニアを中心としたコミュニティ向けの事業にピボットすると発表した。これは、OpenAI が同月に開催した DevDay で、多数の新機能や改善を発表したことに起因し、その結果として、CalqWorks が MAKOTO Prime によって事業買収される流れに繋がったようだ。DevDay を機に OpenAI が「GPTs」の提供を始めたことなどから、KandaQuantum は自ら AI 製品を開発するよりも、誰もが AI 製品を生み出せるコミュニティを作る方に事業の舵を切ったわけだ。

CalqWorks は、今年2月にローンチし、これまでに法人・個人あわせて2,900のアカウントが作成された、ビジネス向けのジェネレーティブ AI プラットフォームだ。ジェネレーティブ AI が搭載され、社内 AI チャット、リアルタイム型議事録、ファイル投入型議事録、タスクサポート AI、メール返信作成 AI、文章校正チェック AI、適切表現・炎上チェック AI、SNS 投稿作成 AI、スライド原稿作成 AI、求人票作成 AI、お悩み解決サポート AI、課題解決 AI など、現時点で14機能をサポートしている。

地方中小企業の DX 起爆剤として、ジェネレーティブ AI の普及に賭ける

竹井智宏氏

本稿の冒頭では VC と紹介したが、MAKOTO グループ自体は事業開発ビルダーとしての位置付けに近い。グループ傘下に地方創生の事業会社や東北に特化した投資会社が含まれていたことからも想像がつくように、竹井氏がかねてから取り組んでいるのは、日本の GDP の7割、雇用の8割を生み出しているとされる、中小企業を中心とした地域経済のブーストだ。

竹井氏はそうした地方の中小企業にこそ、ジェネレーティブ AI の導入が欠かせない時代がやってきていると語る。

スタートアップは元気だが、それでも、彼らは地方の雇用の1割も作り出せていない。現状、地域経済の雇用は、ほとんどがその地域の企業が生み出しているのが現実だが、彼らも皆、さまざまな課題を抱えながら経営を続けていて、決して経営基盤も盤石ではない。

不足する労働力の一翼を担うと期待されているのだがジェネレーティブ AI だが、全国でアンケートをとっても中小企業の1割程度しか使いこなせていないのが現状だ。地方の問題をどうにかしたいと考え、それに取り組むのが MAKOTO Prime の事業だ。(竹井氏)

一般的な SaaS 製品は、基本的には対面での個別営業は行わず、Web マーケティングでリードを稼ぎ、そこからオンボーディングへと導いていくことが多い。ジェネレーティブ AI 製品も SaaS 形態で提供されることが多いが、地方の中小企業に導入を図るという観点からは、竹井氏はこのやり方に否定的だ。MAKOTO Prime では全国に100社からなる代理店のネットワーク「MAKOTO Partner」の形成を目指し、昔ながらのパートナーセールス的なアプローチでジェネレーティブ AI 製品の導入を図る考えだ。

Image credit: MAKOTO Prime

都市圏と地方では経済が違う。都市圏は貨幣経済なので、良い品物が適切な価格で提供されれば買ってもらえる。しかし、地方は信用経済だ。何を買うかよりも、誰から買うかで買うかどうかを考えている。だから、それぞれの地方に根差した企業にパートナーになってもらい、地元の中小企業に、我々と一緒にジェネレーティブ AI 製品を広めてもらいたいと思っている。(竹井氏)

会計システム各社はかつて、地域の会計事務所とタッグを組んで中小企業にシステムの普及を図っていった。最近でも、マネーフォワードが会計事務所に声をかけ、その顧客にサービスを使ってもらう取り組みをしていたのは記憶に新しい。MAKOTO Prime が取ろうとしているのも、おそらく同様のアプローチだろう。MAKOTO Prime では CalqWorks だけでなく、業務の必要に応じ、さまざまなジェネレーティブ AI 製品の販売・導入支援を提供する計画だ。近い将来、中小企業が社内に「AI 社員」を構築できるようにすることを目指すとしている。

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