AIの実務活用、地方課題解決系スタートアップの躍進目立つ——国内スタートアップ資金調達振り返り(8月19~23日)

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2024年8月第4週、日本のスタートアップシーンでは多岐にわたる分野で資金調達が行われた。HR テック、エネルギー、製造業 DX、会計サービス、NFT など、さまざまな領域で新たな資金調達が報告された。特に注目すべきは、地方発のスタートアップや社会課題解決型のビジネスモデルが投資家の関心を集めていることだ。これらの動きは、日本のスタートアップエコシステムが多様化し、成熟段階に入りつつあることを示唆している。

トレンド分析

まず、HR テック関連の企業が複数の資金調達を実施しており、人材不足や働き方の多様化に対応するサービスへの注目度が高まっている。次に、エネルギーや製造業などの伝統的な産業においても DX を推進する企業が資金を調達しており、これらの分野でのイノベーションが加速している。

さらに、NFT や越境決済など、新しい技術やビジネスモデルを活用したサービスへの投資も見られる。また、地方発のスタートアップや社会課題解決型のビジネスが投資家の支持を得ていることも特筆すべき点である。

HR テックと人材関連サービスの進化

Image credit: ROXX

HR テックと人材関連サービスの分野で、複数の企業が資金調達に成功した。

まず、「Z キャリアプラットフォーム」や「back check」を運営する ROXX が東京証券取引所への新規上場申請を行い、承認された。ROXX の上場に関する記事によると、同社の企業評価額は約153.4億円規模となる見込みだ。ROXX は人材紹介ビジネスに特化したクラウド求人データベースを提供しており、人材紹介会社と求人企業のマッチングを効率化している。

一方、外国籍人材向け就労支援プラットフォーム「Secure Talent」を開発・運営する Emunitas は、シードラウンドで5,100万円を調達した。Emunitas の資金調達に関する記事では、同社が日本で働きたい外国籍人材と日本企業をつなぐプラットフォームを提供していることが報告されている。近年の円安や人材不足を背景に、外国籍人材への需要が高まっている中、Emunitas のサービスは時宜を得たものと言える。

さらに、オフィス向け社食サービス「OFFICE DE YASAI」を運営する KOMPEITO は、シリーズ D ラウンドで10.7億円を調達した。KOMPEITO の資金調達に関する記事によれば、同社は地方展開を強化しており、全国13,000拠点以上にサービスを提供している。働き方やオフィスのあり方が変化する中、従業員の福利厚生に注目が集まっていることがうかがえる。

これらの資金調達は、人材不足や働き方の多様化といった社会課題に対応する HR テック企業への投資家の関心の高さを示している。特に、外国籍人材の活用や従業員の福利厚生など、従来の人材サービスでは十分にカバーできていなかった領域でのイノベーションに注目が集まっていることがわかる。また、ROXX の上場は、HRテック業界の成熟度を示す象徴的な出来事といえるだろう。

エネルギーと製造業の DX 推進

Image credit: EX4Energy

エネルギーと製造業の DX 推進に取り組む企業も、今週複数の資金調達を実施した。

まず、分散型エネルギーの接続問題を解決する EX4Energy が、シリーズ A ラウンドで3.5億円を調達した。EX4Energy の資金調達に関する記事によると、同社は東京大学の研究成果を活用し、「Public Power HUB(PPH)」を開発している。これにより、太陽光発電や蓄電池などの分散型エネルギーを簡単に接続できるようになり、再生可能エネルギーの普及に貢献することが期待される。

次に、AI とデータを活用して工場向け自動化設備の販売に取り組む Robofull が、プレシリーズ A ラウンドの 1st クローズで1億円を調達した。Robofull の資金調達に関する記事では、同社が製造業の設備取引のあり方を変革し、人手不足に悩む製造業の課題解決に挑戦していることが報告されている。AI データベースを活用して各工場に最適な自動化設備を安価に販売することで、中小製造業の生産性向上を支援している。

さらに、不整地にも対応する運搬ロボットを開発する CuboRex が、シリーズ A ラウンドで2.5億円の資金調達を実施した。CuboRex の資金調達に関する記事によれば、同社の製品販売台数は4,000台を超えており、過酷な環境下でも使用可能な運搬支援ソリューションを提供している。

エネルギーや製造業といった伝統的な産業分野においても、デジタル技術を活用したイノベーションが進んでいることを示している。特に、再生可能エネルギーの普及や製造業の人手不足といった社会課題に対して、テクノロジーを活用したソリューションを提供する企業が投資家の支持を得ていることがわかる。

新技術とビジネスモデルの台頭

 

Image credit: RemitAid

新しい技術やビジネスモデルを活用したサービスを提供する企業も、今週資金調達を実施した。

まず、越境決済プラットフォーム「RemitAid」を運営する RemitAid が、シリーズ A ラウンドの 1st クローズで1.5億円を調達した。RemitAid の資金調達に関する記事によると、同社は海外企業との取引を簡単にするグローバルマルチ決済プラットフォームを提供しており、導入顧客が150社を超えている。輸出企業の支援や中小企業の海外展開を後押しするサービスとして注目を集めている。

