AngelList創業者Naval Ravikantが語る、成功するスタートアップ・ハブの作り方(2/3)

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左から:Naval Ravikant (AngelList)、Jai Choi (Teckton Ventures)

本稿は、5月14日〜15日に韓国・ソウルで開催されたスタートアップ・カンファレンス「beLAUNCH 2014」の取材の一部である。2日目に行われたファイヤーサイド・チャットのセッションに、起業家と投資家をつなぐソーシャル・ネットワーク「AngelList」の共同創業者 Naval Ravikant が登壇し、スタートアップ・シーンにおけるエンジェル投資やクラウドファンディングの重要性、成功するスタートアップやスタートアップ・ハブの作り方について考えを披露した。

今回はその第二回目である。なお、このセッションのインタビュアーは、サンフランシスコを拠点にスタートアップ向けシード投資を行っている、Teckton Ventures の Jai Choi が務めた。

(トランスクリプションと翻訳:池田 将)

前回からの続き)

話題を変えて、急速に変化しているVCについて話してみよう。シード・インベスターのコミュニティには、多くのアクセラレータがいるよね。この点について、意見を聞かせてほしい。

Naval: それは、ここでもどこでも起こっていることだけど、以前に比べて、プロダクトが格段に安く作れるようになったということが、そのような変化の根底にある。ウェブサイトをローンチするにも、何百万ドルもかつては必要だった。Sun や Oracle からサーバを買って、データベースを買って、Windows を買って、コードも一から書く必要があった。ディプロイが終わって、そこからようやくお客を集めることができたわけだ。

でも、今はすべてのソフトウェアはオープンソースで手に入る。ホスティングも簡単に増やせる。Amazon とか、Rackspace のようなホスティング・サービスを使えばいい。マーケティングも Twitter や Facebook や Google でできるし、カスタマーサービスもオンラインでいいしね。スタートアップを構築するコストは破壊されたわけだ。

かつて気にすべき市場はデスクトップPCユーザだけだっだ。今は、皆がスマートフォンを持っているよね。Google Play や Apple iTunes Store もあるから、マネタイゼーションも簡単になった。会社を作るのも、お客さんを獲得するのも遥かに簡単になったわけだ。

もちろん、そこには激しい競争がある。投資家は、その規模が小さく俊敏になった。アメリカでは毎週のように、2つから4つのシードファンドが立ち上がり、一方で複数のベンチャーファンドが失敗して閉じている。そこで、数十億ドル規模のベンチャーファンドは、こういった小さくて俊敏な1,000万ドルや2,000万ドル規模のシードファンドに資金を渡すようになっている。彼らは、10万ドルとか、30万ドルとか、50万ドルとか、その規模で小切手を書いているんだよ。それが未来だね。

VC業界で破壊的なプレーヤーについても、教えてくれるかな? Andreessen や Y Combinator は、なぜ大きなインパクトを与えているのだろう?

navalNaval: そうだね。イノベーション・ベンチャーは多くなかった。なぜなら、それは実行するのは難しいけど、儲かるものだったから。よいベンチャーキャピタリストなら、その段階で既に儲かるので、何かを変えようとする意思は働かない。この業界には、3つの破壊が試みられていることを述べたい。

Andreessen は、頭から足の先まで、すべてを提供できるフルスタックのVCだ。彼らは少し手を引き始めてはいるものの、シード企業に投資している。ビッグステージの企業にも投資するだろう。積極的で、成長を続けているVCと言っていい。

Y Combinator は、経験が未熟で、リソースに十分にアクセスできない若い起業家や技術者にアドバイスを与えていた。彼らに重要な教育を与え、少しばかりの資金も与えてね。

で、AngelList だが、我々はそれをすべてオンラインでやろうとしている。すべてを透明に、そして効率的に。すべての人に投資家へのアクセスを提供し、オンラインで運営、履歴を記録し、透明に運営される新時代のシードファンドを作るんだ。これをやるのは大変難しい。非常に賛否両論がある。長きにわたって、ベンチャーというのはスケーラブルではないと考えられていた。ベンチャーは職人技で、寿司職人であったり、コーヒーを一杯一杯淹れてくれるバリスタのようなもの。多くの愛情と注意を必要としたのだ。

それはすべて正しいけれど、スタートアップの数や種類や、必要となる資金が格段に小さくなった現在の状況を考えれば、キャピタルの世界にもイノベーションが必要なんだ。

そうすると、アクセラレータには今後、他のビジネスモデルとか市場があり得るのだろうか。

Naval: もちろん。アクセラレータについて言うなら、急成長しているモデルがたくさんあるよ。Y Combinator は10週間のトレーニング・プログラムに起業家を投入し、デモデイの時期に複数のスタートアップを卒業させる標準的なモデルだよね。サンフランシスコには、10万ドルとか20万ドルとかを出してくれるハードウェア・アクセラレータもあるよ。彼らには卒業とかデモデイとかいう概念はなくて、時間をかけてスタートアップをよい状況に持ってゆき、時間をかけて構築するという考え方なんだ。

