今年はAIがテーマ、2万人が集うスタートアップの祭典「Techsauce Global Summit」がバンコクで開幕

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7日、タイ・バンコク市内でスタートアップカンファレンス「Techsauce Global Summit 2024」が開幕した。今年で9回目を迎えるこのイベントには、350人以上のスピーカーが登壇し、タイ国内外から2万人以上が参加する見込みだ。

開会挨拶で登壇した Techsauce CEO Oranuch Lerdsuwankij 氏(通称 Mimee)は、「私たちの人生に価値を与えるものは何か」と言う深遠な問いから話を始めた。筆者は2013年にバンコクを訪れたときに Mimee に初めて会ったが(Techsauce は当初 ThumbsUp というメディアだった)、2012年から始まり来年で10回を迎えるこのイベントは、主催者にとっても感慨深いようだ。

右が Techsauce CEO Oranuch Lerdsuwankij 氏(通称 Mimee)
Image credit: Masaru Ikeda

Techsauce を信頼し、支援してくれたすべての人々に心から感謝しています。私たちには長い道のりがあり、一人では成し遂げられませんでした。私たちは自分たちの人生に価値を与えるだけでなく、国や社会、エコシステム全体に貢献したいのです。それがTechsauce の存在理由であり、このグローバルサミットを開催する理由なのです。

今年のイベントのハイライトとして、Mimee はAIに関する2つの重要な側面を挙げた。1つは、さまざまな視点から AI を議論すること。技術的な側面だけでなく、倫理的、社会的影響についても深く掘り下げる予定だという。もう1つは「AI の善用」、つまり社会問題の解決に向けた AI の活用である。気候変動対策や教育の改善など、AI が社会にもたらす可能性のあるポジティブな影響について議論が行われる予定だ。

さらに、イギリスのスタートアップが開発した AI ヒューマノイド「Ameca」を招聘したことも強調した。Mimee は Ameca とは CES で初めて出会ったそうで、アジアで初めてバンコクに招くことができたと語った。AI の進歩を具体的に、目に見える形で示すことができた事例だとして、その意義を強調した。

また、Mimee は昨年発表した今後10年間のミッション「タイを東南アジアのテックゲートウェイにする」についても詳しく言及した。タイの戦略的な立地、強力なデジタルインフラ、物流の強みを活かし、海外直接投資(FDI)の誘致や外国企業のタイ進出支援、地元のイノベーターやスタートアップの海外進出支援を目指すという。

Image credit: Masaru Ikeda

さらに、Mimee はTechsauce が初めてタイ国外での開催を計画していることも明らかにした。来月にはバリ島で「Techsauce Global Summit Bali」を、10月にはベトナムのホーチミンシティでイベントを開催する予定だという。これら3つの主要な戦略的市場間の協力を強化することが狙いだ。

タイのスタートアップや企業がこれらの市場に進出したいという要望を受けており、同時にこれらの国々からタイ市場への進出希望もあります。私たちはこうした市場間の橋渡しをしたいのです。Techsauce Global Summit を各地で開催し、タイ企業の国際展開のパイオニアかつロールモデルになりたいのです。

フィンテックだけでなく、AI ビジネスも支える銀行

Image credit: Masaru Ikeda

会場を見回ってみた感じた所感だが、オープンイノベーションの文脈で言えば、銀行は一般的にフィンテックに近いと考えられるが、Techsauce Global Summit では、タイの大手銀行——クルンシィ(日本名はアユタヤ銀行)、カシコン銀行、サイアム商業銀行(SCB)——のいずれもがブース出展し、フィンテックのみならず、AI に対する関わりを強調していたのは興味深かった。

これらの銀行は、単なる金融機関の域を超え、タイ経済を支える財閥的な存在である。中でも、特にテクノロジーに傾倒しているのは SCB で、スタートアップやテクノロジーとの関わりを SCBx という組織が牽引している。AI の文脈では、銀行であるにもかかわらず、タイ語に特化した大規模言語モデル「Typhoon」を自ら開発しているのは象徴的だ。

一方で、SCB が社内ベンチャーとしてコロナ禍に創業した SCB Robinhood の6月末の事業破綻発表はタイのスタートアップシーンにも衝撃を与えた。コロナ禍に地元飲食産業への支援を念頭に、手数料無料(その代わり、決済や店舗への送金は SCB が担う)でフードデリバリサービスを展開していたが、損失が約10億バーツ(約41億円)に達し、事業継続が困難との判断から閉鎖に至ったようだ。

