Echelon Asia Summit 2015:「来たれ欧州へ」——ベルリン、エストニア、パリ、ロシアの投資家・起業家がアジアのスタートアップを新市場へいざなう #ECAsia2015

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本稿は、Echelon Asia Summit 2015 の取材の一部である。

ある市場を席巻したスタートアップが、次なる拡大を狙うとき、大きくは2つの方法が挙げられる一つは、地理的な市場拡大。日本市場だけでやってきたスタートアップが海外進出を図るのはこのケース。もう一つは、事業分野の拡大。書籍だけを扱ってきた Amazon が、あらゆる商品を扱うようになったのは、このケースである。

どちらが良いかは一概には言えないし、どちらか一方の選択に頼る必要があるわけでもないが、ビジネスの可能性に飽くなき挑戦を続けるべきスタートアップにとって、世界展開というコンセプトは非常に性に合っているように思える。

このセッションでは、ヨーロッパ各国から投資家、インキュベータ、起業家らが集まり、東南アジアのスタートアップにヨーロッパ市場への進出を促し、その魅力や課題点についてインサイトをシェアした。

登壇したのは、

  • ベルリン、クラクフ(ポーランド)、テルアビブに拠点を置くインキュベータ「hub:raum」の責任者 Min Kin Mak 氏
  • エストニア発の CRM および営業売上管理ソフトウェア「Pipedrive」の共同創業者 Ragnar Sass 氏
  • パリのインキュベータ「NUMA」の国際開発担当 Aviva Markowicz 氏
  • モスクワ近郊のスタートアップ・コミュニティ「Skolkovo」の副社長 Igor Bogachev 氏

モデレータは、シンガポールに拠点を置き、東南アジアとロシアのスタートアップに投資する Frontier Ventures の創業者でマネージングパートナーの Dmitry Alimov 氏が務めた。

ヨーロッパは一市場として考えることができるか?

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「hub:raum」の責任者 Min Kin Mak 氏

EU加盟国が28カ国を数えるように、ヨーロッパは非常に多くの国を抱える市場だ。これらの市場を一つとして捉えるべきか、もしくは、それぞれ別の市場として捉えるか。この質問からセッションは始まった。

Mak 氏は、フランスは保守的であったり、イギリスはアメリカ志向であったりするなど各国各様で、ヨーロッパは決して単一市場として捉えられるものではなく、プロダクトにあわせて適切な市場を選択することが重要だと語った。

エストニア出身の Sass 氏は、各国によって文化が大変異なり、特に旧共産圏である東ヨーロッパ諸国では、期待できるカスタマーエクスペリエンスのレベルに、西側諸国のそれとは大きな開きがあることを指摘。一方で、成熟していない市場というのは同時に新興市場であり、アジアのスタートアップにとっても、大きな事業機会があると語った。

現在、11言語でプロダクトを出しているが、ヨーロッパで市場によって最も異なるのは言語だ。しかも、一つ一つの市場は小さく、旧ユーゴスラビアだけでも8カ国に分かれている。これはスタートアップにとって、大きな問題だ。(Sass 氏)

ヨーロッパの中のどの市場を選ぶか?

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「Skolkovo」の副社長 Igor Bogachev 氏

数ある選択肢のうち、どの市場を選ぶか。そして、この決定には、どのような要素が必要か?

Mak 氏は、各国市場の経済規模と、その市場であるプロダクトが受け入れられるのに要する努力は、トレードオフの関係にあるという。大きい市場は大きな売上を上げられる可能性が高い反面、プロダクトを浸透させたり競合と戦ったりするプロセスが、その分ハードになる。小さな市場にも相応の魅力があるというわけだ。

彼によれば、EU 20カ国のうち(加盟国としては28カ国存在する)、トップ4カ国のイギリス、フランス、イタリア、ドイツの GDP を合計すると、ようやく中国の GDP 規模に匹敵する。

Bogachev 氏は、大きな市場は競争が激しいため、選択を誤ると死んでしまうという。

成熟していない市場では、経験豊かな人々を相手にするのは難しいが、私の知っているスタートアップで、スペインのマドラスにオフィスを構えた例がある。彼らは、生活コストの安いマドラスでサービスの開発を続け、最終的にはアメリカ市場への進出を目指している。(Bogachev 氏)

ヨーロッパに進出する上で、何が一番難しいか?

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「Pipedrive」の共同創業者 Ragnar Sass 氏

エストニアからシリコンバレーへの進出を果たした Sass 氏は、よいパートナーを探すことは重要であり、新市場で人を雇用すること、人脈を形成することが最も難しいと答えた。

Mak 氏は、B2B と B2C によってアプローチが異なるが、B2C においては、よいローカルパートナーを見つけることが、良いビジネスの出発点になるだろうとのこと。B2B においては、法人顧客を自ら開拓することになることが多いので、よい現地スタッフを雇用できることが決め手になるだろう、と語った。

Mogachev 氏は、世界のさまざまな国において、スタートアップのためにビジネス提携先を探してくれる非営利団体が存在することが多いので、こういう組織を積極的に利用すべきだと語った。

パリのアクセラレータ NUMA の Markowicz 氏は、ヨーロッパの3〜4つの異なる国で文化の違いとうまくやっていることができたなら、おそらく、より大きな世界市場に出て行っても、うまくやっていけるだろう、と語った。

ヨーロッパに進出する上で、頼りにできるサポートの数々

アジアの起業家にとって、政府以外の組織から、期待できる支援はあるのだろうか。

この質問に対して、Markowicz 氏は、La French Tech というプログラムを紹介。パリでの居住や転居にあたっての支援のほか、仕事場所の提供、アクセラレータ・プログラムへの参加を促してくれるのだという。

Bogachev 氏は、ロシアを含む各国で税制優遇のしくみがあることを紹介。スタートアップは、できるだけ早く、そのようなしくみの窓口に連絡をとってみた方がよいとのこと。また、Skolkovo はロシアの大企業各社と提携関係にあり、これらの企業をスタートアップをつなぐことで、営業を成長させる上で非常に有利に働くと指摘した。

Mak 氏は、近年、世界各地でアクセラレータ・プログラムが開設されていることに触れた。

新市場進出にあたっては、現地アクセラレータタのこのようなプログラムに参加してみるのも手で、一緒に仕事してみたいと考えてくれる現地の人と出会うための一つの方法だ。(Mak 氏)

で、結局、どの都市に進出するのがよいか?

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「NUMA」の国際開発担当 Aviva Markowicz 氏

このセッションを締めくくるにあたって、モデレータの Alimov 氏は、パネリスト各人に、もし、ヨーロッパに進出するとしたら、アジアのスタートアップはどの街を目指すのがよいか、2〜3つ挙げてくれるよう頼んだ。

Mark 氏:ベルリン。極めてダイナミックで、非常に国際的なスタートアップ・ハブになりつつある。世界中からベルリンに人が集まっており、ビジネス言語として、英語だけでコミュニケーションが成立する。

Bogachev 氏:ロシア。2億人の人が住んでいて市場は大きい。多くの企業はロシアが難しいと考えて敬遠するので、その分、市場に競合が少ない。大きな成功につながる。

Sass 氏:アムステルダム。非常に躍動感あふれる市場。成長力に富んだスタートアップが集まりつつある。(筆者注:オランダ政府は今年に入って、起業家に対するビザ発給条件を大幅に緩和している。)

Markowicz 氏:楽しさを求めるならばパリ。ヨーロッパで、ビジネスが多く集まっているのはロンドンだが、できれば、アジアのスタートアップには、フランスに来てほしい。多様な文化があり、音楽産業も盛ん。

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