スタートアップが資金調達する際に交渉すべき9つの教訓

1月5日、Open Network Live!Open Network Labが定期的に開催しているミートアップ)が開催され、シリコンバレーのスタートアップ専門弁護士であるAugie Rakow氏が、「スタートアップが資金調達する際に交渉すべき9つの教訓」についての講演を行った。シリコンバレーでの経験を元にした内容ではあるけれど、日本の起業家のみんなにとっても有益だと思うのでここで共有したいと思う。Augie Rakow氏のプロフィールはここで参照できる。

1. Better valuation

まず1つめに、「会社の評価額をなるべく高く設定するように交渉すべきだ」という。資金調達の際に評価額はとても重要なのだけど、新しい分野を切り開くスタートアップには比較対象の企業が少ないこともあって評価額の決定が難しい。

そこで、特に投資家側がどうやって評価額を決めているのかを知っておく事が交渉の際に重要になる。「投資家には予算があって、これくらいのお金をつぎ込みたいという状況がある。次にその対価として、できるだけ多くのシェアを持ちたいという意図がある。投資する側の会社の状況や事情に応じてこの予算は変わるし、投資を担当する人の個人的な状況もある」のだ。この評価額決定のプロセスは、一般に「とても感情的」だとのことだ。

では、どうしたら評価額を高めるための交渉ができるのか。

Augie(参加した人は分かると思うけれど、とても親しみのある素敵な人なので、あえてファーストネームで呼びます)の経験によれば、一番重要なのは「複数の投資家に同時に興味を持ってもらうこと」だという。投資家同士に競争心も湧いてくるので、タイミングを調整して同時期に投資を検討してもらえるようにする事が大事だということだ。

評価額を左右する要因については、Open Network Labのマネージングパートナー兼取締役の前田紘典氏からも補足のコメントがあり、「チーム構成も、その”感情”に対してよく効く」とのことだ。「Open Network Labの投資先のスタートアップで、強力な新メンバーを加えたことによって評価額が5〜6倍に変化したチームもある」という。

2. Multiple investors so no single investor controls decisions

2つめに、これは1つめとも関連しているけれど、複数の投資家に興味を持ってもらうことは「投資をされた後にも有効」だという。

つまり、プロの投資家であるベンチャーキャピタルだけでなく、エンジェル投資家や異なる業種や業界の事業会社等からも投資を受ける事で、一人の投資家の、あるいは偏った人たちの意見によって会社をコントロールされてしまう事が少なくなる。

同じような株主ばかりだと、株主たちと社長が対立することもあるので、意見が多様化する事はとても重要なのだ。これにより「会社が強くなる」という。

3. Avoid milestones

3つめに、「マイルストーン投資(段階的投資)は絶対に入れないほうが良い」という。

マイルストーンとは、会社がこれから成功するかどうかは誰にも分からないから、一定の条件をクリアしたら次の投資をするという約束だ。

交渉時にこれを避けるべき理由は明確で、「(1)不確実なリスクをチャンスに変えるスタートアップのマイルストーンは大抵の場合達成できないし、(2)達成したかどうかの判断や合意形成が必ずと言って良いほど問題になるから」だ。

4. No permanent board seat. Make board seats conditional

4つめに重要な交渉事項は、「投資家が取締役の派遣をできる場合は、一定の条件付きにすべきだ」という。

無条件にずっと取締役でいることができると、例えば、投資した後に保有している株を転売しても取締役であり続ける事ができてしまうからだ。

これに対する交渉条件としては、「株式の保有比率に応じて取締役会に加われる」ようにしておくと良いとのことだ。

5. Pay-to-play

5つめの交渉事項は(上の4つめとも関係するけれど)「Pay-to-play(プレーし続けたいならば、追加で払わなければならない)」というものだ。

つまり、「新しい投資ラウンドでも投資をし続けないと、投資先のスタートアップに対して発言し続けることができないようにしておくと良い」とのことだ。こうしないと、投資家が(継続的に)投資をしないのにスタートアップの経営に「タダ乗り」できてしまう。

6. No petty veto rights

6つめに、「投資家の拒否権が会社の経営内容にまで及ばないようにする事も大切」だという。拒否権のせいで、その投資家が賛成しないと何もできなくなってしまうことがあるのだ。