ロサンゼルスにある Science というアクセラレータは、スタートアップを自ら作って輩出しているんだ。Y Combinator と違って、株式シェアを多くを取るが、大きな資金は出さない。その代わり、そのスタートアップに多くの時間を割く。つまり、すでに出来上がったスタートアップを助けるというよりは、スタートアップを作り上げてスピンアウトさせるわけだね。

他にも大変多くのモデルが試されているよ。500 Startups は世界で成功しているね。彼らは、起業家の居るところなら、世界中どこにでも行くと言っている。起業家をシリコンバレーに連れて行くのではなくて、自分達から起業家の居る場所に出向いているんだ。

アクセラレータのモデルを見て、アクセラレータが多過ぎると言う人がいるよね。アクセラレータが多過ぎる、VCが多過ぎる、スタートアップが多過ぎる、でも、誰もどれが必要のないものかなんてわからない。競馬のようなものだね。競馬では、20頭くらいの馬が出走するけど、優勝できない19頭がどれかなんて、最後まで、誰もわからないんだよ。

競争においては、常に多過ぎるプレーヤーが存在するもの。その中から、どれが重要で、どれが適正なものかを我々は決めて行くんだ。

ロサンゼルスのアクセラレータ「Science」のウェブサイト。
ロサンゼルスのアクセラレータ「Science」のウェブサイト。

この会場には起業家が多いと思うけど、彼らに次の AirBnB や Twitter のようなものを期待しますか? シリコンバレーから学んだ内容を元に、韓国のスタートアップに実現できることとは何でしょうか。

Naval: シリコンバレーでうまく行っていることが、韓国でもうまく行くとは限らない。私なら、今すでにあるものをコピーすることはしないね。

まず、韓国の人が考えるべきなのは、世界でも最も多くのインターネット人口が存在するということ。他の誰もができない、インターネット人口密度の高い場所でこそ可能なサービスが実現できるはずだ。ネットも高帯域だし、それも生かすことができるだろう。

第二に、アジアへの玄関だということ。お隣は中国だ。中国市場にアピールできるものを作れると理解すべきだ。今居る市場が小さいのなら、同じ仕事量をこなしたとしても、大きな市場ならより多くのものが得られる。投資家はそれがわかっているから、サービスを展開する地理的範囲が限られるスタートアップには、投資したがらないんだ。

最後に、もしテクノロジーのスタートアップを作っているのなら、いい技術者を採用し、いいエンジニアを採用し、経営者自身も少しは学習することだ。エンジニアの経歴を持つか、もしくは、それをこれからすぐにでも得ること。難しいことをやるんだ。私は、くだらないことをやっている企業を多く目の当たりにしている。

彼らは、よくこんなことを言う。「YouTube からユーザを取り込んで、彼らを Twitter のユーザとマッチングして、友人が Facebook 上で私のやっていることを知れるようにして便利にする」とかって。そんなのは、シリコンバレーの偉大な企業がやってきたことの足下にも及ばない。

Instagram でさえ、ただのソーシャルなプロダクトに見えるけど、ユーザが写真を取ってフィルターをかけたときに、バックエンドでは技術的に非常に巧妙なことをやっている。写真を撮影したバックグラウンドで、次画面に遷移する前にその写真のアップロードを開始しており、結果的にユーザは、あまり時間をかけずに処理が完了できたように感じられる。一見簡単に見える技術が多く実装されていて、それは実際には難しいものだ。使っているユーザには、簡単に感じられるけどね。

だから、技術や技術者から始めてほしいと言いたい。難しいことを実現し、そして、それを広く消費者が抱える問題に適用する方法を考えるんだ。くだらない問題を取り上げちゃいけない。

例えば、最近、Facebook に買収された WhatsApp。彼らはローンチでは非常にハードな仕事をこなした。iPhone や Android のみならず、Blackberry やガラケーにも、決してやりたくないであろう、J2MEなどのテクノロジーが使えるあらゆるデバイスに実装したんだ。

それはハードで、面倒くさい仕事だ。でも、スタートアップとはそういうもので、コアの技術を持っていなくちゃいけない。もしコアの技術がないのなら、それはメディアビジネスだ。でも、それはここで議論している話じゃない。メディアは全く違う業種で、投資家が求める種類のお金を稼ぐようになりつつあるね。

次回に続く)

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