“培養肉”の川上を攻めるFuture Meatーー次世代食ビッグビジネスと地球の持続可能性

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ピックアップLab-grown meat could be on store shelves by 2022, thanks to Future Meat Technologies

ニュースサマリー:イスラエルの培養肉スタートアップ「Future Meat」が、シリーズAラウンドにて、S2GやTyson Venturesなどを含む6つの投資家から合計で1,400万ドルを調達した。

本資金は培養肉製造施設の第一号パイロット製品の実現と、動物の細胞から製造されたステーキのコストを肉1ポンドにつき10ドルほどまで削減することを目的に調達された。また植物由来の人工肉(植物のみで生成・再現された肉)とのハイブリッド製品の場合、そのコストは4ドル程度にまで下げることも可能だという。

今回の調達に関してCEOのRom Kshuk氏は以下のようにコメントしている。

今回の調達を機に、我々の培養肉を実験室から工場へ、そして産業パートナーと共に市場へと運び出せることに非常に興奮しています。私たちは現在、グローバルなパートナー・投資家・専門家のネットワーク及びサプライチェーンを構築するだけでなく、2年以内に一般企業が低コストな培養肉の生産を行えるようになるためのサービス提供を目指しています。

話題のポイント:Future Meatが競合他社と異なる点は、同社は培養肉そのものを作り、消費者へ売るというビジネスではなく、培養肉の原型となる肉細胞と、その細胞を組成する製造機の2つを開発し、培養肉を売りたい業者に販売するという戦略を描いている点です。

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Image Credit : Future Meat

これにより、培養肉の製造元になりたい企業は技術がなくても、同社の特許取得済みのマシーンと肉細胞を購入するだけで事足ります。販売・流通などには注力せず、技術力を武器にマーケットの川上部分を独占することが同社の狙いです。

培養肉スタートアップの調達ニュースはここ数年で急激に増加している印象を受けます。

構想自体は2000年台から存在していた一方、その技術的難題の多さにより、長らく陽の目を浴びてきませんでした。しかし現在では見栄えも肉そのもの、かつ実際の肉と変わらない味と栄養を持つプロトタイプがいくつも公に発表されるようになっています。

多くの研究者・スタートアップが培養肉の開発に勤しむ理由は、ただの細胞から肉を再現する技術が新しく画期的だからという点だけではありません。むしろ培養肉が将来的に食肉産業のあらゆるコストを削減し、ビッグ・ビジネス化する可能性があるという点、そして資源の持続可能性という地球規模の問題にも貢献し得るポテンシャルを持っている点が挙げられます。

製造コストの削減という意味では、農場や飼育、出荷、加工に際するコストを激減させる可能性があります。たとえばFuture Meatの特許取得済みバイオ・リアクターの製造プロセスは、餌や納屋、飼育小屋、食肉加工工場などを必要としません。

世界の培養肉市場は、2025年には2億ドル、2032年までに約6億ドル規模へ達するという予測もあります。

そして資源の持続可能性という意味では、農業に起因する森林伐採・水枯渇・温室効果ガス排出という諸問題の解決に繋がる可能性があります。Future Meatの場合、既存の食肉農業に対し、使用される土地を99%、水を96%、排出される温室効果ガスを80%削減できるとしています。

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※ちなみにFAO(国連食糧農業機関)の報告では、地球全体の温室効果ガス排出の18%は畜産業(特に牛)によるものであるとしています。

近年の培養市場は話題に事欠かきません。最近のニュースでは「Aleph Farms」というスタートアップが、宇宙空間でバイオ3Dプリンターにより肉の培養を成功させており非常に興味がそそられます。また、視野を植物由来の人工肉などを含む代替肉市場全体に広げれば、Beyond Meat社は既にユニコーン企業に名を連ねています。

培養肉の背景をふまえると、バイオテクノロジーという現代の最新技術を用いて、水不足や温暖化といった持続可能性に関する地球規模の問題を解決せんと試みる、なんとも壮大で先進的なムーブメントではないかと思わされます。

今後、人類が地球人口増加と持続可能性のジレンマに差し掛かった際や、貧困層にも提供可能な低価格な食糧の提供を試みる場合などにおいて求められるのは、培養肉のような環境及び製造コストを低く抑えられる新しい食糧なのかもしれません。そしてFuture Meatは数年後その一角を担う可能性のある企業であり、今後もその動向には大きく注目する必要があります。

Image Credit : Future Meat

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