東南アジア市場の誤解と新たな可能性

Image credit: Masaru Ikeda

Mimee の開会挨拶に続き、スタートアップのグローバル展開をテーマにしたパネルディスカッションも行われた。パネリストには、BRIDGE でも翻訳掲載している中国のテックメディア TechNode(動点科技)の創設者 Gang Lu(盧剛)氏、イギリスのスタートアップ支援会社 Locate Markets の CEO Tony Hughes 氏、タイの AI 企業 Amity Solutions の CEO Keng Teik Koay 氏が登壇した。SeaBridge の創設者であり「Startup Mindset」の著者でもある Tanakrit Sermsuksan 氏がモデレータを務めた。

TechNode(動点科技)の創設者 Gang Lu(盧剛)氏
Image credit: Masaru Ikeda

Lu 氏は、中国企業の東南アジア進出について、「東南アジア市場に対する誤解がある」と鋭く指摘した。その上で、中国企業にとって次の有望市場として意外にも南米、特にブラジルを挙げた。

(東南アジアは)一つの市場と思われがちですが、実際には非常に巨大で断片化しています。各市場で文化や規制が大きく異なるのです。一方、ブラジルは2億1,000万人の人口を持ち、ポルトガル語という単一言語圏で消費力も高い。今は誰も注目していませんが、先行者利益を得られる可能性があります。

Koay 氏 は、東南アジアのスタートアップについて、自社 Amity Solutions の経験を例に挙げながら、興味深い観察を述べた。

Grab や Sea など成功企業でさえ、まず東南アジア域内での成長に集中してから域外を見ています。しかし、これがすべてのスタートアップにとって正しいモデルとは限りません。エンタープライズソフトウェア企業を見つけるのが難しく、AI タレントも見つけにくい東南アジアでは、欧米市場を見る必要があります。AI を使ってソフトウェアをアップグレードする我々のビジネスにとっては、欧米市場の方が人材を見つけやすく、コストも過度に高くないのです。

Amity Solutions の CEO Keng Teik Koay 氏
Image credit: Masaru Ikeda

Hughes 氏は、進出先を選ぶ際の考え方を「飛行機に乗っているようなもの」と巧みに例え、その上で、最近のイギリスのスタートアップエコシステムの急速な成長を強調した。

(飛行機の中から)下を見て、どの国が自社の存在を許す規制・コンプライアンスを持っているか、どこで自社を成長させられるか考えるのです。その市場での自社のポジショニングをどうするか、競合が多すぎないか、参入の余地はあるか、その市場は自社のような企業を求めているか、を考える必要があります。

イギリスでは、量子コンピューティング、AGI(汎用人工知能)、バイオテック、気候変動対策、クリーンテックなどの分野に取り組む企業には資金があります。アーリーステージの企業なら、自由度と資金を得られる可能性が高いのです。また、レイターステージの資金調達については、ロンドンでは現在、5,000万ドルまでの調達ならシリコンバレーとほぼ同等です。10年前と比べても驚くべき変化です。

パネリストたちは、議論の焦点をタイの競争優位性に移し、それぞれの視点から分析を提供した。

Koay 氏は、Amity Solutions の例を挙げながら、ソフトウェアでは現地語対応が非常に重要で、特に音声ボットやチャットボットでは欠かせないと指摘。これが参入障壁となり、タイ語対応は Amity Solutions にとって独自の優位性になっているとした。また、タイは小さな市場ではなく、東南アジアで上位の経済規模を持つ重要な市場で、政治的に中立であることもメリットだと述べた。

Locate Markets の CEO Tony Hughes 氏
Image credit: Masaru Ikeda

Hughes 氏は、タイには才能ある人材が豊富にいると高く評価し、彼らの野心を実現するためにも、タイ国内市場にとどまらない、より多くの手段を与える必要があるとして、人材育成の重要性を強調した。また、世界中から多くの人が集まるバンコクはデジタルノマドを魅了しているが、地元の人材基盤と融合させることで多様性がイノベーションの源泉となると、その潜在的な強みを説明した。

Lu 氏は、タイの国際性を高く評価した。「タイは非常に国際的な国で、スタートアップがグローバル展開を始めるには理想的な出発点だが、起業家は創業1日目からグローバルを目指し、タイ市場だけでなく世界市場を見るべきだとして、より野心的なアプローチを促した。彼は中国のフォトアプリ企業の例を挙げた(Meidu=美図のことだと思われる)。

このフォトアプリは、創業者は英語を話せなかったにもかかわらず、タイで最も人気のあるアプリの一つになりました。言語の壁は、本当に優れた製品があれば乗り越えられるのです。(Lu 氏)

Techsauce Global Summit 2024 は7日から9日までの3日間、バンコク中心部の Queen Sirikit National Convention Center で開催されている。

Image credit: Masaru Ikeda

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