登山×位置情報×ビッグデータで、世界随一の登山者向けオンライン・コミュニティを目指す「YAMAP」

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先日、日本IBMが初めて手がけるインキュベーション・プログラム「IBM BlueHub」の第1期バッチに選出されたスタートアップ5チームが明らかになった。IBM という技術ドリブンな会社が手がけるプログラムだけあって、5チームのサービスは技術に特化したものが多い。

スタートアップ・シーンには UI/UX にフォーカスしたサービスが多い昨今だが、筆者は副業がシステムエンジニアということもあってか、優れた技術を兼ね備えたサービスを見ると身震いを禁じ得ない。今回は5チームに選ばれたうちの一つ、YAMAP を開発する SEFURI を紹介しよう。

YAMAP が目指すユーザ体験

YAMAP は登山者向けの地図アプリで、携帯電話の電波が届かない山においても、ユーザは位置衛星からの GPS 電波だけで現在地を知ることができる。従来の登山者は専用の GPS デバイスを携帯することが多かったが、常日頃から持っているスマートフォンでほぼ同等の機能を提供できるようになった。インターネットがつながる環境に戻ったら、登山/下山のロギングデータを YAMAP 上に公開できるほか、どのような装備で登ったか、その山にどのようなアトラクションがあったかなどを他のユーザと共有することができる。つまり、地図アプリの領域を越えて、登山者のためのソーシャル・ネットワークへと進化したわけだ。

YAMAP が目指すユーザ体験とは何だろうか。かつて個人旅行系の旅行会社で旅行誌の編集を手がけていた、SEFURI の創業者で代表の春山慶彦氏に話を聞いてみた。

例えば、湯布院に旅行したとしましょう。我々は旅行者に、町の中心部(温泉街)だけでなく、まわりの山も含めて、その地域全体の体験を楽しんでほしいんです。そういう滞在型観光を支援したい。

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SEFURI 代表 春山慶彦氏

旅程を記録してシェアするのなら、韓国の Travelog のようなアプリもあるし、予め滞在先の地図をダウンロードしておき、国際旅行者が 3G や 4G のローミング・サービスを使わなくても現在地がわかる地図アプリ(韓国のスタートアップ。名前を忘れてしまったので、追って追記予定)などは存在する。

春山氏は、技術的にはこのようなスタートアップが開発しているものと同じであることを認めつつも、YAMAP はあくまで登山を中心としたコミュニティ作りにフォーカスしていることを強調した。登山者の体験談が、利用した装備の写真などと共に山ごとに掲載・共有されているので、初めての山を攻略する上で何が必要か、どのようなアトラクションがあるか、登山初心者にとって非常に心強い情報源になっている。

地図とGPS、そこから得られる登山の軌跡データを組み合わせた Trip Advisor のようなサービスにしていきたいと考えている。登山者に広く使ってもらえるサービスを目指しているので、地図アプリの機能の部分で、マネタイズは考えていない。(春山氏)

コミュニティ運営とマネタイゼーション

昨年のローンチから約1年が経過し、YAMAP の現在の会員数7.5万人。月間ページビューは211万件、11月のMAUは2万人に上る。春山氏は、会員数が50万人とか100万人とかのレンジに至るまではマネタイズは考えていないとしながらも、可能性のあるビジネスモデルについて、アイデアを共有してくれた。

登山/アウトドア製品に特化した、価格比較サイト/アプリを作りたい。登山やアウトドア製品というのは、生命に関わるので、誰しもいいものを安く買いたいという思いが強い。一方で、パタゴニア・ノースフェイス・モンベルといったアウトドア製品は、もはやニッチな存在ではない。そのような製品販売サイトへの送客で得られるアフィリエイトが一つの収入源になるだろう。

もう一つは企業広告。登山やアウトドア好きのユーザが集まるオンライン・コミュニティは数が少なく、YAMAPはこの分野に関して規模の大きなプラットフォームになりつつある。今後、観光に関わる事業展開ができたら、そういう広告も集められるだろう。ただ、観光事業に関しては単独ではなく、自治体や他の企業と協業した方がよいと考えている。(春山氏)

SEFURI は春山氏に加え、3人のエンジニアからなるチーム。モバイルアプリのダウンロード件数は9万件だが、IBM BlueHub のプログラムではデザイナーの深津貴之氏らによるメンタリングを通じてUI/UXを改善し、プログラム修了時にはダウンロード件数15万件の達成を目指している。

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資金調達と海外展開

同社はこれまでに、シードラウンドでサムライ・インキュベートから500万円を調達、日本政策金融公庫から1,500万円の融資を受けているが、来春に向けてシリーズAラウンドでの資金調達に動いている。Android アプリの開発を推し進めるため、SEFURI の福岡オフィスで勤務してくれる、Android アプリの開発エンジニアを絶賛募集しているとのことだ。

登山の需要は世界中にあるので、海外展開も積極的に行っていきたい。来春までにサービスを英語に対応。韓国語、中国語対応もやりたい。当初は海外から日本に来る登山旅行者向け(インバウンド)、その後は日本から海外に行く登山旅行者向け(アウトバウンド)のサービスを強化していきたい。

地図会社の地図データを使うと、ユーザに課金しなくてはいけなくなってしまうので、国内は国土地理院のデータを使っている。海外展開時には、Open Street Map を利用することになるだろう。アメリカなどにも登山者向けのアプリを開発しているところはあるが、今ひとつアプリの質がよくない。したがって、大きなチャンスがあると思っている。(春山氏)

YAMAP は、先ごろ福岡市内で開催された「全国Startup Day」でサムライ賞を受賞、2014年のグッドデザイン賞・ベスト100に選出され、ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)を受賞した。

普段山登りをしない人が、ガイドをつけずに登山するのはいささか不安を伴うが、YAMAP があれば、初めての山でも怖くない。今年は、日本国内からも、そして海外からも多くの登山観光客が訪れる、空前の登山ブームということなので、このようなトレンドが後押しして、YAMAP が世界の登山者の必携アプリになることを期待したい。

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