次に、デジタルトレーディングカード(トレカ NFT)取引マーケットプレイス「PACKS」を運営する D-Chain が、シードラウンドの1st クローズで7,000万円を超える資金調達を実施した。D-Chain の資金調達に関する記事では、同社のサービスが物理的なトレーディングカードをデジタル権利 NFT に変換し、グローバル市場でリアルタイムかつ瞬時に取引できるプラットフォームを提供していることが報告されている。

さらに、漫画投稿プラットフォーム「comilio」を開発する u2tech が、エンジェルラウンドで1,500万円を調達した。u2tech の資金調達に関する記事によれば、同社のサービスは漫画の自動翻訳機能を搭載しており、日本語で投稿された漫画が自動的に複数の言語に翻訳される機能を持っている。

ブロックチェーン技術や AI 翻訳など、最新のテクノロジーを活用した新しいビジネスモデルへの投資家の関心の高さを示している。特に、グローバル市場を視野に入れたサービスや、従来の産業の枠を超えた新しい価値提供に注目が集まっていることがわかる。

地方発スタートアップと社会課題解決型ビジネスの台頭

Image credit: Robofull

今週の資金調達では、地方発のスタートアップや社会課題解決型のビジネスモデルを持つ企業が注目を集めた。

例えば、名古屋を拠点とする Robofull は、AI とデータを活用して工場向け自動化設備の販売に取り組んでおり、プレシリーズ A ラウンドの 1st クローズで1億円を調達した。Robofull の資金調達に関する記事によれば、同社は人手不足に悩む製造業の課題解決に挑戦しており、地域の産業競争力強化に貢献している。

また、別府発の外国籍人材支援企業 Emunitas は、シードラウンドで5,100万円を調達した。Emunitas の資金調達に関する記事では、同社が日本で働きたい外国籍人材と日本企業をつなぐプラットフォームを提供していることが報告されている。地方における人材不足の解消や多様性の推進に寄与するサービスとして期待されている。

さらに、テクノロジーと専門家の知識を融合させたバーチャル会計事務所「SoVa」を運営する SoVa は、シリーズ A ラウンドで約2.8億円を調達した。SoVa の資金調達に関する記事によれば、同社は効率的かつ包括的なバックオフィスサポートを実現しており、中小企業の経営効率化に貢献している。

これらの資金調達は、地方発のスタートアップや社会課題解決型のビジネスモデルが投資家の関心を集めていることを示している。特に、地域の産業振興や人材不足の解消、中小企業支援など、日本社会が直面する課題に対してイノベーティブなアプローチで取り組む企業が支持を得ていることがわかる。

また、これらの企業の多くが地方銀行系のベンチャーキャピタルや地域のイノベーション支援機関から出資を受けていることも注目に値する。地方発スタートアップの成長は、地域経済の活性化や地方創生にも寄与する可能性が高く、今後さらなる発展が期待される。

投資家の動向と資金調達の特徴

Image credit: KOMPEITO

今週の資金調達では、投資家の多様化と資金調達の規模の幅広さが特徴的であった。まず、投資家の顔ぶれを見ると、大手ベンチャーキャピタルから地方銀行系ファンド、事業会社まで幅広い層が参加している。例えば、EX4Energy の資金調達では東京大学協創プラットフォーム開発(東大 IPC)や Archetype Ventures がリードインベスターとなり、EX4Energy の資金調達に関する記事によれば、三菱 UFJ キャピタルや DBJ キャピタルなども参加している。

また、KOMPEITO の資金調達では、JIC VGI や地方銀行系のファンドが多数参加しており、KOMPEITO の資金調達に関する記事では、地方展開を強化する同社の戦略と投資家の顔ぶれが合致していることがわかる。このような多様な投資家の参加は、各スタートアップの事業戦略や成長段階に応じた適切な支援が行われる可能性を示唆している。

資金調達の規模については、シリーズ D ラウンドで10.7億円を調達した KOMPEITO から、エンジェルラウンドで1,500万円を調達した u2tech まで幅広く分布している。この多様性は、日本のスタートアップエコシステムが成熟段階に入り、各成長段階に応じた資金供給が行われていることを示している。

特筆すべきは、比較的小規模な資金調達でも注目を集めているスタートアップが存在することだ。例えば、漫画投稿プラットフォーム「comilio」を開発する u2tech は1,500万円の調達ながら、その独自性と成長性が評価されている。u2tech の資金調達に関する記事では、同社のサービスが漫画の自動翻訳機能を持つなど、グローバル展開を視野に入れた戦略が投資家の関心を引いていることがわかる。

また、デットファイナンスを活用する企業も見られた。KOMPEITO は、エクイティでの調達に加えてデットも活用しており、成長資金の調達手段の多様化が進んでいることがうかがえる。この傾向は、スタートアップの財務戦略がより洗練されてきていることを示している。

投資家の関心が高い分野としては、HR テック、エネルギー、製造業 DX、フィンテックなどが挙げられる。これらの分野は、日本社会が直面する課題(人材不足、エネルギー問題、製造業の生産性向上、金融のデジタル化など)と密接に関連しており、社会的インパクトと事業性の両立が期待できる領域といえる。

さらに、ROXX の IPO 申請は、日本のスタートアップエコシステムの成熟度を示す象徴的な出来事といえる。ROXX の上場に関する記事によれば、同社の企業評価額は約153.4億円規模となる見込みで、HR テック業界の潜在的な市場規模の大きさを示唆している。

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