Augieが見てきた一番ひどい(スタートアップにとって分の悪い)拒否権は、「名前を変える際の拒否権(changing name)」だという。また、「事業を変更する際の拒否権(chaging business)」を与えたりすると、不確実な中でスピーディに意思決定を下していかなければならないスタートアップが「ピボット(pivot)できなくなってしまう」ため、これも避けるように交渉した方が良いということだ。

7. Investor should not get the right to approve subsequent investors

7つめには、「資金調達の際に新規投資家を選ぶ権利が、既存の外部投資家側にないようにすべき」というものだ。

スタートアップが更なる資金調達をする際は社長の判断に任せるようにしないと、仲の良い投資家同士でスタートアップの意思決定を握ってしまう事だってできてしまう。

8. No rights to take money out of company. No matter what

8つめの交渉すべき事項は、「投資した資金をスタートアップから取り戻す権利を投資家に一切持たせない」というものだ。

もし、そのような権利を投資家に持たせてしまった場合、会社の事業がうまくいかないときや倒産しそうになってしまったときにお金を取られてしまうかもしれないという危機感を抱えることになる。そうすると、スタートアップ側のメンタリティが保守的になってしまって、ベンチャーらしい「冒険的な試みができなくなってしまう」のだ。

9. Maximize upside; don’t try to prevent downside

9つめは、「リスクを最小限にするような条項よりも、冒険的なチャレンジを後押しするような条項を入れるようにすべき」というものだ。

「一般にベンチャーキャピタルのような投資家はリスクを負って投資する人たちであり、不確実な状況にあっても利益を拡大できるようにスタートアップの持っている良い面を後押ししてくれる(maximize upside)。逆に、これも一般な話だが、銀行系の人たちはスタートアップの持っている欠点や事業におけるリスクを最小限に抑えたいと思っていて、悪いシナリオをできる限り避けたい(prevent downside)と思っている。」

「スタートアップにとって大切なことは、良い方(upside)を見ること」だ。そして「シリコンバレーでは、この良い方を最大化する事ばかりを考える文化がある」とのことだ。なぜなら、「スタートアップが失敗するかもしれないことは誰もがよく分かっているし、投資したお金が返ってこない可能性もよく分かっている」からだ。

だから、「資金調達の交渉の際には、起業家は自分たちの哲学を語って、悪い状況になった場合の話ではなくて成功した場合の利点を語ることが大切」なのだ。

実際に失敗してしまった場合にどのようになっているかと云えば、「返せという投資家は殆どいなくて、次の会社を始めるときには是非投資させてね」という発展的な関係構築につながることがあるとのことだ。そして、「投資したお金を返せというような投資家は、スタートアップ側でも情報が共有されてしまうため人気がなくなり、投資をさせてもらえなくなる」のが現状だという。

9つの教訓について話してきたけれど、投資家との交渉をより有利にするためには、やっぱり「早く収益化する」ことが一番重要だという。「ポール・グラハムのいう”ラーメン代稼ぎ“のようにね。」

僕らでやろう。一緒に

最後に、質疑応答の中で、最近シリコンバレーで主流になっているという転換社債についての話題があがった。Augieが非常に解りやすく仕組み等を説明してくれた上で、前田氏によって、起業家側が投資家側と上手に交渉をしている例として、「Y Combinatorでは、投資先のスタートアップに対して転換社債のための共通の契約書を配布している」という話が紹介された。投資家側はそこに書かれている条件でないと投資をさせてもらえないため、Y Combinatorが送り出す優れたスタートアップに投資したい投資家は「YESというか、投資をしないか、このどちらかしか選択肢がない」という。これに対して、Augieが「僕は弁護士として、一生起業家の味方。そして、僕は日本のスタートアップを心から応援している。日本でも僕らでやりましょう。一緒に」と提案すると、聴衆として参加していた日本の弁護士グループから「僕らが無償で起業家のための共通フォーマット作りを支援します」という提案が即座に上がるやりとりもあった。

Open Network Live!に参加するたびに感じる事は、会場全体がポジティブな空気で溢れていることだ。恐らく、今回それをより強く感じたのは彼の人柄もさることながら、日本の特許事務所で働いていた経験もあるというAugieが日本を心から愛しているからなのかもしれない。そして、この空気こそが昨年9月に初めて訪れたシリコンバレーで僕が感じた空気そのものであり、シリコンバレーがシリコンバレーたる所以なのではないかと思った。

(Photos by @0oyukao0)

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